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映像ストリーミングに浮上した新時代の「クレジット問題」 映像クリエイターからも批難の声

2020年01月01日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 毎月新たに配信される映画やドラマ、ドキュメンタリー作品が膨大な数にのぼるNetflixやAmazonプライム・ビデオ、Huluなどの映像ストリーミング各社。


(参考:Netflix、YouTubeが失速? Apple、ディズニー参戦で新時代迎える“動画ストリーミング戦争”の裏側


 2010年代の映像ストリーミング勢力図を振り替えると、地上波テレビやケーブルテレビを止めて、ストリーミングで作品を見る「コードカッティング世代」や、シリーズを一気見する「ビンジ・ウォッチ」などの新たな消費形態を生んだこれらの映像ストリーミングの戦略と影響力は、旧来のハリウッドの延長線上とは異なり、2010年代以降の映像産業構造を新たに塗り替えたといっても過言ではない。


 近年では、大物俳優や有名監督がオリジナル作品を配信するために参加するなど、クリエイターの知名度と経歴ではハリウッド映画に肩を並べる作品が登場してきたが、ここにきて映像クリエイターや製作者を評価するアプローチが低いと指摘する人たちがいる。


 Netflix初期から配信してきたアニメ・シリーズ『ボージャック・ホースマン』のクリエイター、ラファエル・ボブ・ワクスバーグは、映像ストリーミング企業は番組制作者たちの功績を蔑ろにすべきではないとして、運営方針に苦言を呈した。


参照:https://comicbook.com/tv-shows/2019/12/26/bojack-horseman-creator-netflix-end-credits/


 ここで問題視されるのは、NetflixやAmazonプライムなどでエンドクレジットを遮って挿入される別番組の予告動画や、クレジット画面が自動で縮小されてしまう表示方法のことだ。


 議論の発端は、ブルース・スプリングスティーンと長年共演するギタリストのスティーヴ・ヴァン・ザントが投稿したツイート。「映画やテレビ番組はエンドクレジットを早送りしたり縮小させたりスキップさせるべきでは無い。ゲスト俳優やエキストラ、制作スタッフ、音楽クレジットを尊重していない。組合の契約で禁止すべき」と指摘したことにボブ・ワクスバーグが反応したことから始まった。


 ボブ・ワクスバーグはまた、Netflixがオリジナル・ドラマ『ウィッチャー』の宣伝のため、別番組のエンドクレジット中に勝手に予告動画を自動再生することも問題だと指摘する。さらに、Amazonプライム・ビデオの『アンダン ~時を超える者~』 を見た時、次エピソードの予告動画がエンドクレジット前にすでに流れてクレジットを見逃したと自らの体験談も明かす。


 映像ストリーミングでは、一つの作品や番組を見終われば必ずクレジットが入る。だが、エンドクレジットを飛ばして次エピソードを始める「スキップボタン」が、多くのプラットフォームでは表示される。ドラマの先を早く見たいという人やエンドクレジットが終わるまでの時間が待てないという人はつい使ってしまう機能だろう。


 こうしたスキップボタンはタイトルバックにも設置されている。スタッフクレジットだけでなく、オープニングシーケンスやタイトルデザインさえも飛ばして見れるようになっている。


 劇場やテレビ放送などでは、クレジットのスキップは一般的に不可能だった。中には、地上波の映画やドラマなどで、エンドクレジット中に別の番組の宣伝が入る場面を目にする人も多いはずだろう。とはいえ、映画やドラマにはオープニングとエンディングがあり、クレジットが入ることを当たり前と思っている人が大多数だろう。『スター・ウォーズ』や『ゲーム・オブ・スローンズ』の強烈なオープニングに感情移入する人も多いはずだろうし、『ウェストワールド』のように圧倒的な映像美あるクレジットには目を奪われることもある。


 しかしストリーミングでコンテンツを見る場合、視聴者個人の好みが優先される。オープニングやエンドクレジットに特別な映像やタイアップの音楽を付けても、特別な愛着がなければ、または時間が惜しければ、スキップされてしまうこともあるのが現状だろう。そして、オープニングやエンディングをスキップし続ける人は、クレジットを映像作品の枝葉末節として捉える見方がさらに強まるかもしれない。クレジットを表示してほしいと考える映像クリエイターの想いと、番組を1秒でも早く進ませたいとするプラットフォームの戦略との溝を埋めるには深い議論が必要だろう。


 クレジット表記は映像だけでなく、音楽ストリーミングでも議論されている。例えばSpotifyは2018年に楽曲毎にプロデューサーや作曲家などのクレジット表記を追加した。だがPitchforkは、Spotifyのクレジット・データベースには”漏れ”があり、またカバーバージョンでは原曲のプロデューサーがクレジットされていないと問題点も指摘するように、膨大に増え続けるリスナーとアーティスト、クリエイターの満足度を満たすまでの道のりは長いと感じる。


参照:https://pitchfork.com/thepitch/dont-give-spotify-too-much-credit-for-adding-credits/


 アメリカの映像産業では、WGA(全米脚本家協会)やPGA(全米製作者組合)、SAG-AFTRA(全米映画俳優・テレビ・ラジオ芸能人労働組合)など業界で働く人の権利を保護する労働組合がそれぞれクレジット表記についてのガイドラインを公開している。だが、それをどう表示するかはプラットフォームの仕様によって変わる可能性が高い。


参照:https://www.wga.org/contracts/credits/manuals/theatrical-credits-procedures#f


 「エンドクレジットを遮らない局やサービスと仕事がしたい」前述のボブ・ワクスバーグはTwitterでこうも述べた。NetflixやAmazonプライム・ビデオなど映像ストリーミングは、無名の俳優や監督、脚本家でも参加できるクリエイター・ファーストなクリエイティブ環境を提供することでは定評があり、これらの企業を称賛するクリエイターたちも少なくない。そのクリエイター・ファーストな考え方をどこまで広げて、作り手とプラットフォームとが相互関係や契約条件を構築できるかは、今後の映像産業やクリエイターたちが注目すべき部分だろう。もしかしたら制作配信する契約にスキップボタンを外すことを条件にするクリエイターが現れてもおかしくない。


(ジェイ・コウガミ)