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「母さんです」――本当に子ども向けアニメ!?『機動戦士Vガンダム』の壮絶トラウマシーンを改めて振り返る

2020年01月02日 09:10  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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僕は子供の頃から今に至るまで、ガン消しをコツコツ収集している。特に小学生の頃にガシャポンを回して手に入ったVガンダムは、かなりのお気に入りだった。

だけどVガンダムが活躍する、1993年放送のアニメ『機動戦士Vガンダム』は、正直あまり好きではなかったというか、ぶっちゃけ怖くて観るのをやめてしまった。リアルタイムでせっかくのガンダムを観ないなんて今思うと勿体ないんだけど、あれは子供が観るにはきつい描写が多かった。

結局中学生になってようやくVHSで観ることになったんだけど、やっぱりそれでも怖い思いをした。はっきり書いてしまうと、本作はやたらとトラウマになる描写が多い。まあ、戦争を描く作品なので、さっきまで笑ってた人間が死ぬということは当たり前なんだろうけども。

ということで今回は、このVガンのトラウマ描写について書きたい。(文:松本ミゾレ)

ガンダムファンに語り継がれるザンスカール帝国の暴虐非道ぶり

はじめに断っておくが、このコラムは決してVガンを批判したり、中傷する意図によるものではない。映画『エイリアン』を観て「残酷だ!」と感じるのは当たり前で、それが批判では決してないように、Vガンを観てトラウマを感じるのも、それは自然なことだ。あくまでもこの作品を象徴する恐ろしいシーンの代表例を振り返ってみたいだけなのである。

ことにVガンのトラウマシーンを論ずるとなると、多くの方々はシュラク隊や水着のおねえさん蒸発シーン、悲惨な死を遂げた母の首を持つウッソの「母さんです」あたりをすぐに思いつくことだろう。あれらは本当に恐ろしい。

しかし、僕が一番恐怖を感じたのが拷問シーンだ。

『機動戦士Vガンダム』という作品には、敵方としてザンスカール帝国が存在しているが、この帝国ではギロチンを用いた処刑を行うなど妙に血の匂いを感じる不気味さが付きまとう。それに、ザンスカールのMSは、真っ赤な猫目を見開いて襲い来るという独自の機能をも有している(全ての機体がそれをやるわけではないが)。

さらには巨大なタイヤつき戦艦を地上に降下させ、そのまま爆走。人々を都市ごと平らにしてしまうという残酷極まりない作戦を展開するなど、常軌を逸した存在感を発揮している。

そんなザンスカール帝国は、当然拷問にも手抜かりがない。「それ、やめて~」と感じるドギツい描写が、物語の序盤も序盤の7話「ギロチンの音」でのオイ・ニュング拷問シーンだ。

オイ・ニュングは反ザンスカール帝国のレジスタンス組織、リガ・ミリティアの中核を担う老人。劇中年齢は70歳。宇宙世紀モノである本作では、シャアやアムロの活躍していた頃を生きてきた人物である。

だからこそ、ガンダムという存在の重要性を自分の組織においてもかなり強く意識してきた節もうかがえる。そういう人物なので、子供の頃の僕はてっきりこの老人はせめて中盤ぐらいまでは生き延びると踏んでいた。

しかし彼は早々にザンスカール帝国によって捕縛され、苛烈な拷問を……具体的にはまぶたをテープのようなもので固定され、眼球をむき出しにされたまま強烈なライトを浴びせられ続けるという地獄を見る羽目になる。このシーンがまさに、僕がリアルタイムでの視聴を断念した直接原因だ。今でもこの場面は早送りしてしまう。

93年当時の僕はこの時点でチャンネルを変えていたのでその後の展開は知らなかったが、オイ・ニュング老人は直後に退場。しかもギロチンにかけられての公開処刑という最期を遂げたことを知ったときは絶句した。

終盤の老人特攻シーンも考えてみればなかなかのトラウマ…

さて、Vガンという作品には、他にも当然トラウマは山ほどある。先ほどもちょっと触れたが、シュラク隊という女性だけで構成された、リガ・ミリティアのMS部隊もなかなかにエグい最期を迎える運命にある。

少年である主人公ウッソの目の前で爆死する者。敵MSの攻撃によってコクピットがへしゃげて潰れてしまう者。崩落するマスドライバーの支柱を自分の乗るMSで支えたところ、敵のビームサーベルでコクピットごと潰されてしまう者。

シュラク隊最後の1人になりながらも、最終決戦まで生き延び「お、これはもしや生存するのか」と期待させておいて、無残にもやはりコクピット(コクピット多いな)を撃ち抜かれる者。

シュラク隊のメンバーは結構な数がいたが、それぞれがムゴい死を迎えてしまう。こういう死の連鎖を淡々と描写していたために、中学生のときも「子どもが観るアニメではない」と感じていた。それは今もあまり変わらない(笑)。

終盤、リガ・ミリティアの主要メンバーである大人たちによる特攻シーンもエグかった。このシーン、苛烈を極める最終決戦において、戦艦リーンホースJr.内の指導者や老人たちが若いクルーを退去させ、自分たちだけの操縦で敵艦に特攻を仕掛けるというものである。

リガ・ミリティアの主要メンバーは、前述のオイ・ニュング同様、結構な高齢者が多かった。Vガンで描かれる戦いというのは、この老人たちがシュラク隊などを代表とする若者や、ウッソという子供を戦場に立たせてしまっているという事実があって成立している。

本作の当該シーンは感動的な挿入歌が流れつつ、今まであんまり役に立ってなかった大人たちが覚悟を決めたり、中破されたMSに乗り込んで砲台の役目を担うなど、一見素晴らしい。だけど、本当によく、これだけトラウマになるシーンを描けたものだと戦慄する。もちろんこれは褒め言葉だ。

若者をさんざんリガ・ミリティアの戦士として前線に立たせまくっておいて、いざとなったら自分たちはかっこよく特攻をしたがるなんて……。個人的にこのシーンは、シュラク隊全滅やギロチン、地球クリーン作戦など足元にも及ばないトラウマで、まさに「大人の自己満足」を見事に描き切っていると感じる。

僕にとって物理的なトラウマが老人への拷問なら、精神的なトラウマは老人たちの身勝手な特攻なのだ。

と、このように語ろうとすればいくらでも語れてしまうのが本作なのである。その割にはイマイチ話題になることが少ないVガン。未見の方。あるいは昔観ていたけど、あまり内容を覚えていないという方。お正月休みにでも、是非! 一緒にトラウマを共有しよう!