2020年01月12日 10:31 弁護士ドットコム
天皇陛下の即位を宣言する儀式「即位礼正殿の儀」(2019年10月22日)にあわせて、政府は、軽い犯罪で罰金刑を受けた医師など、資格制限された人を救済する「復権令」(政令恩赦)を公布・施行した。法務省によると、約55万人が対象となっている。
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今回の政令恩赦のあり方について、児童買春や児童ポルノの被害者を支援するNPO法人「ライトハウス」が異議を唱えている。ライトハウスは『即位の礼にあわせた恩赦から、子どもへの性犯罪者は除外してください』というオンライン署名を立ち上げた。
はたして、どのような狙いで署名をはじめたのか。ライトハウス代表の藤原志帆子さんに聞いた。(ライター・玖保樹鈴)
法務省のホームページによると、今回の復権令は、次の2つの条件を満たす人が対象となっている。
(1)罰金刑のみ(複数の罰金刑となった人も含む) (2)刑の執行終了または執行の免除から、2019年10月22日の前日までに、3年以上を経過している
刑事罰によって制限されていた資格取得へのハードルがなくなったり、公民権は回復したりするが、いわゆる「前科」(検察庁が管理している犯歴)が消えるわけではない。
今回の復権令の対象の多くが、道交法違反者と報じられている。政府は内訳を公表していないが、藤原さんは、児童買春や児童ポルノなど、性犯罪で罰金刑を受けた人が含まれる可能性があることを問題視している。
というのも、有罪判決によって、医師などの資格を失ったとしても、今回の復権令によって、ふたたび取得するチャンスを早めることは、被害者の心情を無視することにつながると見ているからだ。
児童ポルノ・児童買春に限らず、痴漢やストーカー、盗撮など、大人への性犯罪者も罰金刑だった場合は、制度上、復権令の対象になる。
そもそも、刑法では、たとえ今回の復権令がなくても、5年が経過すれば、制限されていた資格が回復することになっている。復権令は3年に短縮することになるのだ。
さらに、保育士の場合、児童買春・児童ポルノ禁止法違反で罰金刑になっても、執行終了や執行を受けることがなくなった日から起算して、2年が経過していれば、保育士登録がふたたび可能となっている。
「児童買春や児童ポルノで逮捕された医師や保育士がいても、時間が経てば、ふたたび資格が取得できるというのは、子どもへの性犯罪をあまりに軽視していると思います。日本では、性暴力をする大人ばかりが守られ、被害を受けた子どもの人権が二の次になっていることには、大いに問題があります」(藤原さん)
今回の恩赦には、もうひとつ「特別基準恩赦」という種類がある。法務省のホームページには次のように書かれている。
(ⅰ)病気等で長期間刑の執行が停止されている人に対する刑の執行の免除 (ⅱ)刑を受けたことが社会生活上の障害となっている罰金刑の執行終了者に対する復権
つまり、復権令の対象以外でも、本人の出願があれば、個別に審査されて、その結果、復権が認められることになる。すでに復権令はすでに施行されたが、特別基準恩赦は2020年1月21日まで出願できる。
そのため、藤原さんは、(a)今回の特別基準恩赦が、子どもの性犯罪者に及ばないようにする、(b)次回政府がおこなう政令恩赦では、子どもの性犯罪者におこなわれないようにする――ことをうったえている。
「恩赦という制度自体は否定していません。罪を犯した人を社会から排除することが目的でもありません。しかし、同じ罰金刑でも道交法違反と性犯罪ではまったく違います。性犯罪者に必要なのは、同じ仕事ができるチャンスではなく、治療や再犯防止プログラムへの参加だと思いますが、日本ではその取り組みが遅れています。
政府は、被害者や被害を受けるかもしれない未来の子どもたちに対して影響を及ぼす、恩赦の内容を見直してほしいです」(藤原さん)
法務省は「政令恩赦の内容は、そのときどきの内閣が考えて決めることだ。一回一回、丁寧に、総合的な事情を考慮して、対応すべきことだと考えている」とコメントした。また、特別基準恩赦については、「社会感情などを踏まえながら、(有識者でつくる)中央更生保護審査会が審査する」とした。
藤原さんたちは1月16日、法務大臣あてに署名を提出する予定だ。
・ライトハウスの署名キャンペーン
https://www.change.org/p/法務大臣-即位の礼にあわせた恩赦から-子どもへの性犯罪者は除外してください