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日向坂46が見せた東京ドームへと繋がるプロセス 新たな物語が幕を開けた『ひなくり2019』を振り返る

2019年12月29日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

日向坂46

 日向坂46が12月17、18に幕張メッセ国際展示場4~6ホールにて『ひなくり2019~17人のサンタクロースと空のクリスマス~』を開催した。クリスマスモチーフを強く打ち出すこのライブは、全編を通じてコンセプチュアルであると同時に、今回の会場を効果的に活かしてみせた公演でもあった。


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 “プレゼント工場”の美術セットがポップに作り込まれたメインステージで、「キュン」「ハッピーオーラ」を披露しながらライブは始まる。セットの各所でプレゼントを準備するさまをメンバーたちが表現しながらの遊びのある冒頭パートがまず、この『ひなくり2019』のコンセプト性を強く意識させる。


 もっとも、こうしたパートの内にもライブパフォーマンスとしての充実度がみえるのが現在の日向坂46の強みといえるかもしれない。冒頭でメンバーたちが着用するグレーパーカにブルーのオーバーオール衣装は、一見すればクリスマステーマとの相性を重視したスタイリングで、身体の動きをシャープにみせるためのものではない。けれども、袖と襟にあしらわれたファーは手足のポイントを指し示すアクセントになり、小気味よく揃う彼女たちのダンスをむしろ鮮やかに引き立てる。ガジェット感の強い背景のなかで、そこに埋もれない日向坂46の群舞の軽快な強さも印象付けられた。


 メインステージでの序盤パートを終えると、『ひなくり2019』はさらに会場全体を効果的に駆使してみせる。もとより、ライブ会場となった幕張メッセ国際展示場は、フラットな屋内スペースを広く使用できる場所だが、同時にそのフラットさや複数の角柱の存在ゆえに、客席として常に視界良好なわけではない。この広く平面的な客席を巻き込むようにして、日向坂46はパフォーマンスのスポットを会場内に遍在させてゆく。


 富田鈴花と松田好花がアコースティックギターを弾いてパフォーマンスする「まさか 偶然…」などでは、客席内の大きな角柱の各面にスクリーンを施しつつ、その柱を取り囲むように小さなステージを設えることで、視界を遮る障害物であったポイントに彩りのある舞台を築いてみせる。あるいは、セットリスト前半から終盤に至るまでトロッコで長い距離をたびたび移動し、広大な客席のなかにステージを随時登場させてみせる。空のサンタクロースと地上とをつなぐ公演全体の物語の進行と、それらステージの遍在とが絡み合うことで、平面の客席空間は彼女たちのいる“空”をそれぞれに眺めるような趣を生む。


 そしてこの会場全体を引き締めるのが最後方に設えられ、ライブ中盤の主役となる神殿のステージである。この舞台ではまず「こんなに好きになっちゃっていいの?」が披露される。最新シングル表題曲として日向坂46を一歩先のフェーズへ進めた同作品の仕上がりは、それまでの展開とやや位相を変えたライブ中盤の雰囲気とも好相性を見せる。さらに、衣装に組み込まれたLEDライトが星屑のように光る「川は流れる」、そして東村芽依、金村美玖、河田陽菜、丹生明里がスノードームの内側でパフォーマンスする「Cage」といった楽曲が続く。これらのブロックは、本来陽性のコンセプトを体現することに長けた日向坂46のセットリストの中にも静謐な瞬間を作り出し、公演全体の奥行きにとってきわめて重要なパートとなった。


 会場最後方の神殿でそうした時間を作り上げたからこそ、メインステージに戻っての「ドレミソラシド」「キツネ」「NO WAR in the future」といった、このグループのパワーを示す最終盤パートも際立つ。そして「JOYFUL LOVE」で再度トロッコを用い、広い客席エリアを本編ラストまで使い切って物語を締めくくった。


 そしてまた、アンコールにはまた別の物語が描かれる。18日公演のアンコールで、現在の活動メンバー全員による「誰よりも高く跳べ!」、さらに「期待していない自分」がパフォーマンスされたのちに発表されたのは、2020年春の全国アリーナツアー開催、そして12月の『ひなくり2020』が東京ドームで行なわれることだった。先行する坂道2グループもすでに到達した東京ドーム公演が、早くも次年のクライマックスとして提示されたことで、このアンコールの時間はけやき坂46名義の時代から現在、そしてさらなる高みを手にする未来の日向坂46像までを見通す時間になった。そのあゆみを慈しむように、ライブは「約束の卵」ですべての曲目を終える。


 2019年のクリスマスから2020年のクリスマスまでをつなぐ日向坂46の道程は、東京ドームという大目標を成立させるためのプロセスになる。グループの歴史としても大きな節目となるポイントがすでに設定されただけに、1年後にこのグループがどのような成熟を体現しているのか、いっそう楽しみになる。(香月孝史)