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『テラスハウス』東京編は“リアルハチクロ”だった!? 2019年恋愛リアリティーショー座談会【前編】

2019年12月30日 19:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』(c)フジテレビ/イースト・エンタテインメント

 2019年は恋愛リアリティショーが注目された1年だった。『バチェラー・ジャパン』シーズン3では、センセーショナルな最終回がSNSで爆発的に話題となり、『テラスハウス』は芸能界を含め多くのファンを獲得し続けている。リアルサウンドテックでは、1年間を振り返るために、レギュラー執筆陣より、ライターの藤谷千明氏、Jun Fukunaga氏、Nana Numoto氏を迎えて、座談会を開催。2019年の恋愛リアリティショーを横断して、どんな作品がなぜ注目を集めたのかを話し合った。


 前編では、『TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS』を含む過去作と『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』を比較しながら、2019年の『テラスハウス』の在り方についてのディスカッションを展開。なお、明日12月30日公開予定の後編では、今年最も視聴者を“熱狂”させた『バチェラー・ジャパン』をはじめ、ティーンから圧倒的な支持を誇る『オオカミ』シリーズなどのAbemaTVオリジナル恋愛リアリティーショー、根強い人気を集める『あいのり』を参照とし、恋愛リアリティーショー全体のシーンについて語っている。


(関連:凌がモテる理由は“余裕と雄々しさ”にあり? 『テラスハウス』第23話未公開映像


■『TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS』(『テラスハウス』軽井沢編/Netflix配信:2017年12月~2019年2月)
藤谷千明(以下、藤谷):実は私、軽井沢編を途中で脱落してしまったんです。序盤に(新井)雄大っていう子がいたじゃないですか。ちょっと空回りしていることが多くて、彼を見ていると、共感性羞恥が爆発するというか、身に覚えがある失敗を思い出して「あぁぁぁ」ってなってしまって(苦笑)。コミュニケーション能力低めの人間にとって『テラスハウス』って、結構ハードル高いんですよ。


Nana Numoto(以下、Numoto):確かに! 見ていて身に覚えのあるシーンはありますよね。(田中)優衣関連のいざこざは、女性同士特有のあるあるも感じました。軽井沢編の優衣が天使から悪魔に変わる瞬間は、テラハ史上最も汚い部分を見たような気持ちになりましたね。実際に海外の大型ウェブ掲示板のRedditでは“Yui might be the greatest villain in TH history(優衣は史上最大の悪役かもしれない)”こんなタイトルのスレッドまで立っていたんですよ。海外メディアでも度々話題になりましたね。


Jun Fukunaga(以下、Fukunaga):僕は寮長(中村貴之)が面白かったですね。年下の子にボコボコにやられている感じが(笑)。あとは軽井沢編と言えば(島袋)聖南ですよね。あの人の“プロテラスハウサー”っぷりがすごい。レジェンド枠じゃないですか? 韓国行って鼻の形変わって帰ってきたり、(上村)翔平とキスしてセンセーショナルな話題を振りまいたり。そういう部分では、やっぱり聖南はすごいなと思いましたね。


Numoto:みなさんは軽井沢編、過去の作品と比べてどうでした?


Fukunaga:ハワイ編とはガラリと人選が変わったように思います。ハワイ編はみんな美男美女で、キャリア的にもいわゆる海外の“リアリティーショーのスター”って感じでしたが、軽井沢編はもっと“身近な人”になった印象です。


藤谷:Fukunagaさんは『テラスハウス』を観る上で“親近感”は大事だと思いますか?


Fukunaga:確かに、共感しやすい部分はあるのかな。優衣は普通の大学生ですが、性悪な部分もある。「こういうやつキャンパスにいるな」みたいなところが、いろいろ言いたくなる理由の一つなのかなと思います。翔平に黙って(石倉)ノアが聖南にキスしたところとか、実際にサークルなどでありそうなことですし。


Numoto:確かに、視聴者もそういう部分で共感していたのかもしれないですね。「こういう女いた!」みたいな。


Fukunaga:軽井沢編は聖南が出てきてから劇的に面白くなった。テコ入れとしては最強ですよ! 裏を返せば、聖南が加入するまでは少しダレていた気がします。


編集部:軽井沢編では優衣と(福田)愛大の暴露大会も注目されましたが、今までもあったのですか?


Fukunaga:ありました。たとえば、『TERRACE HOUSE BOYS & GIRLS IN THE CITY』では、(永井)理子と(寺島)速人が隠れてキスしていたことを指摘されていました。家族会議ってやつですね。


Numoto:でも、ここまで頻発したのは初めてかもしれないですね。もはや、隠していたけれどそこを暴くところまでがリアリティーショーみたいな、メタ的な面白さが出てきちゃったのかなとも思います。長く続いてきたからこそ、自分たちを演出して見せていく場所=テラスハウスになってしまっている感じもありますよね。


■『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』(『テラスハウス』東京編/Netflix配信:2019年5月~)
Numoto:東京編は、世代的にも、年齢的にも、キャリア的にも、今の東京に憧れる人たち、もしくは東京で暮らす若者たちの関心が集まるようなメンバーが多かったのかなと思います。イラストレーターの(渡邉)香織はフリーランスになりたい若い子たちの憧れの的だし、カルチャー全般でマルチに仕事している(松ザキ)翔平は新しい時代の象徴みたいでしたし。


Fukunaga:カルチャー度数が高かったですよね。翔平が着用していたTシャツは、ただの台湾語のプリントではなくて、実は台湾の友達がやっているブランドだったり、ZINEとかにも詳しかったり。香織は、海外のクラブ系ミュージシャンのバンドTシャツや、Nathan MicayがSFアニメ映画『AKIRA』のサウンドトラックをリミックスしてリリースしたEPのジャケットTシャツを着ていたりしていました。音楽好きな人たちの中でも結構“ガチ”なセレクトだったので、その辺も東京編が注目されている理由かもしれません。東京のお洒落な感じがよく出ていましたよね。


Numoto:軽井沢と東京だと、立地の差なのか、やっぱり雰囲気が違いましたよね。東京編は東京カルチャーが色濃くフィーチャーされていたように思います。


Fukunaga:そうですよね。東京編は洗練されている。


藤谷:この座談会のために現在のシリーズは頑張って見ました! Netflixは加入していたら、全国どこでも観ることができますよね。たとえば、地方の高校生にとっては、(西野入)流佳のかつてのアルバイト先(ムラサキスポーツ)でも、「竹下通りで働いている!」と、憧れたりするのかもしれないですね。ハワイ編ほどではないけど、“手の届きそうな素敵な生活”を発信しているのかな。恋愛だけでなく、フリーランス論とかクリエイターとしての裏話も語っていましたし、そういう部分に刺激された人も少なくなさそうですね。


Fukunaga:今っぽいですよね。東京のキラキラしたところが凝縮されていて、プラスそこにライフスタイルが絡んでくる。僕、一番面白かったのは、翔平がマルチに働いていることに対して、他のメンバーと言い合いになったことですね。実はこのメンバーの中で一番今っぽい生き方をしているのですが、内装の職人さんをはじめ、いろんな人に「生き方がふわふわしている」と思われちゃってる。


Numoto:他のメンバーだって、いろいろなことをやっているのは変わらないですよね。ミュージシャンのケニー(吉原健司)は絵も描くし、個展も開いてる。香織もイラストだけではなく、モデルのような仕事もしているし、フィットネストレーナーの(田辺)莉咲子はパルクールも真剣にやっています。みんな自分たちの抱える漠然とした不安を翔平に投影して、彼を突っつくことで答えを見出そうとしていたのかな。


藤谷:流佳の「マーベルになりたい」みたいな漠然とした夢に対して、(奥山)春花や香織がツッコむシーンもありましたよね。恋愛だけではなく、それぞれの生き方への衝突も多かったように思います。


編集部:翔平がほかのメンバーをはじめ世間から突っ込まれていたのは、どれを一番メインでやりたいのかが固まっていないにも関わらず、余裕そうに日々の生活を送っているように見えたからかもしれませんね。頑なに主軸を決めたがらず、どれも同じくらいの力量で取り組むところに引っかかってしまったのかも。「メインは俳優です! でも、ほかもいろいろやりたい」っていう感じだったら、周りの反応が全く違っていたように思います。


Numoto:翔平は、マルチに活動したいわりにガツガツしていなかったですもんね。「結婚して、最低限暮らしていければいい」と話していて、現状に不安も不満もなさそう。無敵感がありますよね。何を言われても、自分に対して自己肯定感が高いのかなと思いました。一方で、香織は自己肯定感が低かったように感じました。プライドの高さもあったのかな。香織が本心をさらけ出せないのは、自分をコントロール下に置けなくなることが気にくわないという面もあったように思います。コントロールが効かなさそうな領域になると、スッと距離を置くところがある。卒業後そのまま海外に飛んで行ってしまったのも、東京でうまく消化できない自分をロンドンで昇華させたい、一度東京と距離を置きたいという思いがあったからなのかなという印象でした。本当は一番苦しいものを抱えていたのは、彼女だったのではないでしょうか。


編集部:そんな翔平と香織をはじめ、東京編はどうしてカップルが誕生しないのか。


Numoto:基本的にみんな東京で生活していて、すぐに会えちゃうからですかね?「今すぐ決断しなくてもいいかな」って思っている感じがします。


編集部:そもそも、そこまで深い恋愛感情がないようにも見えますよね。結局カメラの前で話しているのは、「テラスハウスの中なら〇〇さん」というレベルの好きで、外の世界にも魅力的な人がたくさんいるのかなと。


Fukunaga:確かに。東京編は、花以外、それぞれ自分のコミュニティーの延長線上にいる人たちの中で出会ってる感じがしますよね。“特別感”がないというか。


藤谷:そんなふうに停滞していたところに、プロレスの世界からやってきた、真っ直ぐなマインドを持っている花の投入は意味がありましたよね。このままではみんなが、恋愛とか他のことに目を向けられないくらい、クリエイターとしての悩みでいっぱいいっぱいになってしまいそうだったので。東京編って全体的に美大のサークルっぽいというか、『ハチクロ』(『ハチミツとクローバー』)っぽさがあるんですよね。


一同:確かに!


Fukunaga:言い得て妙ですね。東京編は、外の世界っていうよりも、自分の内側と向き合っているメンバーがほとんどで、“リアルハチクロ”ですね。


Numoto:東京編から特に顕著だと感じるのですが、みんなカメラを意識し始めていますよね。香織以外のメンバーも、自分を出し切らないようにある程度コントロールしているように見えます。


Fukunaga:先ほどの暴露大会の話題でもあがりましたが、よくも悪くも、長くやっているから「テラハといえば!」みたいなところに染まりつつあるのかなと。


藤谷:『バチェラー・ジャパン』でも、やっぱり最初の参加者に比べて、シリーズを重ねると“パチェラーっぽさ”を意識する出演者が目立つようになった気もします。『テラスハウス』も同じように、“色”に染まりにいってしまっているのかな。


(構成=Nana Numoto)