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幸福度ランク「世界1位」のフィンランド、午後4時に帰る「100%を求めない」働き方

2020年01月11日 08:41  弁護士ドットコム

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国連の2019年世界幸福度ランキングで、2年連続1位に選ばれたフィンランド。34歳の女性首相が誕生するなど女性の社会進出が進み、ワークライフバランスが浸透していることでも知られる。さらにIMFによると、フィンランドの2018年の1人当たり名目GDPは約5万ドルと、日本の約4万ドルを上回っている。


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午後4時過ぎには多くの人が仕事を終えて帰宅するのに、なお高い生産性を発揮できるフィンランド人の働き方について、「フィンランド人はなぜ、午後4時に仕事が終わるのか?」(ポプラ社)を上梓したフィンランド大使館広報部の堀内都喜子さんに聞いた。(ジャーナリスト・有馬知子)



●定時は4時15分、夏休みは1カ月 資料作成や同報メールに日本との違い

――フィンランドと日本、両国の働き方の違いは何でしょうか。



フィンランドでは、就業時間を午前8時~午後4時15分に定める企業が多く、4時半を過ぎると職場に人はほとんど残っていません。保育園の預かり時間も大抵4時半~5時に終わるので、子育て中の社員は急いでお迎えに行く必要もあります。有給休暇の完全消化は当たり前、夏休みを1カ月くらい取る人も少なくありません。



日本人は残業にあまり抵抗がなく、夜に会議をすることもありますよね。フィンランド人は日本企業の丁寧なものづくり、細部にこだわるサービスをリスペクトしていますが、長時間労働の効果については懐疑的に見ています。



――なぜフィンランドの会社員は、そんなに早く帰宅できるのでしょうか。



4時過ぎに終えることを前提として、仕事を進めるからです。遅い時間の会議は嫌がられますし、早く帰る分、業務時間中は集中して仕事をします。



タスクの量も、日本に比べると少ないと思います。社内向けの資料はあまり作らず、日本企業ほどのち密さも求められません。エコロジーの観点から紙を使わず、データのやり取りですませることも一般化しています。



メールチェックに時間がかかるからと、無暗に同報(cc)メールを送ることもあまり好まれません。ある程度、「任せる」タイプの上司が多く、部下たちのメールのやり取りを逐一把握しないせいもあります。必要なことは電話や口頭で伝えればよいという考え方の人も多いです。





●法定の「コーヒータイム」、職場にサウナも ウェルビーイングを重視

――著書でも紹介されていますが、フィンランドの企業には、「コーヒー休憩」を取ることが義務付けられているそうですね。社員の生産性を高めるのに、どんな効果があるのでしょうか。



フィンランド人は心身ともに健康で、快適に仕事をする「ウェルビーイング」を重視しています。仕事は際限がないですが、集中力は永遠には続きません。たまったストレスを解消し効率を高めるには、休憩が不可欠だと考えられているのです。コーヒータイムのほか、簡単な体操で体をほぐすこともあります。



少子高齢化で労働力不足が叫ばれる中、社員のモチベーションを高めて持続的な組織を作る上でも、ウェルビーイングの視点は欠かせません。サウナを備えた職場も多いんですよ。



――職場にサウナ!お国柄がうかがえますね。



サウナは衣服と一緒に肩書も脱ぎ捨てて、誰もが平等にいられる場です。入浴の合間に外気浴や食事を楽しみ、交流を深めることもできます。



大使館にもサウナがあり、毎週1回職員に開放されます。おもてなしの一環で、日本人の政治家などに入ってもらうこともあります。体験した人は例外なくサウナ好きになりますし、フィンランドへの理解を深めてくれます。





●サービスに100%を求めない お客様は神様ではなく「王様」程度の存在

――「フィンランド流」の働き方に伴う、不便さはないですか?



メールを送った人が夏休みで「ああ、1カ月いないんだった!」ということはあります。でも休むのはお互い様、夏はメールが滞るものと分かっていれば、対応もできます。



人件費が高いためサービス業は慢性的に人手不足で、レストランで長時間待たされることもしばしばです。日曜日は休業する店も少なくなく、組合が強いのでストライキも頻発します。今年は郵便局が2週間以上ストを打ち、配達が止まりました。



病院でも重症でない場合は予約が取りにくかったり、手術を長期間待たされたりします。私もインフルエンザにかかった時、病院に連絡したら「とりあえず家で休んでいて下さい」と言われたことがあります。



――人々に不満はないですか。



国民に「100%のサービスは求めない」という意識が浸透しています。日本では「お客様は神様」と言われますが、フィンランドでは「王様」。敬意は払いますが、無条件に従うべきだとは考えていません。



フィンランド人は教育を通じて、自分の権利を行使し、他者の人権を尊重することを幼いころから学んでいます。人権思想も、働き方に関する許容度の広さにつながっていると思います。ストは不便だが、労働者の賃金が上がるなら仕方がない、医療従事者もワークライフバランスは守られるべき、という具合です。





●政治に後れを取る企業の女性進出 ワーママは仕事に育児に勉強も

――女性の社会進出は現在、どこまで進んでいますか。



世界的に見れば進んでいるとはいえ、フィンランドでも取締役の女性比率はまだ3割程度です。首相を筆頭に女性閣僚が半数以上を占める政治の世界に比べると、経済界のジェンダーギャップ解消は遅れています。



例えば、2カ月を超える育休を取る男性はまだ少数派で、乳幼児の子育ては完全に平等とは言えません。育休が数カ月に及ぶと代替要員を確保する必要も出てくるため、いい顔をしない上司もいます。



ただ最近、こうした「男性差別」を解消し、父親にも子どもと過ごす機会を平等に与えるべきだという考え方が広がり始めました。現政権も家庭内の男女平等を重視し、両親が約半年ずつ育休を取得するといった法整備を進める方針です。



――日本に比べれば、フィンランドのワーキングマザーは恵まれている印象です。



恵まれた環境が必ずしも親の「ゆとり」に直結するとは限りません。むしろ定時まで集中して働いた後も子どもの世話に追われ、とても忙しそうです。さらに多くの女性たちが、仕事と育児に加えて大学院などで勉強も続けており、頑張りすぎじゃないかと思うことすらあります。教育へのアクセスが良く、学びが職場の評価にもつながるからこそ、どん欲に学べるのかもしれません。



一方で、家事にはあまり時間をかけません。給食が高校まで無料で提供されることもあって、家の食事は驚くほど質素。離乳食も手作りせず、出来合いのものを使います。フィンランド人を見ていると、家事はがんばらなくていいんだなと思います。



●1日6時間労働に挑むフィンランド 日本企業もまず変えてみては

――日本企業も働き方改革を進めていますが、課題はどこにあると考えますか。



上下関係や前例、慣習などに囚われ、労働時間の短縮や業務の効率化が進みづらいと感じます。



フィンランドではライフスタイルの多様化に伴い、一部の業界が1日6時間労働を実現しようとしています。比較的フラットな社会で、1人1人の要望が通りやすいですし、まず変えてみて、うまくいかなければやめればいい、という意識も浸透しています。新しい取り組みを恐れない姿勢は、日本企業にとっても参考になるのではないでしょうか。