2019年12月28日 08:42 弁護士ドットコム
2019年の「ユーキャン新語・流行語大賞」のベストテンに選ばれた「#KuToo」(クートゥー)。その呼びかけ人の石川優実さんはことし11月創刊した雑誌『シモーヌ』(現代書館)でヌードを披露した。かつてグラビアモデル、現在は女優の肩書きと並行してフェミニストを名乗る石川さんは、なぜ脱ぎつづけているか。そして、彼女は何と戦っているのか。石川さんにインタビューした。(ライター・玖保樹鈴)
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――日本でフェミニストというと、ジェンダー研究など、アカデミズムのイメージがまだまだあります。だから「フェミニストが脱ぐなんて!」という批判もあったのでは?
脱ぐことについて、フェミニストかどうかは、本質的に関係ないと思います。フェミニストだからやって良いことと悪いことがあるわけではないし、自分の意志として、わたしは脱ぎたい。そんなわたしが、たまたまフェミニストだっただけです。わたしがどういう服装をするかや、わたしの身体をどう扱うかは、わたしの自由です。だから「脱ぎたいから脱いでます」と言いたいです。
――最近は減ったとはいえ、ファッション雑誌では「モテ系アイテム」「愛されメイク」といった、誰かから選ばれたり、評価されたりするための装いが特集されています。「わたしの身体をどう扱うかはわたしが決める」という考えを持てない人は、まだまだ多いと思います。
わたしもそう言えるようになったのは、ここ最近です。フェミニズムに出会ってからようやく、自分が何を考えているかについて、深く向き合えるようになったんです。それはちょうど、投稿サイト「note」で、「#MeToo」について告白する記事(2017年12月21日)を書く少し前くらいです。
当時、5年くらい働いてたアルバイトをやめて、ずっと付き合っていた恋人と別れて、1人で考える時間ができました。そのときに「自分は何がしたいんだろう」とか「今、わたしは何を考えているのだろう」とか、自分の中から生まれてくる気持ちを1つ1つ丁寧に拾うようにしてみたんです。それがあったから、「#MeToo」の告白にたどり着いたというのはありますね。
――かつてのグラビア時代のファンから、「石川優実はここに来て突然フェミニストになった。変わってしまった」と言われることはあるのでは?
急に変わったのではなく、ずっと女性差別に抗議したい気持ちを持っていたけれど、表現する言葉や視点は持っていなかったんです。
フェミニズムを知らなかったころは、自分が感じていることは全部間違ってると思ってたんですね。「なぜ女性だけがメイクをしないとならないの」とか「パンプスを強制されなきゃならないの」とか、ずっと思っていました。でも、そんな思いを肯定してくれるような言葉を1つも持っていなかった。
だからずっと「わたしが間違ってるのかな、おかしいのかな」って思ってました。ちょうどその少し前に、映画『女の穴』の吉田浩太監督に「何の根拠もなくていいから、自分に自信を持ちなさい。芝居が上手くなるには、それが一番だから」って言われてたんです。最初はその言葉の意味がわかりませんでした。
そのあと、フェミニズムと出会って、ようやく「自分の中から湧き出る思いは肯定していいんだ」と自信が持てるようになりました。まさに解放された感じです。
――フェミニズムについては具体的にどうやって学びましたか?
noteに「#MeToo」について書いたころから、SNS上でフェミニストの人たちと出会う機会がすごく増えました。その先輩たちの発言や行動、リツイートされる文章を見て学んでいきました。
不定期で「Wezzy」というウェブメディアで、ジェンダーについて連載をしているのですが、担当編集者が「ジェンダーを学べるようなものを書いていきましょう」と言ってくれたので、専門家にインタビューする中で学ぶこともできています。
わたしには学問の素地がないから怖いし、間違えることもあるけれど、それも含めて大事なことだと思っています。そして、わたしのように専門的な教育を受けてない人たちにも、ジェンダーやフェミニズムが届くように、わたしが発言したり文章を書いたりすることには、意味があるんじゃないかなと思っています。
――「#KuToo」運動をはじめて、自分自身変わったことはありますか?
もともと靴に興味がある人間ではなかったので、今まではそこまで意識していなかったけれど、他人の靴を見るようになりました。そのうえで「この人は履きたくて履いてるのか、履かされているのか」という、外から見ただけではわからないことを想像するようになりました。
――「#KuToo」運動に関しては、「石川さんのやり方ではうまくいかない。もっと万人に共感される運動を目指すべきだ」というトーン・ポリシング(内容ではなく、話し方や態度にケチをつける行為)的な批判もありますね。
「#KuToo」は国会でも取り上げられたし、『新語・流行語大賞』のベストテンにも入ったのに、いまだに「そんなやり方ではうまくいかない」と言われます。でも、自分としては、うまくいってるつもりなんですけど(笑)。
わたしのやり方を否定するものに反発していくのが、わたしのフェミニズムなので、どういうやり方をするかはわたしが決めます。そして、言ったところで伝わらない人がいることはわかっていますが、そういう人たちも取り込みたい気持ちも本当はありますね。
――「石川さんは何と戦っているの? クソリプ?」と聞かれたら、どう答えますか?
何と戦ってるかと言ったら、それは女性差別ですよ。女性差別があるから、わたしは今の運動をしているわけです。ジェンダー・ギャップと、それに付随するすべてのものと戦っているんです。差別を受けたショックで自死を選んでしまう人がいるのだから、差別を放置してはダメだと思うんです。だから「これはクソリプだな」と思っても、女性差別的ではないものには、厳しいリプをしていません。
――女性の中にも「わたしはハイヒールを履きたい」とか「わたしは女性差別を受けた覚えはない」などと言っている人もいると思います。それについてはどう思いますか?
女性の中にも、男性が自分たちより格上だという誤った価値観を刷り込まれてきた人や、差別に気づいていない人はいると思うんです。
わたしも、「#MeToo」するまでは「男性を立てないといけない」と、ナチュラルに思い込んでいたので、言っていることはわかります。だから、そういう人たちが、わたしの言っていることに共感できなくても、目に付けばいいかなと思っています。男性でもジェンダーを理解している人はいるし、逆に女性でもわからない人はいるので、男女で分けることはしていません。
――顔や名前出して活動することは、矢面に立たされることでもあります。バッシングを受けて、しんどくなることはありますか?
グラビアをしていたときも、バッシングやセカンドレイプはあったので、実はそのときとあまり変わらないんです。
逆に当時よりもやりたいようにやっている分、あまり負担に感じていません。だって、ずっと顔を出す仕事だったし、もう全部脱いでますから(笑)。そういう意味でも、わたしみたいな人間が「#KuToo」運動のようなことをするのは大事なのかなと思っています。
――2019年は、「#KuToo」にはじまり「#KuToo」で終わった年でしたね。2020年は何をしたいですか?また、「#Kutoo」運動はどうなっていくと思いますか?
2020年は、フェミニズムとエロがテーマの映画を作りたいと思っています。
「フェミニストって、エロを嫌悪してるんでしょ」というのと、「エロって男性のためのものでしょ」というのは、背中合わせの考えです。だから、女の人が自己決定権と自信を持って生きていっていい、ということが伝えられる、エロなフェミニズム映画にしたいです。
「#KuToo」運動がどうなるかは、そんなのわたしが決めることじゃないですが、終わることはないし、より広がっていくと思います。ゼロから1にしたこと自体が成果だと思うので、ここで止まったとしても、それはそれでと思っています。
脱ぐことは、これまでと変わらず、自分のペースでやっていきたいです。「落ち目になったから脱ぐ」というイメージをなくしたいから、これからも脱いでいきたいですね。
【プロフィール】 石川優実(いしかわ・ゆみ) 1987年生まれ。グラビア女優・フェミニスト。2005年芸能界入り。2014年映画『女の穴』で初主演。2017年末に芸能界で経験した性暴力を「#MeToo」した。それ以降ジェンダー平等を目指し活動。2019年、職場でのパンプス義務付け反対運動「#KuToo」を展開しはじめる。