2019年12月29日 09:11 弁護士ドットコム
実の娘(当時17歳)と性交したとして、監護者性交等罪で起訴された三重県の男性に対して、津地裁は12月24日、懲役6年の有罪判決を言い渡した。ここのところ、監護者性交等罪の有罪判決が相次いでいるが、一方で、ことし3月、実の娘(当時19歳)と性交した男性(準強制性交等罪で起訴)に対して、無罪判決が出たことが話題になった。そもそも問われた罪が異なるが、どんな違いがあるのだろうか。
【関連記事:「流産しろ」川崎希さん、ネット中傷に「発信者情報開示請求」 追い詰められる投稿主】
冒頭の事件以外にも、次のように監護者性交等罪の有罪判決が相次いでいる。
10月1日、18歳未満の実の娘と性交したとして、岐阜地裁が、父親に懲役9年を言い渡した。
12月17日、結婚相手の娘(当時14歳)に性交をしたとして、津地裁が、男性に懲役7年の有罪判決を言い渡した(男性は「性交渉はしていない」と控訴)。
一方、実の娘(当時19歳)と性交したとして、準強制性交等罪に問われた男性に対して、名古屋地裁岡崎支部は3月26日、無罪判決を言い渡している(岡崎判決)。
この判決をめぐっては、検察側が控訴したほか、一部の専門家からも批判の声もあがっていた。
そもそも問われた罪が、監護者性交等罪と準強制性交等罪で異なっているが、どんな内容の違いがあるのだろうか。
監護者性交等罪は、2017年の刑法改正で新しく設けられたものだ。
親など、18歳未満の児童を現に監護する人が、その影響力を利用して性交等(性交、肛門性交、口腔性交など)をおこなった場合、強制性交等罪と同様に処罰する(5年以上の有期懲役)規定だ。
刑法が改正される前は、被害者が13歳以上の場合、「暴行・脅迫」がなければ、強姦罪(現・強制性交等罪)に問うことができなかった。
しかし、監護者性交等罪は、被害者が18歳未満であれば、手段として「暴行・脅迫」がなくても、犯罪が成立することになる。また、非親告罪のため、被害者からの告訴がなくとも、公訴できるのだ。
しかし、名古屋地裁岡崎支部の事件のように、被害者が18歳以上の場合は、加害者に対して、監護者性交等罪を問うことはできない。
一方、準強制性交等罪は、「心身喪失」または「抗拒不能」となった人に対して、性交等をおこなった場合に成立する。
心神喪失とは、精神障害や泥酔などの理由により、正常な判断能力を欠く場合をいい、抗拒不能とは、反抗が著しく困難な状態をいう。
名古屋地裁岡崎支部は、被害者が「抗拒不能の状態にまで至っていたと断定するには、なお合理的な疑いが残る」として、無罪判決を言い渡した。なぜ裁判所は、準強制性交等罪の成立を認めなかったのか。
判決文によると、準強制性交等罪は、「意に反する性交の全てを準強制性交等罪として処罰しているものではな」いとして、抗拒不能には「身体的抗拒不能」と「心理的抗拒不能」の2つがあるとしている。
そして、心理的抗拒不能とは、「行為者と相手方との関係性や性交の際の状況等を総合的に考慮し、相手方において、性交を拒否するなど、性交を承諾・認容する以外の行為を期待することが著しく困難な心理状態」としている。
たとえば「性交に応じなければ生命・身体等に重大な危害を加えられるおそれがあるという恐怖心から抵抗することができなかったような場合」や、「相手方の言葉を全面的に信じこれに盲従する状況にあったことから性交に応じるほかには選択肢が一切ないと思い込まされていたような場合」などが「心理的抗拒不能」といえる状態にあたるという。
この事件は、控訴審がつづいており、どのような判決になるのか、注目をあつめている。