2020年01月09日 10:31 弁護士ドットコム
子ども向け英語教材の営業をしていた女性(48)が、「正当な理由がないのに、嫌がらせ目的で業務を妨害されるパワーハラスメントにあった」として、教材の販売会社などを相手取って、約670万円の損害賠償を求めて1月9日、東京地裁に提訴した。
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女性は2018年4月、業務委託として会社と契約していた。2019年1~3月の期間には関東圏で4位の販売成績をおさめるなど、実績を積んできた。そんな中、上司にあたる同じ業務委託スタッフとのトラブルで仕事を続けることができなくなってしまった。
女性は「業務委託だと簡単に切られてしまう。私のようにならないよう注意して欲しい」と呼びかける。女性が売っていたのは、乳幼児を抱える親なら1度は聞いたことのあるような人気商品だ。いったい何があったのか。
女性は2009年に出産。会社員として働いていたが、海外転勤がある職種だったため「家族で一緒に暮らすために退職した」という。その後、専業主婦として子育てをする中で、子ども向けの英語教材として定評のある商品を購入した。
子どもが小学生となり時間に余裕も出てきたため、仕事を探し始めた。すると、その教材に「時間の融通がきく」という触れ込みで求人があることに気づき、ハガキに掲載された連絡先に電話し、採用が決まった。2018年4月のことだ。会社との契約書には「販売業務委任契約書」とあった。売り上げに連動して、支払われる金額は決まる。
採用が決まると「グループ」に配属される。なお、グループのトップも他メンバーもほぼ全てが業務委託契約だという。
基本は個人での営業活動だが、大きな会場で行われる子ども向けイベントに出展したり、グループが貸し切ったりして商品の案内を行う。関心を示した人にその場でアポイントを取るか、相手からの連絡を待って後日、訪問して契約をとる流れだった。
「電話をかけた時は知らなかったのですが、教材を買った人が採用されると、教材を売った担当者のグループに入ることになるそうです。グループでは月1度の定例会議があり、販売成績や方法などの情報共有が行われます。といっても、販売テクニックなどの技術を磨くなど意味のある内容ではなく、この時間があるなら営業をしたいと思っていました」
女性の所属したグループには、約30名が所属していた。グループを束ねていたリーダーは過去に全国トップの営業成績も残したベテランだった。このリーダーの他、数人がマネージャーとしてグループを仕切っていたという。
女性が「この頃、嫌がらせが始まった」と振り返るのは、入社から8カ月後の2019年3月のことだった。着々と売り上げを伸ばし、月の収入は100万円を超えていた時期でもある。
3月、定例会議の後、グループに所属する他メンバーに呼び出され、「マネージャーたちの宗教を言いふらしているのか」などと約2時間、質問を受けた。「事実無根の濡れ衣を着せられたため、事実関係を立証し反論した」という女性。
すると今度は、「同僚とLINEのやり取りをしていた」という理由でイベントへの不参加を命じられたという。このグループでは、他のメンバーとのLINEや電話の交換を「横つながり」といい、規則で禁じていた。
女性が「謹慎処分にあたるような事はしていない」と反論したところ、その後に入っていた客先訪問のアポイントを全て取り上げられたという。さらに4月には会社のシステムへのアクセス権も取り上げられ、「事実上の休職状態に落ち入りました」と話す。
事態を打開するため、運営会社に相談することも考えたが「会社への連絡は禁止されていました。また、本来は仲裁に入るべき会社からも1度もヒアリングはありませんでした。他に方法がなかったので、弁護士から会社に連絡してもらったところ『他グループへの配属を検討しているが2カ月ほどかかる』との回答だったのです」。
2カ月が過ぎた頃、会社からの連絡は思いがけないものだった。業務委託の終了を告げる通知が届いたのだ。
女性は「実績もあげていたし、仕事は続けたかった。獲得するための重要なイベントにも参加できなくなり、新規の顧客を得ることはできなくなった。業務を続けることができれば、ひと月あたり100万円の報酬が発生していたはずだ。契約を切られる理由はないし、実際に納得のいく説明も受けていない」と悔しさをにじませる。
女性の代理人である田場暁生弁護士は、スタッフ同士がSNSなどで連絡をとりあう「横つながり」を禁止する規約について「表現の自由(憲法21条1項)や行動の自由(憲法13条)を保障した憲法の趣旨に反する必要性のない過剰な行動制限。これに違反したことを理由に不利益を科すことは許されない」と主張している。
さらに、運営会社が規約を廃止するよう監督せず、業務停止命令を女性に通知する際にも、女性に意見を聴取することもなかったことから「業務停止命令を漫然と看過した」と会社側の対応を非難する。
また「業務委託契約のなかには、30日前に予告さえしていれば委託者の意向で任意に契約解除できる、とするような条項が入っているものも多い。もっとも、委託者が正当な理由なく受託者に不利な時期に一方的に解除したようなときは、受託者の損害を賠償すべきではないか」(代理人の片木翔一郎弁護士)と問題視する。
政府の副業を進める方針もあり、業務委託契約は今後も増えていくことが予想されている。契約を交わす際にはお互いに納得がいく場合でも、人間関係のトラブルなど予期せぬ理由で、業務委託契約は簡単に切られてしまうこともある。裁判の行方に注目が集まる。