トップへ

Appleの行く年来る年(後編)、頭一つ抜け出るiPhone、サービス成長のメリットなど、2020年を予測

2020年01月01日 08:02  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
●iOS 12の安定性ふたたび、OSメジャーアップデートに期待すること
Appleの行く年来る年、2020年のAppleについて語る後編です。

Appleに関するリーク情報というと、一昔前は石だらけの玉石混交でした。近年はアナリストのMing-Chi Kuo氏やBloombergのMark Gurman氏などによる精度の高い情報が見分けられるようになりました。一昔前のように根拠のないリーク情報にApple株が影響されることが減り、逆に正確な分析が、未発表の製品について語らないAppleの製品ロードマップのようになっている面があります。まずはそうした実績のあるアナリストやジャーナリストに絞り込んで発表が噂されている製品をリストしてみました。

13インチMacBook Pro、シザー構造のキーボードを搭載
iPad Pro:マルチカメラと3Dセンサーを搭載か
iPhone SE 2:iPhone 8ベースで4.7インチのディスプレイを搭載、プロセッサはA13
iPhone 12/ iPhone 12 Pro:5Gネットワークに対応、リアに3Dセンサー搭載か
Apple Watch:プロセッサのスピードと効率性を向上させられるタイミングで睡眠トラッキングに対応か
サービスバンドル:Apple TV+、Apple News+、Apple Musicなど
HomePodの廉価版
AR/VRヘッドセット:2020年登場と報じられたこともあったが、2021年以降に延期という噂
Appleタグ:プロジェクトは存在するものの、製品が出るか、いつ出るかは不確か

例年通りなら2020年もAppleは、初夏に開発者カンファレンスWWDCで5つのOSのアップデートを発表し、秋のiPhone新製品発売のタイミングで正式版をリリースするでしょう。次期メジャーアップデートに期待することは、安定性とパフォーマンスの改善を優先したアップデートです。2019年秋にリリースされたメジャーアップデートはベータ段階から不安定で、リリース後に短期間でバグ修正やパフォーマンス改善のためのアップデートが繰り返されました。これは昨年のアップデートに限った問題ではなく、iOS 12を除いて、ここ数年バグ問題の議論が毎年のように広がっていました。

いくつかの新機能を翌年に持ち越して、安定性とパフォーマンス向上に力を注いだiOS 12 (2018年秋リリース)は、発表時には地味なアップデートと見なされました。しかし、正式版公開後には上々の評価を得て、目新しい機能以上にユーザーに歓迎される改善になりました。5種類のOSが存在し、それらがiCloudを介して連携するプラットフォームで、毎年同じ時期に、一気にアップデートを提供するサイクルの限界が指摘されています。iOS 12の時のように2年サイクルにしたり、またはDeep Fusion(2019年)やポートレートモード(2016年)を機能アップデートで秋に追加したように、9月には土台となるOSアップデートのみ提供して新機能は1年を通じて順次追加していくといった方法が開発者コミュニティから提案されています。

2019年に始まったサービスの中でも、Appleが特に「Apple TV+」に力を注いでいるのは明らかです。Apple Musicの時と同じように長期戦でユーザーを増やしていく構えで、新しいAppleデバイス購入者の無料トライアルを1年に延長する限定特典を用意しました。

無料トライアルが終了するユーザーを有料サービスに呼び込むために、魅力的な作品の継続的なリリースが重要になります。映像プロダクション買収の噂もあります。サービスバンドルはApple TV+やApple Arcadeが始まる前から、多くのApple製品ユーザーの関心を集めていましたが、2019年に提供されることはありませんでした。可能性の1つとして、1年間の無料トライアルの終了が始まる秋に備えて用意されるのではないかという期待が高まっています。

16インチのMacBook Proの強化点が、13インチのMacBookにも導入されるのは自然な流れでしょう。また、1年半~2年ぐらいのペースでアップデートされてきたiPad Proは、サイクル通りなら新モデルが登場する年になります。

さて、注目点は「1,000ドル前後のデバイス」です。現在のラインナップは、iPad Proが11インチ 799ドルから、12.9インチが999ドルから。そしてMacBook Airが1,099ドルから、MacBook Proが1,299ドルからとなっています。1,000ドル以下はiPad、1,100ドル以上でMacBookというような棲み分けができていて、よく売れる「1,000ドル以下のノートPC」がAppleにはありません。「1,000ドル以下のノートPC」を購入する人達にはiPad Proを勧めるAppleの声が聞こえてくるようなラインナップです。

しかし、16インチのMacBook Proの強化点などを見ると、全てのPCユーザーをタブレットユーザーに変える限界をAppleが認めたように思えます。便利ならタブレットで十分というPCユーザーがいるのも事実ですが、PCでなければダメなPCユーザーが多いのも事実。それならよく売れる1,000ドル前後のノート型Macを復活させるかもしれません。そうなると新しいiPad Proと価格が重なる部分ができて「食い合い」が起こる恐れがありますが、タブレットではダメなPCユーザーが多いのならApple製品ユーザーの拡大につながります。

ARMベースのMacは登場するか? 熱い話題ですね。MicrosoftはすでにARMベースの独自プロセッサを搭載した「Surface Pro X」を販売しています。ARMベースのプロセッサを活かせるのはモバイルであり、Appleでモバイルノートというと12インチの「MacBook」でした。しかし、12インチMacBookが切り拓いた新しいノート型MacがMacBook Airに引き継がれ、MacBookはラインナップから姿を消してしまいました。見方を変えると、現行モデルがないMacBookはARMベースになるような大胆な変更が可能です。ただ、iOSアプリをMac用アプリに移植する「Catalyst」が期待ほど順調ではなく、Apple基準の体験の実現を考えたら課題が少なくありません。

●5Gだけではない、Aプロセッサの性能向上も注目点
iPhoneの5G対応が実現したら、5Gの普及とiPhoneの双方の追い風になると言われています。Qualcommとの訴訟問題が解決した今年、iPhoneが5G対応しない理由はありません。

また、現在のiPhone 11の後継機種にもOLEDによる有機ELディスプレイが採用されるという噂があります。iPhone 11の液晶は高品質ですが、有機ELに比べると黒の美しさなどに違いがあり、iPhone XやXSからiPhone 11に移るとその違いが気になります。今のiPhoneの普及モデルはiPhone 11であり、サイズ感などからiPhone 11に興味があっても、有機EL機種を使っていたユーザーにはディスプレイが障害になってしまいます。全てが有機ELディスプレイになるなら、その問題は解決です。

そしてもう1つ、5G以上のインパクトになりそうなのがプロセッサです。iPhone 11 Proなどが搭載するA13はA12に比べると性能向上が小幅でした。製造プロセスが7nmのまま変わらなかったためで、昨年は7nm世代のプロセッサを導入し始めた競合に追いつかれる結果になりました。2020年のAプロセッサは5nmプロセスに進化しそうです。それもA12の時のように、他に先駆けた採用になって、Aプロセッサの処理性能や効率性が再び頭一つ抜け出る可能性があります。もちろん、その処理性能は新しいiPad Proにも活かされるでしょう。

しかし、いち早く5nmのプロセッサとなると価格に響きます。事実、A12を搭載したiPhone XSシリーズやiPhone XRは高い価格がネックになりました。今回はさらに5G対応や3Dセンサーも価格を引き上げる要因になりそうです。ところが、2020年のiPhoneはそれほど大きな値上げにならないと報じられています。

2019年度からAppleはiPhone、iPad、Macの販売台数の公表を止めました。「iPhoneの販売台数の下落を隠そうとしている」というなかなかキビしい声が飛び交いましたが、代わりにAppleはハードウエア事業とサービス事業それぞれの粗利益率を開示し始めました。そこから今年のiPhoneがそれほど値上がりしない理由を読み取れます。

Appleは2012年頃から38%前後の粗利益を確保しています。その内訳を見ると、サービスが大きく成長し始めた2017年頃からハードウェアの粗利益を抑え、ユーザー拡大の効果が出始めたサービスの粗利益を引き上げて、全体で38%前後にしています。

つまり、粗利益率の高いサービスの伸びによって、ハードウェア製品は値上げを抑えながら、以前よりもアグレッシブに、また多くの新しい技術や機能をユーザーに提供できるようになっているのです。

●5G時代の新デバイスがAppleから登場する可能性
2020年はA14プロセッサと5G対応でiPhoneの回復を強く印象づけられる年になりそうです。だからといって、そのままiPhoneが5G時代の主役を担い続けるとは限りません。

5Gの特徴である「高速大容量」の通信によって動画ストリーミングが楽しみやすくなるし、「低遅延」はオンラインモバイルゲームの幅を広げてくれるはずです。Appleが2019年に投入した新サービスは5G時代を見据えたものだったと言えます。でも、それらは5Gで開ける可能性の一部でしかありません。まっさらな状態で、5Gの特徴を踏まえて次世代のモバイルデバイスを思い描くとして、今のスマートフォンのようなデバイスを想像するでしょうか。今日のモバイルの延長としてスマートフォンは5Gの立ち上げと普及に重要な役割を果たすでしょう。しかし、今のスマートフォンが5Gのポテンシャルを存分に発揮させられるデバイスかというと疑問符が付きます。

PCからWeb、そしてモバイルへと時代が移り変わっていく過程で、テクノロジーはより広く、より多くの人々にリーチしてきました。スマートフォンは情報やテクノロジーの民主化に大きな貢献を果たしましたが、5G時代の到来が実感できるようになった今、5Gの可能性を存分に引き出せるデバイスやサービスが求められます。

それは新たなスタイルのスマートフォンかもしれません。噂のAR/VRデバイス、ARMベースのApple独自のプロセッサを搭載したMacが、そうなるかもしれません。でも、今のAppleにMacintoshやiPod、iPhoneのような製品を作れるでしょうか。過去10年度々指摘されてきたことです。Walt Mossberg氏がThe Vergeに久しぶりに寄稿した「Tim Cook's Apple had a great decade but no new blockbusters」で次のように書いています。

「過去10年でAppleは大きく成長した。2019年度の売上高は2009年度の6倍だ。新しいヘッドクォーターはペンタゴンより大きい。また、5つの事業はそれぞれがFortune 500の規模である。しかし、プロダクトはどうだろう? そしてカルチャーは?」

Tim Cook時代にもAppleはApple WatchやAirPodsといった素晴らしい製品を送り出しています。また、過去10年の企業としての成長は大成功と呼べるものです。MacintoshやiPhoneのようなゲームチェンジャーと呼べるハードウェア製品の再現を、いつまでもAppleに求め続けるのが間違いなのかもしれません。でも、10年以上前のAppleを知っている人達は、5G時代の到来でAppleの革新を起こす力に期待してしまいます。

Mossberg氏によると、Cook氏は自身がプロダクトの人ではないため、製品づくりに関しては最高デザイン責任者のJonathan Ive氏に全てを任せてきました。Ive氏は存分に力を発揮しましたが、バタフライキーボードのトラブルのようなデザイン優先の問題も生じました。「何人かのインサイダーによると、アイヴのデザインチームに(プロダクトの)全権を与えたことで、ジョブズ時代に保たれていたデザイナーとエンジニアの間のバランスが、少なくとも今年の初めにアイヴがAppleを去るまで失われていた」(Mossberg氏)。

Ive氏が去った後のAppleで、ハードウェア製品を生み出すリーダーシップがどのように機能しているかは不明です。もしかするとデザイナーとエンジニアのバランスが回復したかもしれません。プロダクトのリーダーを失った穴をうまく埋められていない可能性もあります。新たな体制で「プロダクトのApple」の力が発揮されるか、これからのApple製品の注目点の1つになります。(Yoichi Yamashita)