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年末企画:藤原奈緒の「2019年 年間ベストドラマTOP10」 テレビドラマを追いかけることは「時代」を見つめること

2019年12月27日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)「きのう何食べた?正月スペシャル 2020」製作委員会

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第11回の選者は、今年ドラマに関する記事を数多く執筆したライターの藤原奈緒。(編集部)


1.『きのう何食べた?』(テレビ東京系)
2.『本気のしるし』(メ~テレ)
3.『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)
4.『全裸監督』(Netflix)
5.『俺の話は長い』(日本テレビ系)
6.『凪のお暇』(TBS系)
7.『これは経費で落ちません!』(NHK総合)
8.『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)
9.『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK総合)
10.『少年寅次郎』(NHK総合)


 内野聖陽と西島秀俊と食卓の組み合わせが愛おしい『きのう何食べた?』。同性のカップルとして抱えてきた苦労や葛藤、そして家族の絆の物語でもあった。


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 異色のドラマ、深田晃司監督による『本気のしるし』。本来なら限られた地域でしか見ることのできない作品が動画配信サービス(TVer、GYAO!)の普及、SNSにより大きな話題を呼んだことも興味深い。漂うように生きていた浮世(土村芳)と辻(森崎ウィン)は、互いに執着することよってようやく「人間」であることを取り戻していったかのようだった。


 オリンピックと近現代史を複数の視点で描き、凄みのある作品となった『いだてん』。自由自在に駆け回る五りん(神木隆之介)のルーツを辿ることによって、小松勝(仲野太賀)の凄絶な死をはじめ、名もなき市井の人々の歴史が照らし出されていく様は実に見事だった。


 『全裸監督』はスケールの大きさ、俳優たちの熱量に圧倒された。この物語がただのAV女優哀史にならず爽快感溢れるものに仕上がって見えるのは、どんなに村西(山田孝之)が強く言ったところで、複数の劇中劇の終盤が「結果的に女が男に勝つ」ようになっているからだ。とはいえ虚構の世界の一時の高揚のために現実の人生をことごとく壊していく女たちの真実が裏には潜んでいることを考えずにはいられない。


 1話が2つのエピソードによって構成されている『俺の話は長い』。毎度登場人物たちの日常に笑ったりキュンとしたりしていたら、全ての伏線と思いが詰まった最後の「ロッキー」で泣かされた。


 『凪のお暇』は、空気を読むことをなによりの美徳とする現代人が抱え持つ生きづらさを、大島凪(黒木華)と坂本龍子(市川実日子)という、時代が違えば世界でも変えそうな名前を持つ2人と、慎二(高橋一生)という愛すべき厄介な男を通して描いた。


 『これは経費で落ちません!』、『わたし、定時で帰ります。』は実によくできた、新しいお仕事ドラマだ。現代における仕事との向き合い方を考えさせると共に、多部未華子、吉高由里子演じるヒロインがとても魅力的であり、恋愛パートも秀逸だった。


 『腐女子、うっかりゲイに告る。』は傑作ドラマ揃いの、新しく始まったNHK「よるドラ」枠から一本。鮮烈かつ切実な青春の煌きと痛みは何にも変えがたい。『少年寅次郎』(全5話)は、『スカーレット』(NHK総合)の北村一輝演じるお父ちゃんばりに憎めない昭和のダメな父親を演じた毎熊克哉の哀愁に尽きる。


 海外ドラマリメイク、王道シリーズもの等、確実に視聴率をとることを目的としたドラマが乱立する一方で、意欲作も多く見られた。視聴者のテレビとの向き合い方自体が変わり始めている今、それでも見たいと思わせるテレビドラマ作りが求められていると同時に、Netflix、首都圏以外の放送局製作のドラマなど、新たな土壌の可能性も見出され、それが一部ではなく多くの人に浸透したのが2019年だったのではないか。


 そして、新時代の幕開けの年でもあった2019年、多様性を認め合い、自由なライフスタイルが推進される新しい社会は一方で、生きづらさや居場所のなさといった言葉が溢れる社会でもある。そういった現代の姿を、前述したドラマの多くがはっきりと描き出そうとしていた。テレビドラマを追いかけることは、私たちが生きている「時代」を見つめることに繋がる。


 2020年は新たに何が描かれていくのか、楽しみでならない。


(藤原奈緒)