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『スカーレット』西川貴教が戸田恵梨香に伝えたもの “自分だけのために”歩き始めた喜美子

2019年12月28日 13:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『スカーレット』写真提供=NHK

 「芸術は爆発だ」という名言を残した人がいるように、特別な感性を持つ人々はしばしば不思議で、奥の深い言葉を口にする。『スカーレット』(NHK総合)に登場するジョージ富士川(西川貴教)という芸術家もまたその一人で、これまでに彼は「自由は不自由」という言葉を伝えてきた。今週の放送では、そんなジョージ富士川が久しぶりに登場した。


 息子・武志(又野暁仁)が熱を出したこともあって、信楽に訪れた富士川の実演会には足を運ぶことができなかった喜美子(戸田恵梨香)。しかし、八郎(松下洸平)が声をかけて頼んでくれたこともあり、なんと富士川本人が喜美子のもとへとやってきたのだった。「特別実演会」ということで、子供たちも交えながら、貴重な時間を体験することになった喜美子。喜美子の家の前に用意された大きな白いキャンバスには、絵筆を手にした子供たちによる絵が次々と描かれていった。


 その実演会を通して喜美子は改めて、創作の「楽しさ」を知る。当初は何をキャンバスに描いていいのか分からず、筆が止まっていた喜美子。しかし、まるでキャンバスと戯れるように絵を描く富士川の姿を見ているうちに、喜美子はまるで何かを思い出したかのように、絵を描くことを楽しんでいく。もはや筆なんて使わずに、手や足、全身に絵の具をつけてキャンバスの上を転がっていった。それは創作の源である「楽しさ」を再び学ぶことができた貴重な時間となったのだ。


 賞を取ることも、世間に認められることも大切なことかもしれない。しかし、それ以上にただただ創作それ自体を楽しむということがまず先になくてはならない。それは言い換えれば、「子供の頃の自分に戻ること」なのかもしれない。富士川との時間を過ごしているときの喜美子の姿は、武志たちと同じで、全身を使った自己表現を純粋に楽しんでいた。


 さて、それからというものの、八郎が春の陶芸展で賞を受賞する一方で、喜美子自身はなかなか自分の作品を作り出せずにいた。しかし、第78話の終盤で喜美子の手はようやく動き始めた。常治(北村一輝)が亡くなって以降、八郎の前で初めて泣くことができた喜美子は、ようやく本当の意味で「自由」に創作に向き合い始めることができたのだった。「誰のためでもない、自分だけのために」とはナレーションの言葉。今週の放送では、父との別れ、そして富士川との交流が描かれた。いずれもの経験も、きっと喜美子の創作人生の中で何か重要な意味をもたらすことは間違いない。(國重駿平)