2020年01月07日 10:02 弁護士ドットコム
「書店で本を撮影するのは違法じゃないの?」。東京都内の名門私大生(法学部)のオキノさんは先日、いつものようにスマホのカメラで書店に並んだ本の中身を撮影すると、友人にこのように指摘されたという。
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オキノさんは、5000円をこえる専門書籍は図書館で借りている。しかし、人気がある書籍の最新版は「貸し出し中」のことも少なくない。そんなときは、近くにある生協の書店で必要なページを無音カメラで撮影しているそうだ。
「撮影したページの写真を同じゼミの学生や友人にLINEで送ったこともあります。店員に注意されたことは今までないですね。やっている人も多いし、撮影するページも多くないです。法学部の友人は『窃盗罪にならないよ』と言ってくれましたし」とオキノさんは話す。
書店で本を撮影することは犯罪になるのか。また友人に送る行為に法的な問題はないのか。唐津真美弁護士に聞いた。
ーー書店で本を撮影する行為は「窃盗罪」にあたるのだろうか
「本自体を勝手に書店から持ち去る万引きは、刑法上の窃盗罪にあたります。しかし、窃盗罪の対象は『財物』を盗む行為であり、『財物』とは有体物、つまり何らかの『かたち』のあるものを意味します(例外として、電気は刑法上の財物だと規定されています)。
したがって、本のページをスマホで撮影して情報だけを持ち出す行為は、窃盗罪にはあたらないことになります」
ーー「窃盗罪」が成立しなくても、ほかの刑法上の犯罪にあたる可能性はあるのだろうか
「あります。写真撮影禁止が貼り紙などで明示されている場合には、建造物侵入罪が成立する余地があります。裁判所は、誰もが出入りできる場所でも、管理者等の意思に反する立ち入りは『侵入』だととらえているからです。
撮影行為が書店の営業の妨害になっている場合には、業務妨害罪が成立する可能性もありますし、撮影に気づいた店側から退店を求められたのに許否すると、不退去罪が成立することになります」
ーー本のページを撮影する行為は、著作権法に違反するのだろうか
「本に含まれる情報の多くは、文章や写真、絵などの著作物なので、著作権侵害も考える必要があります。著作物を撮影する行為は『複製』にあたるので、無断でおこなえば著作権侵害になるのが原則です。
ただし、著作権法には、私的使用目的であれば、使用する本人は著作権者の許諾を得なくても著作物の複製ができるという例外規定があります。したがって、自分だけで使う目的であれば、本を撮影しても著作権侵害にはなりません」
ーーオキノさんは撮影したページを友人に送ったこともある。このような場合も「私的使用」といえるのだろうか
「著作権法上の『私的使用』の範囲は『個人的又は家庭内その他これに準じる限られた範囲』という狭いものです。一般的に、仕事で使う目的や、グループ内で情報をシェアする目的がある場合には私的使用目的にはあたらないと考えられています。
また、もともと私的使用目的で撮影した画像でも、インターネットにアップする行為(公衆送信)は認められていません。LINEで1人だけに写真を送る場合には『公衆』送信にはあたりませんが、LINEグループへの投稿は、メンバーの数によっては公衆送信にあたる可能性があるので注意が必要です。
さらに現在、書籍や漫画などの静止画のダウンロードの違法化が検討されています。立法化されれば、撮影した画像をシェアし、他人がそれをダウンロードした場合、他人に著作権侵害をおこなわせる可能性があることにもなります」
ーー本屋で本のページの写真を撮影する学生はほかにもいるという。話を聞くと、「悪いこと」だという認識を持っていないようだ
「オキノさんのように『犯罪にならないならOKでしょ』という方には、『法は最低限のモラル』ということを知ってもらいたいと思います。
多くの人が書店で必要なページをコピーして立ち去るようになった場合、店頭で本を手にとることができる営業形態や、さらには作者の著作活動にどのような悪影響を及ぼす可能性があるのか、広い視野で考えてみてほしいと思います」
【取材協力弁護士】
唐津 真美(からつ・まみ)弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。アート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般を主に取り扱う。特に著作権・商標権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス、執筆、講演多数。第一東京弁護士会仲裁センター・仲裁人。
事務所名:高樹町法律事務所
事務所URL:http://www.takagicho.com