2020年01月17日 10:12 弁護士ドットコム
不倫相手の女性に中絶を迫ったとして、警視庁が1月8日、大手予備校の有名男性講師(56)を強要未遂容疑で逮捕した。14日に釈放されている。
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読売新聞(1月14日)によると、男性講師は12月下旬、不倫相手の30代女性に「どうしても子を産むなら、わいせつな動画をインターネット上に拡散する」などと脅し、中絶手術を受けさせようとした疑いが持たれている。
男性講師には妻がおり、30代女性は元教え子だった。女性は中絶手術を受けなかったという。
男性講師が問われた「強要未遂」とは、どのような罪なのか。そもそも女性に出産の意思がある場合、男性がそれを止めさせることはできるのか。髙橋裕樹弁護士に聞いた。
ーー逮捕理由の「強要未遂」とは、どのような罪なのでしょうか
強要罪というのは、刑法223条1項に規定されている犯罪です。暴行や脅迫を用いて、相手に義務のないことをさせたり、権利を行使させたりしないという罪です。
これは「害を加えるぞ」という脅迫のみで成立する「脅迫罪」や、脅迫に加えて金銭を強要する「恐喝罪」とも違う犯罪です。
今回の場合、「拡散する」と言われた動画は、恐らく性行為中の動画か裸体の映ったものと考えられますが、これは性的自由や名誉を害する行為です。拡散をちらつかせる脅迫をして、義務のない中絶手術を強いる行為は強要罪ということになります。
ただ今回は、中絶手術という義務のない行為をするには至っていないので、強要未遂罪になります。
ーー男性講師は出産をやめさせようとしたわけですが、そもそも、女性に出産の意思がある場合、男性が止めることはできるのでしょうか
ときどき、不倫慰謝料の相談などで、不倫をした夫、もしくは不倫をされた妻から「妊娠をした不倫相手に中絶手術をさせる方法はないか」、「認知を避ける方法はないか」と相談を受けることがあります。
しかし、中絶をさせる権利も認知を避ける方法もありません。
ーー女性に決定権があるということですね
妊娠は、男女二人の性交渉によって生じるものですので、男性側の意見も一定程度は反映されるべきとは思います。しかし、実情は、生むか生まないかの判断権限は、100%妊娠をした女性にあります。男性が中絶を強いることなどできません。
同様に、子は生物学的な父子関係のある父に対して、認知請求をすることができます。父は妊娠に至った経緯が不倫であることなどを理由に、この認知請求を拒否することはできません。
また、子の認知がなされた場合、子は父に対して扶養の請求すなわち養育費の請求をすることができます。これも子として当然の権利なので、養育費の請求をさせないように脅迫すれば強要罪になりえます。
講師の方は、今回のトラブルで失職するかもしれません。養育費の金額は父母の収入を基礎に計算されますので、父の減収は養育費の算定には大きなマイナスになります。ただ、有名な受験参考書の印税収入があるので、収入ゼロにはならないでしょう。
【取材協力弁護士】
髙橋 裕樹(たかはし・ゆうき)弁護士
無罪判決多数獲得の戦う弁護士。依頼者の立場に立って、徹底的に親切に、誰よりも親切でスピーディな、最高品質の法的サービスの提供をお約束!でも休日は魚と戦う釣りバカ弁護士!
事務所名:アトム市川船橋法律事務所
事務所URL:http://www.ichifuna-law.com/