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20代大学生、実家追い出され「学費と生活費ください」 親は払わなければいけない?

2020年01月10日 10:31  弁護士ドットコム

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大学の学費は、どうしていましたか。両親から学費や生活費を出してもらえなくなったという20代の男子大学生が弁護士ドットコムに相談を寄せています。


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相談者は実家から国公立大学に通っています。最近両親との関係が悪化し、ついに追い払われることになりました。「両親に迷惑はかけまい」と自力でやりくりしようとしましたが、親の収入基準から、奨学金を利用することも難しく「早くも頓挫しそう」と話しています。



今回のような場合、親が「仕送り」をして大学生を扶養する義務は生じるのでしょうか。大村真司弁護士に聞きました。



●別居している配偶者や子どもに支出するケースが多い

ーー親族の扶養義務はどこまでなのでしょうか



親族間には扶養義務があります。条文はいくつかに分かれていますが、縁が薄い場合、さほど強い義務ではありません。



具体的な権利として裁判所の手続で支払を強制できるのは、養育費や婚姻費用などといった形で、通常別居している配偶者や子どもに生活費を支出するケースが典型的です。



学費などが通常よりもたくさんかかっている場合には、その負担を分担するような形で金額が算定されることもあります。



●仕送りの強制は「難しい」

ーーそうなると、大学生の「仕送り」などは、どういう扱いになるのでしょうか



今回のように、仕送りがなかったり、途中で止めたりしたようなケースにおいて、親に対し、支払いを求めることは、全く認められないというわけではありません。ただ、全額認められるわけではなく、現実的に支払いを強制するのはさらに難しいと思います。



未成熟の子に対する義務は、扶養義務の中でも重いとされていますが、必ずしも年齢によって明確に区分されているわけではありません。このため、成人した大学生に対して扶養料の支払いを命じた審判例もあるようです。



その1つの東京高裁の平成22年の決定は、親の同意を得ての進学ではないものの、今の大学進学率や親の収入との比較から大学に行くのが当然、と思われることや、親が話し合いによって一定額の支払いに応じる姿勢であることなどを理由に扶養料の支払を認めています。



この理屈からすれば、おそらく進学時には親の同意を得ている今回の件でも、認められる可能性は十分あると思います。



ただ、この決定での認容額は月額3万円と、学費や生活費のごく一部を認めたに過ぎません。今回の件でも、認められるとしても同様でしょう。



ーー支払いを求めても、少額しか認められない可能性があるんですね



はい。また、相手が同意しない場合、調停、審判といった手続をしなければならず、早くとも何カ月かかかります。



片方の親が学費を払っている前提で養育費として請求するのならともかく、本人が請求する場合は、立替えてくれる人がいませんから、請求はかなり難しいのではないでしょうか。



ーー相談者は家を追い払われてしまったようですが…



相談者が「追い払われる」と言っても、こちらも親御さんが強制することは難しい話でしょう。



基本的に親子関係の扶養というのは、お互いの人間関係と信頼関係で成り立っている部分が大きいのです。文章から察する限り、親の収入が激減したなどの経済的苦境により出せなくなったということでもないようです。



ご両親も、学費や仕送りをしなければ退学して働く以外にはないだろうことは百も承知だと思いますが、一旦は国公立大学に行くことを許し、学費も出してくれていた以上、その意義は理解されているはずです。当然、好き好んで退学させたいわけもないはずです。



「関係が悪化した」ことを既定路線とするのではなく、お互いに譲れるところ、譲れないところをよく話し合って解決する方がいいですし、逆にそれが最善ではないかと思います。




【取材協力弁護士】
大村 真司(おおむら・しんじ)弁護士
広島弁護士会所属。日弁連消費者問題対策委員会副委員長、広島弁護士会 非弁・業務広告調査委員会委員長、消費者委員会委員、国際交流委員会副委員長、子どもの権利委員会委員

事務所名:大村法律事務所
事務所URL:http://hiroshima-lawyer.com