2020年01月19日 09:22 弁護士ドットコム
日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告人の国外逃亡をめぐり、弁護士ドットコムが弁護士へのアンケートを実施した結果、ゴーン被告人が「1日8時間も取り調べを受け、弁護士も同席できなかった」などと主張していた「人質司法」の問題について、50.8%が「納得できる」、22.5%が「多少納得できる」と計7割以上が理解を示した。「あまり納得できない」は10.8%、「納得できない」は15.8%だった。
【関連記事:「殺人以外なんでもされた」元AV女優・麻生希さん「自己責任論」めぐり激論】
アンケートは、登録弁護士にメールを送付する形で1月9日から17日まで実施。120人から回答が寄せられた。
ゴーン被告人が日本から逃亡したことの理由について、「非人道的な扱いを受け、私自身と家族を守るためには、選択肢がなかった」との趣旨の発言をしていることについては、「納得できない」が42.5%で最多。「あまり納得できない」の16.7%と合わせると、6割近くが否定的だった。「多少納得できる」21.7%、「納得できる」19.2%だった。
アンケートでは、自由記述欄で、ゴーン被告人の主張や日本の裁判所、検察の対応などについて、コメントを求めた。
ゴーン被告人に対しては、「保釈中に密出国した人間が何を言っても説得力を持ちにくい」、「有罪判決になる可能性が高いと判断したからこそ、金に物を言わせて逃亡したとしか評価できない」、「人質司法は改善すべきだが、議論のすり替えに過ぎない。人質司法かどうかは関係がない」などの批判が寄せられた。
一方、日本の司法に対してのコメントも非常に多く、「妻との接触を禁じるなど異常な条件は断じて付すべきではなかった。遺憾ながら世界の世論はゴーン氏の肩を持つであろう」「保釈制度の根底には無罪推定という、あまりにも大切な原則があるのに、無実でも否認すれば勾留が続く、世間からは『犯罪者なんだからしょうがない』と言われるのが現実だと日々嘆いている」「刑事弁護を多く扱う弁護士の1人として日本の刑事司法に対する絶望感は日常的に感じている」などの強い批判が目立った。
森雅子法務大臣が記者会見で「無罪を証明すべき」と発言し、後に訂正したことについても、「全世界に恥をさらしてしまった」「為政者の本音を物語っている」などのコメントがあった。
さらに、マスメディアの報道についても、「検察リークと、海外報道の恣意的な翻訳や意図的?な誤訳で一方的立場に都合のよい内容が報道されているのは、日本の世論形成に関して危惧される」、「日本のマスコミが、ゴーン批判で全てを終わらせようとしている論調であることに違和感と危機を感じる」などの指摘が出た。
主な意見については以下の通り(抜粋。誤字脱字などを一部修正)
「ゴーン氏の行動に正当性はないし、ゴーン氏の言動で日本の刑事司法が左右されてはならないと思う」
「ゴーン氏による日本の刑事司法の現状への批判は正鵠を得ているところもありますが、保釈中に密出国した人間が何を言っても説得力を持ちにくいのではないでしょうか」
「密出国という明らかな法律違反をしておきながら、日本の司法制度について批判することは、自己保身の詭弁としか感じられず、およそ説得力がない。ルールを守る気のない輩は、およそルールについて語る資格はない」
「日本の刑事司法については国際的にも問題となる点(弁護人立会権なし、長時間の取り調べ、拘束施設の不快さなど)があるのも事実ではあるが、保釈を認められているにも関わらず逃亡をするということは、ゴーン氏が何を言おうと説得性を持たない。むしろ、有罪判決になる可能性が高いと判断したからこそ、金に物を言わせて逃亡したとしか評価できない。ゴーン氏は有罪判決の割合が高いことを非難するが、それは検察官が慎重に起訴していることの裏返しであり、何ら非難されることではない」
「本件については罪証隠滅逃亡の虞はあったと思う。保釈の判断を慎重にして頂きたい」
「検察の大変な努力が無駄になったことはまことに気の毒で残念。正義を実現してほしかった。人質司法は改善すべきだが、議論のすり替えに過ぎない。ゴーン氏は懲役から免れるために逃亡したのであり、人質司法かどうかは関係がない」
「ゴーン逃亡を他人事のように言っていた弁護団には弁護士の私もイラっとした。国の司法制度は国民の支持がなければ存続しえない。そして弁護人の仕事は国の司法制度の中で行うものである。その基本を忘れ被告人に迎合しすぎた結果が逃亡だったのだろう」
「日本は法治国家です。裁判所も検察庁も法に則って対処しているのであまり問題ないと思います。むしろゴーン氏が保釈条件を破っており、違法でしょう。また、弁護人らも日弁連から懲戒処分を受けるべきと考える」
「ゴーン氏はともかく、有価証券に虚偽記載をしたとされた時期に代表取締役社長を務めていた西川元社長を逮捕、起訴せず、脇役のケリー氏を逮捕、起訴しているのは非常に不釣り合いな気がする。何とかケリー氏には無罪判決を勝ち取ってほしい(被告人が無罪の立証をしなければならないこの国においても、本件で無罪判決が出る可能性は相当程度あるような気がする)。 ゴーン氏に関しては、妻との接触を禁じるなど異常な条件は断じて付すべきではなかった。この点に関して、遺憾ながら世界の世論はゴーン氏の肩を持つであろう。現時点で妻の逮捕状を取るなど恥の上塗りである。地検の特捜部は廃止して、警視庁に特捜部を設けた方がいいのではないか。 なお、ゴーン氏の保釈金は安すぎたといえるでしょう。あわせて50億円くらいは積ませるべきであった。本件を契機に保釈の判断自体が厳格化することはあってはならないが、適正な保釈金を積ませることは重要と考える」
「捜査方法に問題がありすぎる。後付け捜査を許すように公判をなかなか設定しない裁判所にも検察との癒着という大きな問題がある。他の家族との面会は許しておいて妻との面会を許さないこともバカバカしい(他の家族を介して妻にメッセージを伝えることができる以上、証拠隠滅の防止という目的は形骸化している)運用で恥ずかしい。読売新聞等、メディアが全ての悪いことをゴーン氏ひとりの責任とする書き振りも目に余る」
「ゴーン氏は経済犯罪で特に報酬を退職時にもらうことなどは退職慰労金などとして考えられる。殺人や窃盗のような外形的認識ができる行為とは異なる経済犯で殺人犯や窃盗犯と同じ独房や雑居房に入れるのはおかしい。アメリカでも2日後には保釈審問があり逃亡はある程度どこの国でも織り込み済みといえる。
特に、アメリカでは配偶者間で守秘特権があるが、妻との接触を禁止するというのはセンスが悪いと思った。これがゴーン氏の海外逃亡の理由なら納得できる。今後、自宅拘禁やGPSといった仕組みは作るべきだ。検察が執行の見込みもなく立証困難でキャロル氏の逮捕状をとったり弁護士に押収を拒否されることを分かって差押にいくことこそパフォーマンス。キャロル氏も偽証と分かっていたら一時日本に戻らなかったのではないか。
日本も夫婦のためであれば証言を拒絶できる権利を確立すべき。森法務大臣の『無罪の証明をすべき』というのが為政者の本音を物語っている。それこそ金銭的にめぐまれていないと『無罪の証明をすべき』ことはできない。本当に法曹資格者が疑念を持つ」
「法的には、出入国管理法違反の点は免責されないため、保釈取消、保釈金没収、出入国管理法違反あたりは非難されえても仕方ないという点がある。他方、弁護人であれば、ゴーン氏の主張も下手ではあるが、多少理解できるところも多い。
そもそも日本の裁判所、検察庁は特に刑事事件に関しては、現在のビジネス、経済、AI等の技術論から30年以上前の世界にいるのではないか?というほど視点がずれている印象である。
被告人に長期の勾留を行い、自白を迫るのは、日本人が日本人のため、核家族ではなく大家族の時代、などであればそのやり方もなくはないという印象であるが、そもそも今の時代は価値観の多様化、格差社会の増加、グローバル、ITによる国境のなさ、多種のビジネスの増加等明らかに刑事手続は追いついていない印象を受ける。
せめて全面証拠開示、保釈許可(と引き換えにGPS装着等)の増加を行い、もう少し公正であるべきであると感じる。少なくとも欧米の司法手続を知っている者であれば、不公正とまではいえなくても歪な制度であるとは感じる。
実際ゴーン問題を機に捜査機関に不信感を感じる外国人(ホワイトカラー含む)が増えている印象である。また、昨今危機管理やガバナンスの強化から、不正調査を行うこともあるが、そもそも弁護士が行ったとしても聞き取りの方法が悪い手法が見受けられる。
そうすると以下のような事態が生じる。
あるクライアントによる内部不正調査→司法取引の積極的活用→追い出し 続けて人質司法の開始 という2段階の不公正さを生じることになる。
このような事態となると、日本でそもそもビジネスなぞ行わないという選択肢・インセンティブが外国人に生じるであろう(実際香港又はシンガポールが多いであろう)。それでもかまわないという官庁の方はいうかもしないし、マスコミ、国民も支持するかもしれないが、現在は外国人なくして日本の経済は成り立たないのである。そうすれば国益に反することにもなるだろう。
ありうる選択肢としては手続的公正を重視する必要がある。それなくして日本の司法手続が国際世論から耐えられる印象はなく、また、そのような整備をしていれば今回の事件は起きなかったであろう。マスコミに関しても同様であり、マスコミのリークの垂れ流しはやめるべきであろう」
「本体の事件じたいが無理筋。日産内部の権力闘争に検察が乗ってしまった。無罪判決が出されるべきだったが、被告人の逃亡により実質結論がでなくなってしまったことが残念」
「日本の刑事司法の大きな問題点が浮き彫りになったと思います。保釈制度の根底には無罪推定という、あまりにも大切な原則があるのに、無実でも否認すれば勾留が続く、世間からは『犯罪者なんだからしょうがない』と言われるのが現実だと日々嘆いています。このような状況は無知によるもので、世界的に見て恥ずべきことなのに、それが当たり前の世の中に日本がなっていることは本当に恐ろしいことだと思います。そういうことを当たり前に受け入れている人たちが裁判員に選ばれるのも、とても恐ろしいことです。今回の事件が、日本の刑事司法を変えるきっかけになってほしい思います」
「取り調べにおける、弁護人の立ち合い、長期勾留の是正等日本の司法制度については、早急に改めるべき点が多々ある。他の外国の制度と直ちに比較するのは、日本の司法制度の全体を見ていない者の議論だと法務大臣は言うが、そういう言訳は国際的には通用しないと思う」
「任意捜査では捜査が難しいという事件ではなくても簡単に逮捕・勾留を求める警察・検察、そして簡単に逮捕・勾留を認めてしまう裁判所の両方が問題で、この人質司法を改めなければならない。公判がいつ始まるかもわからず、無実でも簡単に有罪になってしまう日本の刑事司法の現状を考えると、ゴーン氏が自分の身を守るために逃亡するのも仕方がない」
「法務大臣の『言い間違い』(TwitterやFBの書き込みもありますので、記者会見をする際に原稿を『読み間違えた』という説明が本当かどうかは、やや疑問)は、ひどかったですね。全世界に恥をさらしてしまった形。記者会見に立ち会っていた官僚(裁判所又は検察庁から法務省への出向組なのか不明)がメモを渡さなかったのもさえないです」
「ゴーン氏の事件をきっかけとして日本の司法制度の在り方も議論されるべきであるが、空港での入出国の管理体制の在り方も十分に議論されるべきと考える」
「入管の不手際の問題なのに、裁判官や弁護人を責める論調が少なくないことに驚いた。法務省は、保釈を厳しくする方向で見直すだろうし、厚労省事件の後と同じように焼け太りを狙っているのだろうか。本当に闇は深い」
「マスコミの検察リークと、マスコミの海外報道の恣意的な翻訳や意図的?な誤訳で一方的立場に都合のよい内容が報道されているのは、日本の世論形成に関して危惧される。過去にも国連から指摘されていた内容であり、検察は全てをさらけ出した上で問題ないと主張出来るのか。あるいは、このような刑事司法運営が先進国として本来進むべき方向であると主張出来るのか。検察は、自信を持って主張し理解または賞賛を求めるべきである。そうでなければ、制度運用を改めるべきである」
「最近の保釈を認める傾向に水を差すのではないかと心配です。保釈金が低すぎたのだと思います」
「フランスやレバノン等の外国の刑事司法制度にも、さまざまな問題があるはず。日本の刑事司法制度だけが問題にされるのは、おかしい。また、日本でも、米国やカナダのように、保釈を許可された者には、GPS機器を取り付け、所在地を把握するようにすべき」
「自分の意思で日本に来て、日本でお金儲けをしたのだから、日本の法律を守らなかったことは非難に値します。しかし同時に、彼を非難するだけではなく、こうなってしまったのはどうしてか(勾留することが原則になりすぎて、保釈中の逃亡防止について真剣に取り組んでこなかったということ)を突きつけられていると捉えなくてはならない、と考えています」
「日本の刑事司法が公平で正義であると自信をもって言えれば、何の躊躇いもなくゴーンを批判できるが、現実がそうではないことは務を通して日々感じているため、ゴーンの行動を全面的に非難ことはできない。けれども、ゴーンの行動を支持することは、今まで人権保障の最後の砦として刑事弁護に携わってきた自分自身の全否定になり、それもできない。ゴーンを批判するとしても、日本社会は、刑事司法の在り方や保釈条件の適否を検証し、今後に活かすために議論を尽くすべきだと思う。日本のマスコミが、ゴーン批判で全てを終わらせようとしている論調であることに違和感と危機を感じます」
「日本の司法制度に問題があるかと問われれば、『ある』ということになるが、それはどのような司法制度、どこの国の司法制度でも同じ回答になる。他国との比較という観点からすれば、日本の司法制度は比較的良い方ではないか。日本の司法制度を海外の制度と比較して批判する先生は、どの国の制度なら許容するのか?理想的な制度はどのようなものなのかを明らかにせずに、また制度全体の構造を考慮せず、部分的な比較で『この部分は日本は●●等に比べて劣っている』としている気がする。実に不毛である。他国との比較ではなく、日本の制度をどう改善するのかという観点なら良いと思うが。
という前提でいくと、ゴーン氏の逃亡に関する主張は納得できないし、これを機に日本の司法制度叩きをしている同業者はいかがなものかと感じている。
裁判所、検察の対応は、情報が少ないのでその当否を判断できない。何となく、『裁判所はもっと保釈保証金の金額を高くするべきだったね、後知恵だけど。ゴーン氏の資産総額等の資料が足らなかったのかな?』とは思う」
「人質司法の問題点についての同氏の主張はもっともと考える。他方、準抗告、保釈に尽力した担当弁護士の立場で考えれば、必死に勝ち取った保釈なのに国外逃亡という形で裏切られたのであり、国外逃亡について正当化の余地はない。
刑事弁護を多く扱う弁護士の1人として日本の刑事司法に対する絶望感は日常的に感じているところである。ゴーン氏の国外逃亡は重大問題だが、本件が国際問題になっており人質司法に対する一石となればという願いはある。
なお、弁護人の責任を追及する論調については不相当と考える」