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Poppin’Party、Aqours、LiSA、梶裕貴、IDOLiSH7、ヒプマイ……2019年声優/アニソンシーンをライター4氏が総括

2019年12月31日 13:12  リアルサウンド

リアルサウンド

LiSA『紅蓮華』

 年々、盛り上がりが増していく声優/アニソンシーン。昨年の『NHK紅白歌合戦』には特別企画枠としてAqoursが出演し話題を呼んだが、今年はアニソンシーンの代表格であるLiSAが初出演。また、『BanG Dream!』(以下、『バンドリ!』)から派生した声優ユニットPoppin’Partyは、SILENT SIRENとコラボ曲を発表し、声優音楽シーンのみに捉われない活動を行った。一方で、男性声優の活躍も見逃せない。音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク』(以下、『ヒプマイ』)は、ナゴヤ(Bad Ass Temple)、オオサカ(どついたれ本舗)とディビジョンが追加され、さらなる注目を集めている。また、宮野真守をはじめとした男性声優のメディア出演も増えている。リアルサウンドでは、女性声優、男性声優、アニソンシーンに詳しいライター・流星さとる氏、ナカニシキュウ氏、とみたまい氏、須永兼次氏を取材。2019年における声優/アニソンシーンのトピックやサウンド傾向、さらに2020年以降の潮流について話を聞いた。


(関連:逢田梨香子「FUTURE LINE」MV視聴


●流星さとる


1.Aqoursメンバーの活躍と、『BanG Dream!』派生ユニットの飛躍
 今年の一番大きなトピックは、『ラブライブ!サンシャイン!!』から派生したグループ・Aqoursのメンバーの活躍です。6月に逢田梨香子さんがEP『Principal』でソロ歌手デビューを果たしたことを皮切りに、その他のメンバーもAqours以外での音楽活動を始めました。斉藤朱夏さんは8月にミニアルバム『くつひも』をリリースし、高槻かなこさんは5人組の女性ボーカル&パフォーマンスユニット・BlooDyeを結成、小宮有紗さんはavexからアニソンDJとして活動を始めました。2020年1月には鈴木愛奈さんがランティスからソロデビューすることも決定しています。また、Aqours結成前に歌手デビューを果たしていた小林愛香さんは、トイズファクトリーにレーベルを移籍しシングル『NO LIFE CODE』をリリース、さらに諏訪ななかさんも4月にアーティストデビューすることを発表しています。Aqoursの反響を受けて、各メンバーがソロやユニット活動を活発化させていました。


 また、Poppin’Party、Roselia、RAISE A SUILENといった『バンドリ!』から派生した声優ユニットも大きく飛躍した年でした。Poppin’Partyは、メットライフドームでSILENT SIRENと対バンライブを開催しましたし、RoseliaとRAISE A SUILENも幕張メッセで合同ライブを行っていました。また、幅広いジャンルの音楽雑誌で表紙を飾っていて、人気が高まっていることが伺える一年でした。


2.サウンドの多様化が進んだ一年に
 サウンドにおいては、多様化が進んでいきました。例えば、BlooDyeはK-POPを彷彿とさせるような編成ですし、逢田さんと斉藤さんはJ-POPとしても馴染みやすいテイストになっています。また、伊藤美来さんのアルバム『PopSkip』にはシティポップに傾倒した楽曲が入っていますし、ワルキューレのメンバーである西田望見さんは、Shiggy Jr.が好きでメンバーの方に楽曲提供してもらっていました。最近では、「声優アーティスト」に憧れて声優を目指す人が確実に増えていて、個人個人が「自分に合った音楽」もしくは「自分がやりたい音楽」を追及しています。


 こうした傾向になった背景として、水樹奈々さんの活躍が大きく影響しているといえるでしょう。水樹さんは10年前に『NHK紅白歌合戦』初出場を果たし、現在に至るまで様々なテレビ番組に出演されています。いわば「声優アーティスト」の象徴的存在です。小さい頃に彼女をはじめとした声優アーティストを見て憧れを抱いた人たちが、続々と声優アーティストとしてデビューしているんです。例えば、今年日本コロムビアからデビューした富田美憂さんは、子供の頃に宮野真守さんや水樹奈々さんに憧れていたことをインタビューで公言しています。特に20代前半の世代は、水樹さんをはじめとした声優アーティストの活躍に強く影響を受けているのではないでしょうか。


3.今後期待の女性声優アーティストについて
 今年、歌手デビューされた諸星すみれさんです。ミニアルバム『smile』は、非常に良い作品でした。諸星さんは『アナと雪の女王』で少女期のアナ役を務めたりするなどディズニー作品に多数出演されている声優で、『アイカツ!』の主人公・星宮いちごも演じています。元々子役としてデビューされていたこともありとても芸達者な方で、『smile』にもその表現力が発揮されています。少年のようなときもあれば、明るく華やかさのある歌声にもなりますし、フォーク調にも合わせた歌い方も聴かせていたりして、楽曲のテイストごとに歌声をしっかり変えて様々な表現を見せています。改めて素晴らしい作品でした。


4.2020年以降の女性声優シーンの潮流
 声優はいわゆるマルチタレント化が進んでいて、声のお芝居だけではなく様々なスキルを求められています。Poppin’PartyやRoseliaのメンバーは実際に自ら楽曲を演奏していますし、『ラブライブ!』や『アイドルマスター』はアイドルのように歌って踊るパフォーマンス、2.5次元的なライブを行っていて、今後もその潮流は続くかと思います。来年以降は、声優さんが別のシーンに流入していったり、逆に別のシーンから声優になる人がさらに増えるようになるのではないかと思います。


 例えば、小岩井ことりさんは、DTMオタクかつメタルオタクであることからメタルユニット・Dual Alter Worldを結成しました。一方で今年声優デビューした結城萌子さんは、元々Tokyo Recordingsで綿めぐみ名義で歌手活動をしていた経歴があります。様々なシーンが混同していく傾向へと進んでいくのではないでしょうか。


●ナカニシキュウ


1.2019年の女性声優シーンは、バンドものにも再び注目が集まる年に
 今年は、新人からベテランまで多く女性声優の作品がリリースされました。そのなかでも特にPoppin’Party、Roseliaといったバンドリ派生ユニットがとても元気がありましたね。また、『けいおん!』10周年ということで、放課後ティータイムがアニサマ(『Animelo Summer Live 2019 -STORY-』)に出演したのも印象的で、このタイミングでバンドものにも再び注目が集まっていることは、非常に興味深いです。そのほか、逢田梨香子さんをはじめとしたAqoursメンバーのソロデビューや、けものフレンズの尾崎由香さんのソロ活動も話題を呼んでいました。また、結城萌子さんの作品は、川谷絵音さんが全面プロデュースしていて面白い売り出し方だったと感じます。


 また、声優のメディア露出も増えてきていて、例えば上坂すみれさんは『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)に今年3度目の出演を果たしていたり、ゴールデンの人気番組『くりぃむクイズ ミラクル9』(テレビ朝日系)にも出られていて話題になっていました。スフィアもドラマ『劇団スフィア』(TOKYO MX)に出演しています。声優=裏方というイメージはどんどんなくなってきてるのではないでしょうか。また、“アイドル”として求められている面もあり、お渡し会をはじめとした接触イベントも多くなっています。こうした流れには昨今のアイドルシーンと近いものを感じますね。


2.諸星すみれ&田中あいみの表現力に注目
 今年気になった女性声優は、諸星すみれさんです。アニメ『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』のオープニング曲「真っ白」を歌っています。作詞は岩里祐穂さん、作曲・編曲は白戸佑輔さんが手がけたもので、5拍子などを用いた童話のような楽曲なのですが、諸星さんは非常に綺麗に歌いこなしていました。歌声にストーリーがあって、個人的にはポスト坂本真綾ともいえるような雰囲気を感じる方です。ミニアルバム『smile』も非常に良かったので、今後を期待したいですね。


 あとは、田中あいみさん。『干物妹!うまるちゃん』の主人公・土間うまるを演じていた声優で、5月にミニアルバム『コバルト』でアーティストデビューをしました。彼女の歌い方は、テクニカルというよりはイノセントで自然体。彼女のような真っ直ぐな歌唱は、声優としては珍しく非常に興味深いです。


3.2020年以降の女性声優シーンの潮流
 声優音楽シーンは様々なタイプの楽曲が増えてきているのと、「声優」という職業柄もあって歌い方を使い分けられるのでどうしても音楽的傾向は捉えづらいんです。ただ、今後は声優個人個人の色が際立っていくように思います。今年で言えば、安野希世乃さんのアルバム『おかえり。』はソフトロックに重きをおいた作品でしたし、小岩井ことりさんとギタリスト・RYU(BLOOD STAIN CHILD)とのユニット・Dual Alter Worldのアルバム『Alter Ego』は全曲デジタルメタルです。彼女たちのように、ある音楽性に寄せ切った作品を制作していく声優が今後増えていくのではないでしょうか。BABYMETALやPerfume以降のアイドルシーンのように「このグループ/人といえば、こういう音楽性」といったイメージが定着していったら面白いなと思います。


●とみたまい


1.男性声優のテレビ進出と、声優以外での活躍も
 今年は、男性声優たちの活動の場がとても広がった印象です。例えば、梶裕貴さんは『news zero』(日本テレビ系)のコメンテーターとして何度か出ていましたし、『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)でも観覧ゲストとして出演されていました。また、武内駿輔さんも『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)の映画『アナと雪の女王2』特集でオラフ役として「あこがれの夏」を歌って話題になりましたし、木村昴さんは『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系)で特集が組まれたり、『有吉ジャポン』(TBS系)の「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」特集にも出演されていました。このようなテレビ露出が増えたことで、「声優」という職業に詳しくない方にも身近な存在になっていったように思います。また、声のお仕事以外の活動も目立っていて、梶さんは『イノサンmusicale』(以下、『イノサン』)でミュージカルデビューを果たし、宮野真守さんと蒼井翔太さんはWキャストでブロードウェイミュージカルの初主演を務めています(『ウエスト・サイド・ストーリー』トニー役)。彼らの活躍もあり、声優の可能性がさらに広がった一年となったように思います。


2.2019年に飛躍した男性声優は?
 今年、声優シーンのなかでも注目されていた印象があったのは仲村宗悟さん。取材した男性声優たちから彼の名前が挙がることも多かったです。まだキャリアとしては長くはないのですが、卓越した表現力と歌唱力で声優の方々にも厚い信頼を得ています。特に『AD-LIVE ZERO』に出演されたことには驚きました。『AD-LIVE』はキャラクター設定に適応しながらアドリブでお芝居をしていくという舞台で、若手声優が出演することは極めて珍しいんです。彼の実力が認められているからこその大抜擢だと思います。ベテランの森久保祥太郎さんと一緒に舞台に立っても見劣りすることなく堂々とされていて、肝が据わった方という印象でした。さらに今年はソロアーティストとしても活動を始めていて、シングル自体も非常に良い作品です。


 あとはやはり梶さん。冒頭にお話しした通り、昨今非常に活躍されていますが今年は特に顕著でした。宮本亞門さんが演出を手がけた『イノサン』では物語における重要な役に抜擢され、公演前から注目が集まっていました。実際に舞台を拝見させていただきましたが、ミュージカル初出演とは思えないほど堂々とお芝居をされていて、歌もとても伸びやかに歌っていたのが印象的です。これを機に新たな扉を開いたように感じましたし、梶さんは来年以降もさらに活動の場を広げていくように思います。


 それから、花江夏樹さん。今年大ヒットしたアニメ『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎を演じて再注目された印象です。以前主演された『東京喰種トーキョーグール』で非常に複雑な役どころを演じられていたように、多彩なキャラクターを演じることができる声優ですが、特に竈門炭治郎という役は花江さんの優しい声質にハマっているなと思いました。もちろん原作が素晴らしいのですが、花江さんをはじめとするメインキャストのお芝居によって作品の良さがより引き上がったように思います。『鬼滅の刃』が大ヒットした要因のひとつと言えるでしょう。


3.「キャラクター×声優×音楽」ジャンルがますますアツくなる?
 今年非常に興味深かったことは、化粧品メーカーのDHCとIDOLiSH7のコラボでした。IDOLiSH7(アイドリッシュセブン)は、同名アプリゲーム内のアイドルグループですから、楽曲を歌うのはゲーム内に登場するキャラクターです。そんななか、IDOLiSH7の「ハツコイリズム」をタイアップとして起用したDHCオリジナル“実写”短編ムービーでは、キャラクターを押し出すのではなく、あくまで“IDOLiSH7がアーティストとして楽曲を提供している”といった演出になっていることに大変驚きました。「キャラクター×声優×音楽」コンテンツが過熱するなか、こういった業界を驚かせるようなチャレンジを見せてもらえたのは感動しましたし、今後もそれぞれが独自のブランディングを展開してくれるのではと期待が高まります。


●須永兼次


1.2019年アニソンの顔は、「紅蓮華」と「お願いマッスル」に
 基本的にアニソンというジャンルは、アニメ作品のヒットに比例して広まっていく傾向があります。ただ、特に昨今はアニメ作品の本数が非常に多いので、作品自体が話題にならないと逆に埋もれてしまいがちなんですよ。そのなかでも今年の顔は、アニメ『鬼滅の刃』オープニングテーマで「紅蓮華」(LiSA)、『ダンベル何キロ持てる?』のオープニングテーマ「お願いマッスル」(紗倉ひびき/CV.ファイルーズあい、街雄鳴造/CV.石川界人)でしょう。


 LiSAさんの「紅蓮華」は元々、物語と親和性が高い楽曲なのですが、ストーリー序盤の主人公・炭治郎の心情と重なるように、シングルでは〈ありがとう 悲しみを〉となっている箇所を、TV ver.では〈何度でも立ち上がれ〉と差し替えているんです。元々のLiSAさんのシンガーとしての実力に加えて、こうした細かい部分までアニメに寄り添っている点も視聴者の支持の高さへと繋がっていったのではないでしょうか。一方「お願いマッスル」も同様に作品との親和性が高い楽曲ではありますが、仕掛けもポイントのひとつ。楽曲にはボディビルならではの掛け声がガンガン入ってきてフックになりましたし、MVは筋肉アイドルの才木玲佳さんとボディビルダーの横川尚隆さんが出演したストーリー仕立てのMVも、非常にインパクトがありました。楽曲自体の質の高さや気持ちよさに加えて、こうした仕掛けもあいまって急速に広まっていったように思います。


2.アニソンシーン注目の作家は
 楽曲制作面で今年特に活動が印象深かったのは、まずfhánaの佐藤純一さん。『ナカノヒトゲノム【実況中】』ではfhánaとしてエンディングテーマ「僕を見つけて」を手掛けただけではなく、オープニングテーマや挿入歌全曲の作曲を担当したこともあって、fhána以外への楽曲提供の増えた年だったんです。他にも今年は『上野さんは不器用』のオープニングテーマ「閃きハートビート」(伊藤美来)や、『けものフレンズ2』のエンディングテーマ「きみは帰る場所」(Gothic×Luck)を手がけています。今後、彼の提供曲がさらに増えて、新たな角度からシンガーの魅力を引き出してくれることに期待しています。また、今年の夏にアニメ化されたメディアミックス作品『Re:ステージ!』で、TVアニメの主題歌をはじめコンテンツ初期から楽曲提供をしている伊藤翼さんも注目のクリエイター。そのほかにも『ウルトラマンR/B』などの作品の主題歌や、雨宮天さん・内田雄馬さんらの楽曲も手がけている伊藤さんは、歌唱する声優やアニメに応じた様々なアプローチをみせてくれる、幅広い音楽性をもつ方です。


 あと、個人的に注目したいのが、音楽集団・MONACAに所属している高橋邦幸さん。劇伴を手掛けることの多い方なのですが、今年秋クールに放送された『アサシンズプライド』のエンディングテーマ「異人たちの時間」が、非常に清らかで素晴らしい楽曲だったんです。勢いのあるボーカリストの楽曲を今以上に手がけるようになった際、どんな引き出しを見せてくれるのか非常に楽しみですね。


3.2020年以降のアニソンシーンの潮流
 音楽評論家の冨田明宏さんとお話したなかでお聞きして共感したことなのですが、2009年に水樹奈々さんが『紅白』に初出場したことで彼女が「声優アーティスト」の到達点となったように、今度はLiSAさんが『紅白』に出演することで、彼女に憧れてアニソンアーティストを目指す人が増えてくるかもしれないな、と思っています。実は今、アニソンアーティストは不遇の時代だといわれています。というのも、アニソンアーティストの楽曲はアニメ自体がヒットしないと曲も注目を浴びしにくく、アーティストの存在も広まらないといった傾向があるんですよ。それもあって、現状では「シンガー」専業としてアニソンを歌う方への注目度が、どうしても声優アーティストよりも低くなってしまっているように思うんです。そんななかでLiSAさんが『紅白』に出場されることで彼女に憧れる人が増えたら、今後アニソンシーンもより面白くなっていくように思います。


 また、サブスクリプションサービスに関しても無視できなくなってくると思います。今年は水樹奈々さん・茅原実里さん・坂本真綾さんといった声優アーティストや、JAM Projectなどのアニソンシンガーが続々サブスク解禁したことが話題になりました。この流れに乗ってさらにサブスク解禁するアーティストが増えれば、新曲の配信もより戦略的になってくるのではないでしょうか。たとえば、CDの発売を待たずにアニメの初回オンエアとともに主題歌をフルサイズで配信し、即時的に評判を広げていく……というような戦略も、今後はさらに活発になってくるかもしれません。(北村奈都樹)