2020年01月19日 09:22 弁護士ドットコム
スプーン曲げなどの「超魔術」で一世を風靡したMr.マリックさん(71)。2019年12月に自身のツイッターで「高齢者の方、返納期がきてます!」と運転免許証を返納したことを明かし、話題となりました。
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運転免許証の自主返納者に交付される「運転経歴証明書」は、免許証と見た目がそっくり。マリックさんは「運転免許証に代わる公的な本人確認書類とは知らなかった」と言います。
1月に71歳の誕生日を迎えましたが、仕事は現役バリバリのマリックさん。なぜ免許返納を決意したのか。迷いはなかったのか。マリックさんの元を訪ねました。(編集部・出口絢)
ーー「#運転免許返納しました」とつぶやいたツイートは、大変な反響がありました。いつ免許返納すると決めたのでしょうか。
返納を考えたのは、2019年12月よりずっと前でした。実は車を手放して、数年経つんです。
きっかけは、まだ免許返納が世の中であまり話題になっていない5~6年前ですかね。車検が切れたタイミングで車を変えようかなと思い、最近の車を見たとき、車の様子が全く変わっていたんです。
鍵をさすところがない。クラッチペダルがない。音がしない。私は長らく外車のマニュアル車に乗っていたから、車が進化していく過程を知らないままでした。
自分が運転できないような車に変わってきたのが怖かった。それで「一から覚えるのもな」と車の買い替えをためらった時に、タレントが交通事故をしたら、記事で大きく取り上げられるようになってきた。
その辺りから「気をつけなきゃいけないな」と用心していて、車に乗るのは大変だなと思い始めていたんです。それと、孫が私の運転を怖がりだしたのも大きかったですね。
ーーお孫さんに運転を注意されたのですか?
ショックですよ(笑)。
これも5~6年前のことですが、運転していたら、後部座席にいた当時11歳の孫が「危ない危ない危ない」、「じいじ、今まっすぐじゃないよ」と言うんです。最初は「何を言ってるんだろう」と思ったのですが、そのあとも「電信柱に寄っていったよ」、「ずーっと寄ってったから危ない」と後ろから一生懸命言ってきた。
その時は自分が正しいのか、孫が正しいのか、よく分からなかった。別の日にカミさんにも「今、危ないじゃない」と言われて、視野が狭くなっていることに気づき始めたんです。
ものすごく印象に残っていますね。「まっすぐに走っていない」と気がつくと怖い。当たってからじゃ遅いですからね。
ーー家族からの指摘が運転をやめるきっかけになったんですね。言われて初めて気づくというのは怖いですね。
車庫入れをするとき、後ろの角なんか見えていないですよね。見えていないのに、ギリギリでバックで駐車する。ということは、人は車を運転する時に、超能力使っているわけでしょ。見えていないんだから。
これは凄いことですよ。その超能力が弱ってくるんですよ。年齢は出ますよ。若いうちはそういう力があるんだろうね。
息子の車なんか乗っていると、最近の車は前にモニターがついていて、それを見て、バックで駐車しているよね。そうすると超能力いらない。自動運転になったら、超能力どころか人間の才能もいらない。ハンドパワーもいらなくなりますね(笑)。
ーー「超魔術」をあやつるマリックさんも、運転する時の「超能力」の衰えには抗えなかった…。それで車を手放したものの、免許返納はしていなかったんですね。
運転免許証を返納したら身分証明書がなくなるので困るなと思って、返納はあまり考えていなかったんです。
カミさんもペーパードライバーなんですが、身分証明書代わりになるからとずっと免許証を持っていた。映画もシニア割引されて1000円で見られるし、役立つんですよね(笑)。
運転経歴証明書がもらえることを知ったのは、2019年9月に秋の交通安全運動に関連しておこなわれた警視庁のイベントでした。
私は「交通安全超魔術ショー」に出演したのですが、同じくイベントに参加していた俳優で歌手の加山雄三さん(82)が、舞台の上で運転免許証を自主返納したと明かしたんですね。そこで初めて、免許返納した後は身分証として免許証にそっくりな運転経歴証明書がもらえると知ったんです。
ーー加山さんの免許返納はニュースにもなっていましたね。運転免許証を返納すると、顔写真付きの運転経歴証明書がもらえることは、まだまだ知られていません。
1月1日生まれなので、ちょうど免許更新の時期が迫っていたんです。身分証と同じように使えるんだったら、運転しないんだから返納してもいいかなと思って、2019年12月10日に運転経歴証明書をもらいました。ずっと持っていたものを捨てるのは、なかなか難しいですよね。
そしたら運転経歴証明書が、あまりにも運転免許証と同じ見た目だったから驚いた。写真を撮ってマネジャーに「顔写真をぼかしてツイッターに上げておいてね」と送ったら、サングラスのスタンプをつけてアップしてくれたんです。
カミさんはあの写真をみて「サングラスかけて、よく写真通ったね」と言ったんですが、「そんなことあるわけないだろ、遊ばれたんだよ」と(笑)。
穴が空いている免許証は持っていたくないし、運転経歴証明書は大正解ですね。特典があるのですが、デパートでズボンを買ったら送料が無料でした。「こんなの持っているんです」と運転経歴証明書を提示したら、「はい、ただです」と言われてね(笑)。
ーー車を手放してからの生活はどうですか。
もうタクシーでいいなと思いました。若い子が車離れするのは、お金がかかるからでしょうね。
東京は駐車代もとても高いでしょう。場所によっては、10分600円のところもある。ちょっとご飯を食べて帰ってきたら8000円。「間違えてないか」とびっくり。ちょっと異常だなと思います。
タクシーは、初乗りが410円。東京に関しては、個人で車を持っていなくても生活しやすくなったなと思いますね。
ーー東京など都市圏と地方では、全く状況が違いますね。マリックさんは営業で地方に行くことも多いと思いますが、どう感じていますか。
地方に行くと、車がないとどうしようもないところも多いですよね。地方の会館などでショーをしますが、みなさん車で来られます。タクシーだったら来ないでしょう。
東京では知り合いにも免許返納した人が何人もいましたが、困っているという人がいなかったんですよ。地方では車は生活必需品だし、この問題は、都市圏と地方に住む人とではちょっと差がありすぎるかもしれないですね。
ーー2019年は高齢ドライバーによる交通事故や逆走が相次いで報道されました。「親の運転を辞めさせたい」と思っている人は、全国にいると思います。
2019年は、ターニングポイントでした。免許返納した人たちの話を聞いていたので、私も「いつかは返そうかな」と思っていましたが、こんな早く返すとは思わなかった。でも、もう70歳で返納したほうがいいですよね。
とはいえ、いきなり「免許を返納しなさい」と言っても、なかなか難しい。人間って意外とやめられないですよ、どこかで何かのきっかけがないと。放っておいても返さない。
車を取り上げるとか、運転を止められる方法を考えないと、自分は歳をとっても運転できるとますます自信がついてしまう。高齢者でいきなり事故を起こす人はいないと思います。皆、ひやっとした経験をしているはず。危ないと思った経験で気づけばいいんだけど…。
マジックは失敗しても笑ってごまかせるけど、運転はとちったら終わり。命は一つしかない。歳を重ねた人は、運転の怖さを知らないといけないと思います。自分のことだけ守っていても、事故は防ぎようがないですからね。