2020年01月17日 11:32 弁護士ドットコム
男子バレーボールのVリーグ1部(V1)で1位を走る「ジェイテクトSTINGS」(愛知県名古屋市)は1月15日、ツイッターで投稿した内容に関する「お詫び」の声明を発表した。STINGSは試合会場などで撮影した選手の画像をSNSに掲載する際の注意を呼びかけたものの、ファンに混乱を招いていた。
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STINGSは1月15日、公式HP上に「STINGS 公式 Twitter の発言に関するお詫び」と題した謝罪文を掲載した。
「STINGS 公式 Twitter の行き過ぎた発言によりファンの皆さまに不快な思いを生じさせ、誠に申し訳ございませんでした。心よりお詫び申しあげます。 STINGS としましてはファンの皆さまご自身が撮影された選手の写真等について、 営利目的以外であれば SNS 等にご使用いただいて問題ございません。 ファンの皆さまが、SNS 上でチームに関する情報を発信していただいていることは、 非常にありがたいことだと感じております。また、応援や激励は、選手にとって非常に 大きな支えとなっております」
ここでの「行き過ぎた発言」は、1月13日に「お勉強企画」として投稿したツイートを指す。
「【お勉強企画②】肖像権・プライバシー権について。お気に入り選手の写真をSNSのアイコンやプロフ画像に使用されている方も多いですね。選手交流や試合会場の写真や動画をアップする人も。しかし選手にも肖像権・プライバシー権があります。使用してもいいかOKをもらってから使うのが正解ですね」(1月13日午後5時29分投稿)
投稿そのものに法的な間違いはないはずだが、この投稿がなされるや、ファンから疑問の声が次々に上がった。主な意見をまとめると以下のようなものに集約される。「一人ひとりの選手に写真利用の許可を取るのは無理がある。いちいち聞かれる選手も負担だ」、「現在のバレーボール人気を考えたときにSNSは欠かせないツールだ。今回の規制は正しいのか」、「会場に行けないときに、他のファンがアップしたSNSの写真を楽しみにしている」
試合会場には目当てのチームや選手だけでなく、相手チームもいる。「ひとつのチームで判断できることではない」との意見も。
STINGS事務局は1時間半後の午後6時59分に「愛に溢れたご意見を集約して再度ジェイテクトSTINGSとして公式にお知らせしますね(中略)。#発表までは今のままで」と投稿した。
これがファンの混乱をさらに深める結果となった。そもそも、どんな行為を原因として「お勉強企画」の呼びかけをするに至ったのかハッキリしていない。また、「今のままで」と言われたところで、既存のルール自体も明示されていない。ファンとしては、Vリーグの試合を18日に控えている中で、自身の取るべき正しい行動が何かまだあやふやなままとなった。
リーグ1位の人気チームが発信した通達の影響は、STINGSのファンだけでなくVリーグの他チームの選手やファンにも波及していった。
同じV1の「ウルフドッグス名古屋」の高松卓矢選手もツイッターで発言した。
「最近会場で撮った写真をSNSに載せる事に関してのお話が色々上がっていますが、高松に関しては写真いつでもウェルカムなんでドンドン載せちゃって下さい」(1月 13日午後10時39分投稿)。
不安に感じていたウルフドッグスのファンを早い段階で落ち着かせた。
なお、ウルフドッグスはチームとしての見解も公式ツイッターで表明している。 「#ウルフドッグス名古屋 の著作権に関する考え方は、ファンの方々が個人の楽しみとして試合会場や練習会場で撮影された選手の写真の掲載は問題ありません。(選手全員了承済) 」(1月15日午後5時35分投稿)
このような流れを経てSTINGSは15日、記事冒頭で紹介したように謝罪するに至った。それでもなお「なぜこのような事態になったのか経緯を知りたい」という意見もあるだろう。
STINGS事務局が16日、弁護士ドットコムニュース編集部の取材に応じた。
広報担当者は「『お勉強企画』という上から目線で肖像権についてツイートしてしまったことが、中身の是非よりも問題だった。ファンから支えてもらっている立場のチームがそのような言い方をして、不適切な発言と思われたかたもいらっしゃる。不快な思いをされたかたにお詫びいたしました」と謙虚にファンに向けて謝罪した。
お勉強企画を投稿するに至る「きっかけ」となった出来事はなんだったのだろうか。
STINGSは、定期的に練習を公開したり、選手との交流会をもうけたりして、ファンとのコミュニケーションを大切にしている。公開練習や交流会で用意される「選手の撮影会」では、「動画禁止」「1人の選手につき、写真は1枚まで」などのルールが定められてきたという。ファンが増加してくれば、統率のために一定のルールが必要なのは間違いない。
撮影会の場でファンがなんらかの問題行動を起こしたことが原因で、STINGSは異例の「お勉強企画」を投稿したのでは…。そのような懸念に、広報担当者は「具体的な問題はありませんでした。選手だろうがなんだろうが、撮影して二次利用することに一般的な注意を喚起する意味でございました」と否定。
直接的な背景は「テレビ映像を撮影したデータのSNS投稿」と語った。
STINGSの選手が先日、あるテレビ番組に取り上げられた。その番組を撮影した画像や動画がSNSにアップロードされていたという。たしかに、公式ツイッターは1月10日の投稿で「テレビ番組を写メや動画で撮影し、SNS等でアップロードするのは違法です。お控えいただきますようお願いします」と注意喚起している。
「お勉強企画」のツイートもその注意喚起の延長として投稿したものだったそうだ。
改めて、チームがファンに守ってもらうルールを確認した。
「試合」と「練習・交流会」に共通する大前提は「ご自身で撮影したものをご自身でSNSで発信することはありがたい。営利目的以外の利用であれば問題ない」というものだ。
試合会場では、選手本人に投稿の許可を得る必要はない。「試合会場を撮影すると、観客のかたの姿も入る。その一人ひとりに許可を取るのは不可能」(広報担当者)
練習会場や交流会においては、「撮影していただく場面で条件が変わる。その都度、ルールを作る」(前同)とした。
ただし、選手の画像をツイッターなどSNSのアカウントのプロフィル画像に利用することについては「それはツイッター社が判断すること」としてチームとしての回答を避けた。
担当者は「Vリーグの中でも弊チームの選手が注目を集めてありがたいが、配慮が足りなかった」と反省の言葉を何度も述べた。
スポーツも人気商売である。一定のルールが必要なことは間違いない。選手や裏方がファン対応で苦慮する場面もあるだろう。STINGSの一件は、同じ立場で働くスポーツ業界や芸能界の関係者たちも頭を悩ませる問題なのかもしれない。