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世界を知る“ニュース”としての価値が向上 2019年必見のドキュメンタリー&リアリティー番組

2019年12月26日 10:32  リアルサウンド

リアルサウンド

Netflixオリジナルドキュメンタリー映画『アメリカン・ファクトリー』独身配信中

 数年前まではドラマや映画の配信が中心だった動画配信サービス。Netflixを中心に、今ではドキュメンタリーやリアリティー番組も数多く配信され、配信作品のバリエーションも大幅に広がっている。今回は今年配信された新作海外のドキュメンタリーおよびリアリティー番組の中でも、新たな流れを感じされる作品をピックアップしながら、2019年を振り返りたい。


■オバマ前大統領夫妻も参入 ニュースのアーカイブとしての社会派ドキュメンタリー


 各動画配信サービスが数年前から力を入れているドキュメンタリー部門。中でも、責任者リサ・ニシムラ氏を筆頭に視聴データをもとに戦略的にドキュメンタリー作品の配信を行ってきたNetflixはやはり今年も強い印象。その中でもビッグニュースと言えば、オバマ前大統領夫妻がNetflixと契約を結び、その第一弾として配信された『アメリカン・ファクトリー』だ。オハイオ州のゼネラル・モーターズの工場が閉鎖。新たに中国企業・福燿が進出し、経営者が変わる中、人々は再び工場で勤務を始めるものの、企業文化の違いや言葉の壁にぶち当たる切実な今のアメリカを姿を映し出している。ニュースで報道された中国資本の進出を、アメリカ側、中国側の両方から映し出すドキュメンタリーは、アーカイブ化されたニュースの記録として動画配信サービスの可能性を改めて示しているとも言える。Netflixだけでなく、Amazon Primeビデオでは『一人っ子の国』『同じ遺伝子の3人の他人』、Huluでは『フリーソロ』(今年のエミー賞受賞作)など良質な社会派ドキュメンタリーが配信されている。劇場公開もDVD化もされないことが多いドキュメンタリー作品だが、配信サービスでは観ることができるニュースのアーカイブとしての価値は今後も高まっていくだろう。


■犯罪ドキュメンタリーで描かれる内容の真偽とは


 特筆すべきは『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティ』と『グレートハック:SNS史上最悪のスキャンダル』だ。どちらも邦題で「史上~の」などとついてしまっているので、逆に内容が軽いように思えてくるがそんなことは全くなく、胃がキリキリと痛くなる内容だった。両方ともSNSが発端となって社会を悪い方向へ動かしてしまった事例だが、『グレートハック』については政治の結果さえ動かしてしまっている。その事実には背筋が凍る。犯罪ドキュメンタリーは今や動画配信サービスだけでなく、英語圏ではポッドキャストでも人気コンテンツである。依然として人々を魅了するコンテンツである一方、課題もある。子ども時代にマイケル・ジャクソンに性的虐待を受けたと主張する人物とその家族にフォーカスしたドキュメンタリー『ネバーランドにさよならを』はエミー賞を受賞した一方で内容の真偽について指摘されている状況だ。この状況では、製作側の真偽を突き止めるためのドキュメンタリーがさらに製作されそうな気さえする。ドキュメンタリーを観る側の心得としても、製作者側の視点が強く反映されている点は必ず考慮し、一歩外から観るよう心がけるべきではと感じる事例でもある。


■Netflixが巨額の資金を投じたビヨンセの『HOMECOMING』


 日本でも今年の年末に嵐のドキュメンタリーシリーズが配信決定となり、大きな話題となっている音楽ドキュメンタリー。英語圏で言えばやはり今年は何といってもNetflixが6000万ドルもの資金を投じて獲得したビヨンセの『HOMECOMING』だ。2018年のコーチェラ・フェスティバルでヘッドライナーを務めたビヨンセの伝説のパフォーマンスとその舞台裏をビヨンセ自ら監督した本作。このパフォーマンスはYouTubeを通じて全世界へライブ配信されたが、一度しか見ることができないと思っていたライブ映像をNetflixでいつでも何度でも観れることへの感動はファンにとってはたまらない。トップアーティストのNetflixオリジナル音楽ドキュメンタリーと言えば、ジャスティン・ティンバーレイク、スティーブ・アオキ、キース・リチャーズ、レディー・ガガ、テイラー・スウィフト等、毎年豪華なラインナップが続いていたが、ついにビヨンセ様が登場といった状況だ。普段ドラマや映画を観ない人でも、ビヨンセのファンであればNetflixに加入することは必至。新たな顧客獲得施策としても、Netflixの気合を感じる投資ともいえる。


■ファブ5がついに日本へ! リアリティー番組から見る世界のLGBTQ事情


 今やNetflixの看板コンテンツの一つとなったエミー賞受賞作『クィア・アイ』の日本バージョンが『クィア・アイ in Japan!』がついに登場。今年の上半期に撮影され、秋に全世界配信が開始された。アメリカの各メディアでレビューが発表されるほど注目のコンテンツでありながら、日本ではまだまだNetflixそのものの認知度が過渡期であるため一部の層にしか届いていないようにも感じる。一方で、『クィア・アイ in Japan!』が配信される前に、Huluではエミー賞ノミネートした2016年のリアリティ番組『ゲイケーション』が配信開始。俳優のエレン・ペイジとその親友イアン・ダニエルが世界のLGBTQ事情を取材するこの番組の第一話は日本だ。今から3~4年前に取材された日本と、今回『クィア・アイ in Japan!』でファブ5が見つめた日本を見比べてみるのも良いかもしれない。


■これまでと異なる配信方法で挑戦を続けるNetflixのバラエティ番組


 動画配信サービスと言えば、世界同時全話一斉配信だが、今年一番新しい動きがあったと感じたのが、Netflixが新たな挑戦を始めたバラエティ番組だ。まずは業界初インタラクティブ番組『You vs. Wild ー究極のサバイバル術ー』の登場。ディスカバリーチャンネルで放送されているベア・グリルスの『サバイバルゲーム MAN vs. WILD』のインタラクティブ版、つまり視聴者がグリルスの行動を決めながらミッションを進める番組である。『You vs. Wild ー究極のサバイバル術ー』では序盤からジャングルでのミッションをこなしていく。様々な選択肢のために過酷なジャングルで何テイクも重ねて撮影したかと思うと、ベア・グリルスはちょっとどうかしていると思うが、ゲーム感覚で観ることができる点では新感覚だ。


 次に注目したいのは、人気のコメディアンがホストを務める『ハサン・ミンハジ:愛国者として物申す』である。フランクな話し方と、わかりやすい映像、(時折行き過ぎた)ジョークで笑いを取り、アメリカ内外のニュースを取り上げる番組は、Netflixオリジナル番組でありながら、YouTubeでも全話配信をしている。バラエティ番組とも情報番組とも言えるこの番組はinfotainment(information/情報とentertainment/娯楽の造語)とも呼ばれ、Netflixユーザーだろうがなかろうがニュースへの関心を向けやすくしており、若い世代への貢献度は高いのではないかと感じる。


 最後は、ヒップホップのオーディション番組『リズム+フロー』。そもそもヒップホップのオーディション番組という内容自体が新しいが、全話一斉配信でもなく、毎週1話ずつの配信でもない、毎週3話ずつの配信という点でも新しいスタイル。全話一斉配信だとビンジウォッチをされてしまえば、SNSやメディアで語られる期間はよほどの人気作ではない限り短期的なものとなってしまう。毎週3話ずつの配信であれば、次回配信までに話題が途切れにくい。地上波放送とも異なる、動画配信サービスならではの話題作りとして新しい動きと言える。しかも毎話登場するヒップホップを始めとした音楽業界のレジェントたちのラインナップにも痺れる。こちらもYouTubeのNetflix公式チャンネルで関連番組やライブ動画を配信しており、オーディションの勝者はもちろん、敗者もSNSでの注目度は高まる一方。遅かれ早かれスターとして花開くのではないかと思えてくる。勝敗に関係なく次世代に貢献するという面でも、本気で出場者をスターにして稼がせようという気概をひしひしと感じる素晴らしい番組だった。


 今年は依然としてドキュメンタリーやリアリティ番組ではNetflixがラインナップ、質ともに豊作と言えるが、Amazon Primeビデオなども徐々にラインナップを増やしてきている。もはや動画配信サービスはドラマや映画だけではない、配信番組の幅広さで勝負する時代。視聴者としては、物理的にすべての作品を観ることができないからこそ、どのように作品を選んでいくべきか悩ましい時代が来年も続くのだろう。(文=キャサリン)