2019年12月28日 08:42 弁護士ドットコム
車を運転しているときの事故やトラブルは避けたいものだが、注意していても回避が難しいことがある。その一つが「高速道路上の歩行者」だ。
【関連記事:「チリンチリンじゃねぇよ」歩道でベルを鳴らす自転車に怒りの声】
高速道路を走行中の車が歩行者をひいたというニュースはたびたび報じられる。
今年7月には千葉県の館山自動車道で、徒歩で高速道路に入った歩行者がはねられて死亡する事故が発生した。また、12月にも山口県の中国自動車道で、犬を追いかけて本線に入ったとみられる歩行者が複数台にはねられて死亡する事故が発生している。
歩行者による高速道路への立ち入りや通行は禁止されており(高速自動車国道法17条1項など)、またドライバーにとって高速道路に歩行者がいることは通常想定しがたい。
高速道路で人をひいてしまった場合、刑事責任や損害賠償の程度はどうなるのだろうか。(監修・岡田正樹弁護士)
人をひいて死なせてしまったら「過失運転致死罪」(自動車運転死傷処罰法5条)に問われる可能性がある。ポイントになるのが、ドライバーに前方不注視などの過失(注意義務違反)があるかどうかだ。
高速道路では、前方を注視していても急ブレーキが間に合わない可能性がある。
たとえば、法定速度の80km/hで車を走らせている場合、停止距離(停止しようとしてから実際に停まるまでの距離)は55~60m前後とされており、15m先の高速道路上に急に人が飛び出してきたら、衝突を回避するためにブレーキを踏み込んでも到底間に合わない。
このようなケースで人を死なせてしまったからといって、ただちに「過失」があるとは言い難い。
そもそも、高速道路では人の立ち入りが基本的に想定されていないから、仮に過失運転致死罪が成立するとしても、不起訴(起訴猶予)になることが多い。もし起訴されても執行猶予がつく可能性が高いだろう。
ただし、その場を走り去ってしまったら「ひき逃げ」などとして扱われ、不利な状況になってしまう恐れがある。
高速道路であっても、人を死なせてしまったら損害賠償を請求される可能性がある。このときは歩行者側との「過失相殺」がなされる。
具体的な過失割合は、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ)」によると、ドライバー20、歩行者80が基本。ただし、事故車両や故障車両の付近に歩行者がいた場合には、ドライバー60、歩行者40だ。
ドライバーとして歩行者に気をつけなければならないが、乗っていた車の事故・故障により自分自身が道路に降りて、「高速道路上の歩行者」になる事態も起こりうる。
そのような場合、NEXCO中日本のホームページによれば、
(1)ハザードランプを点灯して、車をできるだけ路肩に寄せる
(2)発煙筒・停止表示器材を車両後方に置く
(3)車より後方の位置で、ガードレールの外側などに避難する
(4)110番、非常電話、道路緊急ダイヤル(#9910)で通報する
とされている。車で高速道路を利用するときには、万が一の事態に備えておきたい。
【取材協力弁護士】
岡田 正樹(おかだ・まさき)弁護士
交通事故被害を中心に、医療訴訟等を手がけて弁護士歴37年。条文構造、実況見分見取図の語る事実、さらに医療記録のカルテと画像分析に興味があります。事故による被害のよりよき解決を心がけています。
事務所名:むさしの森法律事務所
事務所URL:http://www.musashinomori-law.jp/index.html