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『オダイバ!!超次元音楽祭』を実現させたフジ浜崎綾氏の“熱意”と“真摯さ”

2019年12月27日 06:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●長年培ってきた信頼関係が実を結ぶ
2020年、年明けからアニソンファン必見の音楽番組が放送される。『オダイバ!!超次元音楽祭』(フジテレビ、1月2日24:50~26:50 ※関東ローカル)と題されたこの番組は、水樹奈々やAqoursといった他の歌番組にも出演するような面々はもちろん、花澤香菜、やなぎなぎなど、音楽番組での歌唱がレアなアーティストに、音楽番組初登場となるClariSまで、全17組の多彩な顔ぶれが出演する2時間のスペシャル番組だ。

しかも、あの『FNS歌謡祭』の制作チームが本気で担当するとのこと。そこで、本番組の企画・演出を担当する浜崎綾氏にインタビューを敢行。実現に至るまでの経緯や番組の全体像・基本姿勢を中心に、熱く熱く語ってもらった――。

○■”趣味”だったアニメが“仕事”に

――そもそも浜崎さんは、アニソンやそれを歌うアーティストには、どんなきっかけで興味を持たれたのでしょう?

元々アニメは好きだったんですよ。ただ、それは仕事とは切り離した”趣味”としてで……アニサマ(Animelo Summer Live)とかも行っていましたし、アニメ作品も結構観ているほうだとは思うんですけれど、それは仕事とは別のあくまでも趣味。ちゃんとチケットを買って楽しむ……みたいなスタンスで楽しんでいたんです。

――それが今回のように“仕事”になったのは、なぜですか?

私は2012年から『FNS歌謡祭』の演出をやっているんですけれど、今って地上波の音楽番組に登場する人物があまり入れ替わらない時代になっているんです。自分が番組を作るなかでも若干の行き詰まりを感じるようになりまして、「新たな登場人物を生み出さなきゃいけないな」というフェーズに入っていたんです。そこで思ったのが、「これはもう、絶対アニソンの人たちだろう」と。地上波のゴールデンタイムでも伝わるキラキラ感とインパクトを与えられるのはこの人たちしかいないと思ったんです。

――浜崎さんは、今回取り上げるようなジャンルの魅力について、どういったものだと思われていますか?

まず単純に、例えば水樹奈々さんや藍井エイルさん、LiSAさんみたいなアーティストって、「なかなかここまで歌える人、J-POPシーンに多くないぞ」と感じるぐらい歌唱力が高いんです。だから演出目線で言うと「この曲かっこよく撮りたいな」っていう曲も多い。音楽番組の作り手としては、やっぱりそこにいちばん魅力を感じますね。あと、アニソンというジャンルで言うと、新房昭之監督の『(物語)シリーズ』や幾原邦彦監督の作品がすごく好きで。そのおふたりって、音楽の使い方がすごくうまいと思うんです。音楽やキャラソンがただOPとして置かれているだけじゃなくて、ちゃんと作品のひとつの大事な要素になっているんですよ。自分の中では、作品と音楽が一体化していて、その曲を聴くとその作品やハマっていた自分の思い出とリンクするというところも魅力だと思いますね。

――それに、今の声優さんってよく考えると昔の映画スターとやってること同じなんですよね。主演張って、その作品の主題歌を歌って……。

万能ですよね。しかも声優さんって、プロジェクトの掛け持ちもされますよね? 相羽あいなさんなんて『けものフレンズ』やってRoseliaやって、スタァライト九九組やって……尊敬します。それこそ「やってること、三代目(J SOUL BROTHERS)の岩田剛典さんとかと同じじゃん!」って思いますよ。「昨日踊っていたと思ったら、月9でお芝居しているし」というのと同じですものね。そういった方々と音楽番組を作れるよう、この5~6年をかけて段階を踏みながら、趣味から仕事のほうへと移行させていきました。
○■数年かけた地ならしは、アーティストに報いるため

――段階を踏んで。

はい。何の準備もせずにいきなりバン!と出すだけだと、ただアニメが好きな奴の公私混同に見えてしまうしアーティストのためにもならない。そうはなりたくなかったので、最初は水樹奈々さんみたいな、すでに紅白にも出てドームをやっているような方に『FNS歌謡祭』で「持ち歌も歌えないような状況で申し訳ないんですが、出てもらえませんか?」みたいにお声がけをするところから始めていったんです。

――声優やアニソンに興味のない人でも、違和感を受けないような環境作りをされていた。

たしか最初、水樹さんにはさだまさしさんと「秋桜」を歌っていただいたと思うんですが、さだまさしさんのファンの方々に「お相手の女性、歌が上手ね~」と思ってもらうことが大事だと思いました。出ていただいたアーティストの方に「地上波に出てこれだけインパクトを与えた」みたいにちゃんとメリットを感じていただける、ということを一番心がけていました。そんなスタートから数年を経て、去年は水樹さんの他に、宮野真守さんや上坂すみれさんにも出ていただいて…。そんな中で、自分の中では「そろそろ全面に出していいだろう」というタイミングが来たように感じたんです。

――どのような点から、それを感じたのでしょう?

ひとつは、アーティストとの信頼関係。アニソンアーティストの方や声優さんって、普段そんなにテレビを主戦場とされていないのこともあって“都合よくテレビに使われる”ということに敏感だと思うんですけれど、『MUSIC FAIR』や『FNS歌謡祭』など実際の番組制作を通じて信頼関係を築けてきたというところですね。それに加えて、テレビマンとしてもそういった番組で結果も出してきたことで「今の私なら、ただ趣味に走ったわけではなくてちゃんと会社にもメリットを与えられますよ」という話もできるようになった、というのもあります。

●実現に寄与した、意外な場所からの声

――ただ、放送決定を告知するリリース文には「世代間の情報の断絶が想像以上であるということ」とも書かれていましたね。

実は私がこの番組について動き始めたのは2018年の頭ぐらいで、私としては本当は2019年の春ぐらいには実現したかったんです。でも、やっぱり最終的にジャッジをする編成や50代くらいの管理職の方にはこういった名前が羅列された企画書を見ても「水樹奈々は分かるけれど、ほかは1人も知らないな……」みたいになってしまって。「ちょっとまだ早いんじゃない?」と言われてしまったりもしたんです。でも、私は「絶対他の局が先にやっちゃいますよ!」って思っていたので、この1~2年はもどかしさもありながら社内調整に奔走していました。

――そんな中で、何が決め手で実現に至ったのでしょうか?

よく分からないまま熱意に押された方もたぶんいたと思うんですけれど(笑)、1人2人、小学校高学年とか中学生ぐらいのお子さんがいる人が「子どもが急にAqoursにハマった」とか言っていたり、あとそういう方から「子どもが急にまふまふくんとか天月くんとか言い出したけど、人気あるの?」と聞かれたりもして。「ドーム埋めてますよ! この企画では、そういう人たちを出したいんです!」って答えたら「俺はよく分からないけど、うちの子もすごい好きだって言ってるし、人気あるならやってみるか」と言ってもらえたり……そういったことのおかげでした。

それと、逆に熱量を感じてくれた社員がいろいろな部署にちゃんといたのもうれしかったです。今回取材していただいているのも、広報の方が「これはマイナビさんに取材してもらわねば!」と動いてくれたからなんです(笑)

――『FNS歌謡祭』のときはそういうハードルをどう乗り越えられていたんですか?

『FNS歌謡祭』は私が全部曲目やアーティスト、コラボを決めて、構成を作ってプロデューサーたちにプレゼンしていくんですけれど、最近は80曲ぐらい並んでいる中に1曲くらい分からない曲があっても「よく分からないけど、浜崎が入れてるならいいか」と、そのままスルーしてもらえるようになりました(笑)。だから去年も「『ポプテピピック』? 何これ?」みたいに言われたんですけれど、「いや、大丈夫ですから! 絶対この4時間半でいちばんバズるから、お願いだからこの2分のことはスルーしてください!」って押し通して(笑)

――ポプ子やピピ美まで出ていましたし(笑)

はい。あれも徹底的にバズらせようと思って、「FNS歌謡祭と言えば円卓だよな……めちゃくちゃいい曲を、円卓で聴ポプ子とピピ美が聴いているのは面白いんじゃない?」と、コブクロの「蕾」でポプ子とピピ美を(画面で)抜くことに決めたんです(笑)

――あれは、あらかじめ決まってたんですか!

全部計算していました。上坂さんの歌唱中に、蒼井翔太さんがあのタイミングでLEDに映って「出ていないのに、出た」感じになったりしたのも。
○■“テレビに出た”以上の瞬間が作れた

――ちなみに、2019年の『FNS歌謡祭』の反響はいかがでしたか?

そのLEDの蒼井翔太さんがバズった流れから本物の蒼井翔太さんだな! と。やはり反響がすごくてTwitterの世界トレンドに入った上に、ウェブサイトもサーバーダウンしたと聞いて。

――今回は、どんな仕掛けをされたんですか?

やっぱりまず、出ていただくなら“蒼井翔太”という存在を知らない人にも引っかかってほしいという意味で、倖田來未さんとの「愛のうた」をやろうと決めていたんです。蒼井翔太さんは倖田さんの曲を歌って歌手を志した方だし、私は昔から倖田さんとは親しくさせていただいているので、お願いしやすいと思いました。「今、どうしてもこの方とコラボしていただきたいんです」と蒼井さんの動画も添えてメールを送ったら、「そんなに言うんやったら間違いないんやろうね」と引き受けてくださったんです。

歌唱後には、袖で蒼井さんが号泣して倖田さんと抱き合っていたと聞きまして。ただ“テレビに出た”だけじゃなくて、歌手人生の中で憧れの人と共演を果たした蒼井さんにとって、大事な何かになる一瞬を作れたこともすごくうれしかったですね。

――蒼井さんはもう1曲、水樹奈々さんとの「METANOIA」もありました。

これは“アニソンファンが喜ぶコラボ”ということで、女性キーで歌える蒼井さんの高音を生かして「とんでもないハイトーンで歌う人がいるんだな!」と思えるポイントを作りたかったんです。しかも、ただアニソンを歌っていただいたわけではなくて、気づく人は「『(戦姫絶唱)シンフォギア』コラボじゃん!」って気づく。そういう二段構えでした。

●地上波でやらなきゃ意味がない!

――そういった丁寧な姿勢が生んだ信頼関係もあって、いよいよ『オダイバ!!超次元音楽祭』が実現します。しかも、いきなり2時間というのもすごいですね。

1時間だけだときっと「やっぱこのあたりか」みたいな人に限られてしまうと思って、2時間は絶対欲しかったんです。それに私、やっぱりこういう番組って地上波でやらないと意味がないと思うんです。地上波で放送して、たまたまテレビをつけていたような方に「わ、すごいな」とか「知らなかったけどいい曲だな」って思ってもらえるようにしないと、意味がないと思うんですよね。

――偶然チャンネルを合わせて出会う人がいて、そしてその人を惹きつけるような。

はい。そういう方々の目にたまたま触れたときに絶対何か引っかかるポイントのある番組にはするつもりですし、詳しい方にとっては「もう分かってるよ!」みたいなプロフィールも丁寧に紹介します。曲も鉄板曲をそろえるつもりですし……あとはバナナマンさんとのトーク。声優さんたちって、しゃべりもめちゃめちゃうまいじゃないですか?

――ラジオをやられている方も多いですし。

声優さんのタレント性の高さも引き出したいんです。声優さんたちって、絶対テレビスターになれる。いや、“なれる”というか“なる”んですよ。これから。ですから、そこを引き出すのも結構大きなテーマで。アニメにそれほど興味がなかったりアニソンに詳しくない人にとっての、いい“見本市”のような番組にしたいんです。

――だからこそ、あえて詳しい方ではないバナナマンさんをMCに。

「アニソン好きです!」っていう人が番組のMCだと、詳しくない人には分からない部分を飛ばしがちになってしまうと思いました。だから、それほど詳しくはなくてもアーティストへのリスペクトがあって、ゲストの良さを引き出してくれる方……という意味でお願いしました。きっとバナナマンさんが聞きたいことや疑問に思うことって、一般視聴者の方も同時に思うことのはずなので、視聴者目線から深堀りしてもらえればと思いますね。
○■“アニソンのライブ”の熱をしっかり届けたい

――ということは、雰囲気的にはあまりバラエティバラエティはしない。

これだけの曲数を2時間の中でとなると、ちゃんとした音楽番組になると思います。でもトークの部分では笑いもあって、声優さんならではのちょっとアフレコ遊びみたいなこともしていただいたりと、詳しくない人にもとっつきやすいような要素も散りばめていきたいとも思っています。

――その他、見せ方の上で『オダイバ!!超次元音楽祭』ならではのポイントはありますか?

こういうジャンルの方々って、やっぱりお客さんの熱もパフォーマンスの一部じゃないですか? ですので、今回はセットを360度お客さんに囲まれるセンターステージのような感じにして、お客さんのコールやサイリウムの光もちゃんと画に乗せていきます。

――となると、映像面は普通の歌番組と結構違うものになりそうですね。

はい。それは「アニソンのライブって、こういう感じなんだよ」という空気感まで地上波でお届けしたいから。「ちゃんとコールが来るべきとこに来る」とか「サイリウムが変わるべき色に変わる」みたいなものを大事にしたいんですよ。ですので今回は、結構細かくお客さんを入れ替えます。それは、「この人のファン」という方に入ってもらいたいから。他局の大型音楽番組って、大会場でもお客さんが映ったときに意外と盛り上がってなかっていないこともありますよね?

――本来のお目当て以外のところで。

そうならないように『FNS歌謡祭』ではCMごとにお客さんを入れ替えたりしているんですけれど、そうするとやっぱり盛り上がり方が違うんですよね。この番組でもその手法は取り入れます。アーティストのみなさんがアウェー感ややりづらさを感じないよう、収録から魅せ方まで全てにおいて、そのアーティストの魅力を届けることを大事にしていきたいと思っています。

●浜崎 綾1981年生まれ、北海道出身。慶應義塾大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『堂本兄弟』『僕らの音楽』『FNS歌謡祭』で演出を担当し、08年から『MUSIC FAIR』、14年からスタートした『KinKi Kidsのブンブブーン』を担当。

■著者プロフィール
須永兼次(すながけんじ)
群馬県出身。中学生の頃、ラジオを入り口にアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年フリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガーへのインタビューやレポート記事を手掛けている。
Twitter:@sunaken(須永兼次)