2020年01月22日 11:01 弁護士ドットコム
栃木県内の7つの宿泊施設で年明け早々、予約したグループが現れない「無断キャンセル」(ノーショー)が発生し、物議をかもしている。被害額はもっとも多い施設で約60万円、全体では250万円以上になるといい、訴訟が検討されている。
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年末年始は宿泊業界にとってはかき入れどき。キャンセルが出ても、すぐに埋まってしまうため、宿泊料も高くなっている。それだけに経営面でのダメージも大きい。
被害にあった旅館の社長は、「直前でない限りキャンセル料は発生しない。年末年始は空きが出てもすぐ埋まります。電話一本で済むのに、なんで連絡してくれなかったのか、ひどすぎる…」とやるせなさを語った。
栃木県旅館ホテル生活衛生同業組合青年部によると、組合内で「新年早々、無断キャンセルがあり、幸先が悪い」という話題が出たところ、同様の被害報告が次々に集まってきたという。
キャンセルになった予約は、1月2日が5件、3日が2件(1月21日現在)。いずれも同じ人物名義の電話で、2019年8月頃からそれぞれ10人分の予約が入っていた。
悪質ないたずらとも考えられるが、このグループが年明け、栃木県内の別の施設に泊まっていたという情報もあり、「仮押さえ」感覚で予約を入れていた可能性もあるようだ。
35万円ほどの被害が出た塩原温泉旅館「湯守田中屋」の田中三郎社長は次のように話す。
「予約時に『パンフレットを送ってほしい』との要望がありました。大人数だったので、他の人への連絡用だと思っていたのですが、今となってみると、他の旅館と比較するつもりだったのかもしれません」
パンフレットが返送されなかったため、予約当時の住所に偽りはなかったようだ。しかし、12月に入って確認の連絡をしようとしたところ、電話はつながらず、ハガキも届かなくなったという。
飲食店などでは、時間までに客が来なかったとき、別の客を入れることもある。しかし、宿泊施設の場合、それをやって万一、予約客が来てしまったら大きなトラブルになる。
「8割ぐらい来ないだろうなという気持ちでしたが、もしお見えになったら大変。こちらから勝手にキャンセル扱いにはできません。連絡がつかなくなると、旅館側はどうしようもないんです」
田中社長によれば、無断キャンセル自体は決して珍しくないという。
「お見えにならないので電話すると、病気になったなどと言い訳なさる方もいれば、キャンセルを忘れていたと正直に話してくださる方もいます」
湯守田中屋では、予約の1週間前からキャンセル料が発生する。無断キャンセルをした客の中には、すんなり支払う人もいれば、知らぬ存ぜぬというタイプもいるそうだ。
「今回の10人はレアケースで、無断キャンセルは大体2人とか。数万円のために訴訟を起こすというのは、費用を考えるとなかなかできない」
通常は「費用倒れ」の問題があるため、無断キャンセルで訴訟になるのは珍しいとされる。
一方、今回は被害金額も大きく、「社会的に無断キャンセルはダメだという機運を高めていきたい」という気持ちから、訴訟をする方向で検討しているという。
では、いざ裁判になったとき、無断キャンセルした客から料金をとれるのだろうか。
飲食店や美容院などの無断キャンセル料金の回収サービス「ノーキャンドットコム」を運営する北周士(かねひと)弁護士は、「法的には料金をとれるだろう」と話す。
根拠は2パターン。1つ目は旅館などのキャンセルポリシーに同意していたとして、規定の料金を払うべしというもの。ただし、今回のような電話の場合は、同意があったとは言えない可能性もある。
そこで2つ目の「損害賠償」パターンだ。ホテルとしては宿泊の準備をして、他の客を断っている。つまり、損害が発生している。こちらなら同意やキャンセルポリシーそのものがなくても通用するという。
ちなみにノーキャンドットコムは「完全成功報酬」(回収金額の3割)。ネックになっていた費用倒れの心配をなくすことで、利用を促している。
ただし、対応するのは「督促」のみ。裁判になるとどうしても別料金にせざるを得ないという。
無断キャンセルはもともとの被害金額が少ない傾向にあり、コストの関係で責任が追及されにくい。意図的な嫌がらせなどでなければ、刑事責任を問いづらいこともある。
では、どう対策していけば良いのか。北弁護士は次のように語る。
「代表的なのは、事前連絡(リマインド)です。多くの場合、これで無断キャンセルは防げます。ただ、今回のように連絡がつかないケースも予防するとなれば、『事前決済の導入』ということになります」
事前決済にすれば、店側の取りっぱぐれはなくなりそうだ。だが、予約の手間が増え、利用者が減ってしまうといった可能性もあるという。レアケースを防ぐため、どこまでコストをかけるかという悩みはつきない。
結局のところ、「消費者のモラル頼み」というのが現状なのかもしれない。