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Appleの行く年来る年(前編)、Appleショックから上場来高値を更新、V字回復は本物か?

2019年12月31日 08:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●下降線から再成長を描いたAppleの2019年
毎年恒例のAppleの行く年来る年、前編では2019年のAppleをふり返り、後編で2020年のAppleについて予想します。

2019年は「Appleショック」で波乱の幕開けとなりました。中国経済の減速、iPhoneの買い換えサイクルの長期化などからiPhoneの売れ行きが予想を下回り、年明けに2018年10~12月期の売上高予測を下方修正。製品が最も売れるホリデーシーズンの業績予想の引き下げの影響は、同社のサプライチェーン、iPhoneのエコシステム、そしてチャイナリスクの影響の受ける可能性がある他の分野にも広がっていきました。

1年をふり返る前回の記事の中で、私は「数年後に、2018年はAppleが新たな成長戦略の一歩を踏み出した年と評価されるかもしれません。逆に、ピークを過ぎて減速が始まった年になる可能性もあります。Appleの今後は果たしてどちらなのか」と書きました。再成長か、それともピークアウトか、2019年はその答えの一端が見えてきた年だったと言えます。

まずは今年1年間のAppleの主な動向をまとめました。

1月:業績予想を下方修正。LG、Samsung、ソニー、VisioなどのスマートTVが「AirPlay 2」をサポート、SamsungのスマートTVは「TV」アプリを搭載。中国で「HomePod」販売開始。
2月:リテールおよびオンラインストア部門を率いるAngela Ahrendts氏が退任することを発表。
3月:株主総会。3月後半に新しい「iPad Air」と「iPad mini」、「iMac」をアップデート、第2世代の「AirPods」を発表。Apple Parkでスペシャルイベントを開催し、「Apple News+」「Apple Card」「Apple Arcade」「Apple TV+」といった新サービスを発表しました。ワイヤレス充電マット「AirPower」の開発を中止。

昨年の予想で、Appleがデジタルホームでシェアを広げられない理由の1つとして家電メーカーを巻き込んだエコシステムを作れていないことを挙げました。それは「Apple TV+」のようなオリジナルコンテンツ配信を普及させる上でも不安材料の1つでしたが、北米最大の家電IT見本市CESにおいて、スマートTVメーカーがAppleとのパートナーシップを発表しました。AppleはCESに参加していなかったものの、会場近くにプライバシー保護の重要性を訴える巨大な広告を掲げていたのが話題になりました。

4月:米国の有料音楽ストリーミング契約でApple MusicがSpotifyを上回る。特許訴訟でQualdommと和解、全世界で訴訟取り下げ。
5月:1~3月期決算の売上高が予想を上回り、時価総額1兆ドルを回復。新しいApple TVアプリをリリース、「MacBook Pro」をアップデート、新しい「iPod touch」を発売しました。
6月:WWDC 2019開催、iOS、macOS、watchOS、tvOSのメジャーアップデートに加えて、新たに「iPadOS」を発表。デザインを統括するJonathan (Jony) Ive氏がAppleを退社して独立すると発表。

Qualcommとの全面和解は、大きな流れを変えるインパクトのある出来事でした。それによって2020年にも5G対応のiPhoneを提供できるようになり、iPhoneの5G対応が不透明という懸念を払拭できたのが、Appleの株価を上向かせるきっかけの1つになりました。

7月:Intelのスマートフォン向け通信半導体事業を買収。4~6月期が3四半期ぶりの増収、時間外で株価大幅高。
8月:Siriの音声認識の品質評価において、録音した音声サンプルをAppleのコントラクタが分析するプロセスを廃止。米中摩擦の激化で株価下落。「HomePod」を日本で発売。iPhone修理の認定対象を拡大。米国で「Apple Card」の提供を開始。
9月:国内最大の直営店「アップル丸の内」をオープン。秋のスペシャルイベントを開催し、「iPhone 11」「iPhone 11 Pro」シリーズ、「Apple Watch Series 5」、第7世代「iPad」などを発表、ゲームサービス「Apple Arcade」を開始しました。秋から動画配信で競合するため、Disney CEOのBob Iger氏がAppleの取締役を退きました。

米国で提供が始まったApple Cardは、キャッシュバックの割合など特典で他のクレジットカードと比較して語られることが多いものの、iPhoneに統合されたクレジットカードであることが最大の特徴です。AirPodsが「iPhoneで使うと最高」とよく言われるのと同じ魅力を備えます。

10月:iPhone11の販売が好調という見方から、Apple株が上場来高値を更新。「AirPods Pro」を発売。
11月:Apple「TV+」を開始。16インチの新「MacBook Pro」を発表。
12月:新「Mac Pro」と「Pro Display XDR」の販売を開始。

●iPhone減速でも過去最高の時価総額上昇を記録できた理由
以下は昨年10月から今年のクリスマスまでのAppleの株価の推移です。2018年12月31日から今年の12月25日の間に、なんと時価総額を6,000億ドル以上も上昇させています。1年間の上昇としては過去最高です。

でも、そんな劇的な上昇を呼び込むような製品や出来事が「あったかなぁ~」というのが正直な反応ではないでしょうか。これは1つの大きな要因によるものではなく、以下のような様々な理由によるものです。

iPhoneの急速な下落に歯止め
成長続ける「サービス」事業がAppleの2つめの柱に
AirPodsとApple Watchの好調な伸び
Apple製品プラットフォーム、エコシステムが強みを発揮
貿易摩擦問題への巧みな対処

iPhoneは減少が続くものの、減速が緩やかになって安定してきています。変化が激しいIT市場では、過去にはPalmやBlackberryが瞬く間に市場を失いましたが、数年でiPhone市場がなくなる心配は薄れています。一方で、サービスは2019年も四半期決算の発表のたびに売上高の過去最高を更新する勢いで伸びています。7~9月期の売上高は125億1,100万ドル (前年同期比18%増)。iPhoneに次ぐ規模の事業に成長しており、数年後には肩を並べる可能性もあります。ちなみに同四半期のMacの売上高は69億9,100万ドルでした。さらにApple WatchとAirPodsが好調な「ウェアラブル/Home/アクセサリ」の成長も目覚ましく、売上高は65億2,000万ドル (54%増)でした。iPad (売上高46億5,600万ドル)を抜き、Macに迫っています。

これらが意味するのは「iPhone依存からの脱却」です。一時は70%を超えていた売上高全体に占めるiPhone売上高の割合が4~6月期には48%にまで縮小しました。

iPhoneの普及は飽和に近づき、2016年をピークに「iPhoneを初めて買うユーザー」が減少しています。また、ユーザーの買い換えサイクルも2.5~3年へと長期化しています。しかし、iPhoneの利用者が減少しているわけではありません。iPhoneのアクティブ台数(実際に使用されている台数)は今年1月時点で9億台を超えており、それからも増加し続けています。また、Appleのデバイスのアクティブ台数は1月時点で14億台を突破、その後も順調に伸び続けています。

つまり、iPhoneの最新モデルを購入する人が減少しても、iPhoneユーザーは今でも増加し続け、加えてパソコンをMacにしたり、またはApple WatchやAirPodsなど他のApple製品を購入している人が多いことをAppleデバイス全体のアクティブ台数の伸びが示しています。複数のApple製品を使う人の増加は、Appleのプラットフォームに定着する人の増加を意味します。また、それはAppleの新しい柱になっているサービスが、より多くの人達に利用される可能性を示すものです。iPhoneが減速していても、Appleの"成長循環"が機能しているのが今のAppleの評価につながっているのです。

●MacBook Pro、Mac Pro ……「聞く耳」を持つようになったApple
ある意味、Tim Cook CEOとトランプ大統領の「良好な関係」は今年最大のサプライズでした。多くのシリコンバレー企業がそうであるように、Appleも民主党寄りの企業であり、トランプ政権とは様々な政策方針で相容れない関係です。しかしながら、政治問題に関して相反する政権と距離を置いてただ批判するのではなく、Tim Cook氏は粘り強く問題解決のための直接交渉を試みてきました。最初は対立色が強かったものの、今では何かあればすぐに電話で話合う間柄に。トランプ大統領に「彼は直接電話してくるが、他の人達(シリコンバレーのリーダー)はそうではない」と言わしめています。だからといって、トランプ政権に譲歩しているわけではなく、Appleの意見や姿勢をしっかりと通しています。対立する存在にもAppleの価値を認めさせる交渉術、危機的な状況に対処するTim Cook氏のリーダーシップが評価されました。

昨年の「Mac mini」、そして今年の「iPad mini」と「iPod touch」と、長くアップデートされず、消えていく可能性も指摘されていた製品の新モデル登場はそれらの製品ユーザーを大いに喜ばせました。Mac miniは手頃な価格で柔軟なデスクトップ、iPad miniは手のひらサイズのタブレット、iPod touchは携帯サービス契約不要でiOSアプリを使えるハンドヘルドというユニークな特徴を持っています。今のApple製品ユーザー全体から見たら主流ではありませんが、アップデートサイクルは長くてもそうしたユーザーをフォローしていくAppleの姿勢は、同社製品を購入する際の安心感を高めます。

また、故障しやすい、修理しにくいという問題でユーザーに不評だったバタフライキーボードを廃して、16インチのMacBook Proにはシザー構造のキーボードを採用しました。12月には、約束していた通り、プロを満足させる処理性能と内部拡張性を備えたMac Proを発売しました。Appleというと、その製品を通じてユーザーに変化を強いるメーカーですが、今年は「聞く耳を持つApple」を印象づけました。

でも、人々の声を聞いて形にしたところに大きなサプライズはありません。AirPods Proのような私達を驚かせる製品が登場するのか、2020年のAppleを予想する後編をお楽しみに!(Yoichi Yamashita)