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Superflyが10年以上リスナーを魅了する理由 バンマス・八橋義幸に聞く、越智志帆が纏う“穏やかな空気”とミュージシャンシップ

2019年12月27日 21:42  リアルサウンド

リアルサウンド

Superfly『0』

 Superflyが2020年1月15日、6作目のオリジナルアルバム『0』をリリースする。前作『WHITE』(2015年5月)以来、約4年半ぶりとなる本作には、シングル曲「Bloom」「Gifts」「Ambitious」、連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)の主題歌「フレア」などを収録。11曲中10曲の作詞・作曲を越智志帆が手がけており、シンガーとしてはもちろん、ソングライターとしての資質を開花させた作品になっている。


参考:Superflyが原点=“0”から導き出した歌への愛情 3年ぶりのライブツアーで繋いだ現在と未来


 リアルサウンドでは、2009年からSuperflyのバンドメンバーとして参加し、現在はバンドマスターをつとめるギタリストの八橋義幸氏にインタビュー。2019年9月から12月にかけて開催された全国アリーナツアー『Superfly Arena Tour 2019 “0”』の手ごたえ、八橋氏がアレンジしたアルバム『0』の収録楽曲「Lilyの祈り」の制作、越智志帆の魅力と変化などについて聞いた。


■“ゼロの状態”からのリスタート


 全国アリーナツアー『Superfly Arena Tour 2019 “0”』の最終日、マリンメッセ福岡公演は、“Superfly史上、最高峰”と言うべき内容だった。「愛をこめて花束を」「タマシイレボリューション」などの代表曲のほか、ニューアルバム『0』に収録された8曲も披露され、Superflyの現在のモードをダイレクトに体現。何よりも越智志帆の穏やかで楽しそうな表情、さらに深みを増したボーカルは強く心に残った。バンドを率いた八橋氏も、「いろいろな条件が上手く重なり、想像よりもすごいものになりましたね。こんなに上手くいったツアーはこれまでになかったかもしれないです」と語る。


「『フジロック』(『FUJI ROCK FESTIVAL ’19』)の出演(7月28日GREEN STAGE)の後、お盆くらいの時期にツアーのミーティングが始まって。志帆ちゃん、総合演出の森正志くんを交えて、セットリスト、演出などについて話したんですが、そのときの雰囲気がいい意味でゆるくて、楽しかったんです。ツアーもすごくいいムードだったし、ライブを観てくださった方からも“志帆ちゃんの笑顔が印象的だった”“穏やかな表情”だったと言ってもらえて、ホッとしましたね」


 アリーナツアーのMCでも志帆は「自分が“ゼロ”だという感覚になったんです。それは“何もない”ではなくて、“ゼロの状態がある”ということ。ゼロの状態にはいろんな可能性があると思ったら、“こんな歌が世の中にあったらいいな”と思い付くようになって、曲を作るのが楽しくなってきた」と語っていた。


 2016年7月から2017年11月までのライブ活動休止を挟み、自分自身の音楽、活動、人生を見つめ直す時間を持ったことで、シンガー/アーティストとして“0”の状態に戻り、それが新たな創作へと結びついたというわけだ。そのプロセスはもちろん、今回のアリーナツアーにおけるボーカル表現、そして、新たに制作された楽曲にも強く反映されている。


「活動休止後の『Bloom』のコンサート(デビュー10周年を記念した一夜限りのプレミアムライブ『Superfly 10th Anniversary Premium LIVE “Bloom”』2017年11月15日東京オペラシティ コンサートホール)の頃から、以前よりも穏やかな顔をしている印象があって。その後のファンクラブツアー、フェス、今回のアリーナツアーのなかで、“そんなにがんばりすぎなくても、自分の良さが出せる”という自信みたいなのものも仄かに感じるようになりました。まさに“0”の状態に戻ったというか、徐々に解放されてきたんじゃないかな。今日も朝ドラ(『スカーレット』)を観て、『フレア』を聴いたんですが、本当に優しく、気持ち良さそうに歌ってるなと改めて感じて。ハイトーンで突き抜けるロックボーカリストとしての資質はもともとあるんだけど、個人的にはあまり張り上げない、低めの声もすごくいいなと思っているんです。最近はそういう声を活かした曲も増えてますね」


■音楽的変化に繋がった“ジャズ”への接近


 もう一つの音楽的な変化は、彼女が活動休止中に聴いていたという“ジャズ”への接近だ。アリーナツアーでは「恋する瞳は美しい」をジャズアレンジで披露。やはりジャズのテイストを取り入れた「Fall」を続けることで、ライブ全体の大きなポイントとなっていた。


「ファンクラブツアーでも、五十嵐誠くん(Tb)が中心になって、何曲かビッグバンドジャズにリアレンジしたんです。アリーナツアーでも、『ジャズにアレンジした2曲が、”0“ツアーのはじまり』と言っていた人もいました。志帆ちゃんはセロニアス・モンクが好きらしくて、その雰囲気は『氷に閉じこめて』のピアノにも出てるかもしれないですね」


 アルバム『0』に収録された「Lilyの祈り」は、一木けいの小説『愛を知らない』にインスパイアされ、“愛されたい”という感情を描いたバラードナンバー。八橋氏がアレンジを参加し、バンドメンバーがレコーディングした。


「志帆ちゃんからドラム、ピアノ、仮歌だけのデモを受け取って、そこからアレンジしました。キーワードは、熱く泣けるバラード。“アルバムのなかでも、いちばん声を張って歌える曲にしたい”という要望もありましたね。(デジタル音を使用せず)バンドの音だけで構成する難しさはありましたが、メンバーの顔を思い浮かべながらアレンジできたのはよかったですね」


 制作においては、志帆と細かいやりとりを行っていたという。最大のポイントは、楽曲全体の構成。八橋氏が提案した「ポップスの王道的な構成」に対して彼女は、かなり大胆なアイデアを戻してきたのだとか。


「志帆ちゃんの提案は、1番のサビの後さらに展開して、次のサビがなかなか出てこない構成だったんです。普通のポップスではあまりない構成だし、ちょっと抵抗したんですが、結局は彼女のアイデアを採用しました。志帆ちゃんは勘が良くて、迷ったときは彼女の意見に従ったほうが上手くいくことが多いんですよ。実際、『Lilyの祈り』も、アウトロからさらに広がる曲になって、それがすごく良かったので。おそらく他の楽曲でも、歌っている人としての直感、ビジョンをしっかり伝えていると思います。それをすべて音に表わすことはできませんが、楽曲の風景が見えていれば、アレンジしやすいんですよね」


■越智志帆は“すごく優しい歌姫”


 ニューアルバム『0』は、11曲のうち10曲が彼女自身の作詞・作曲。八橋氏は本作について、「正直に、自分のなかにあるものを表現した記録でもある」と評する。


「職業作家的な作り方ではなくて、“モノを作るとは、どういうことか”“どんなやり方がいいんだろう?”と模索しながら、自分のペースで作り上げた作品ですよね。“0”という状態になれたのも良かったと思います。僕も曲を書きますが、狙うと失敗することが多いし、ゼロの状態、無の状態のときに降りてきたものを形にするほうが、良いものになるんですよね。もちろんアレンジや作曲のテクニックも必要ですが、最初の瞬間に何が降りてくるか? がいちばん大事なので」


 さらに八橋氏は、Superflyの楽曲制作の変化、そして、新たなスタイルを確立しつつあることを指摘する。


「初期の頃はオールドスタイルのロックンロールが中心だったし、特に(元メンバーの)多保孝一くんは、ルーツにある音楽に敬意を示しながら楽曲を作ることを意識していたと思うんです。いまはそのフォーマットではなくて、志帆ちゃんが感じたことが音楽になっているので、作り方がまったく違うんですよね。このアルバムは彼女自身も“これがデビューアルバム”くらいの勢いで気に入ってるようなので、良かったなと思います」


 今後の彼女に対して、「声の素晴らしさを僕らも味わいたいし、サウンド的にはいろんな組み合わせがあり得る。彼女のイメージ、直感力にも期待したいですね」と期待を寄せる八橋氏。最後に、越智志帆というシンガーが10年以上に渡って多くのリスナーに支持され、愛される理由について聞いてみると、こんな答えが返ってきた。


「もちろん歌姫なんですが、すごく優しい歌姫なんですよ。常に礼儀正しくて、辛い顔、泣いてるところを人に見せず、僕らがバカなことをやってると笑ってくれて(笑)。こっちが困っていたら導いてくれるし、お客さんにもそういう彼女の性格や人間性が伝わっているから、ずっと付いてきてくれるんじゃないかな。僕自身もそうですからね。ミュージシャンって、基本的にまじめな人が多いんですよ。志帆ちゃんも“練習しすぎだよ”と思うくらいまじめだし、ミュージシャンシップがすごくある。音楽家として共感できるんですよね」(森朋之)