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虚淵玄は2010年代を代表する作家の1人に ロボットアニメ『OBSOLETE』の感嘆すべきロジック

2019年12月26日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

『OBSOLETE(オブソリート)』(c)PROJECT OBSOLETE

 2019年12月3日、YouTube Originalsアニメ『OBSOLETE(オブソリート)』シーズン1のエピソード1~6が配信開始された。


参考:『PSYCHO-PASS サイコパス』は現代の空気を反映 ディストピアに逆らう、熱い人間ドラマ描く


 本作が初のシリーズ作品となる武右ェ門が制作、同じくシリーズ作品を手掛けるのは初めてとなるCGデザイナー出身の山田裕城が監督を務める本作。原案・シリーズ構成を手掛けるのが、2010年代を代表するアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』を送り出した虚淵玄だ。


 本作の主役は、体長2.5mという、人が乗り込む二足歩行メカとしては極限までにリアルな寸法のロボット「エグゾフレーム」。エピソード1では2023年を舞台に、軍用輸送機に搭載された米軍海兵隊仕様のエグゾフレーム「トード」が、ジャングルへ解き放たれ、そのまま戦闘に雪崩れ込む。世界に冠たる米軍の最新兵器として描かれるエグゾフレーム「トード」は、その圧倒的攻撃力で目標の陣地を制圧するが、謎の部隊=アウトキャスト・ブリゲードのエグゾフレームによる長距離狙撃によって作戦行動自体は失敗に終わる。


 続くエピソード2では、一転して8年前の2015年へ時間が巻き戻る。エグゾフレームは、異星人「ペドラー」から、石灰岩との交換によって手に入れる事で、便利な機械として使われていく、という物語の発端が描かれる。この安価なオーバーテクノロジーの、国境を越えた流入は当然先進諸国の経済的優位性を揺らがせることになり、ザンクトガレンという協定や情報操作によってその拡大を阻止しようとする。


 この、派手な戦闘シーンの1話から、物語の発端を解説する落ち着いた2話という組み立ては、本作の高橋良輔プロデューサーが37年前に監督した『太陽の牙ダグラム』を思い起こさせる。『太陽の牙ダグラム』では、第1話でロボット=コンバットアーマー同士による派手な戦闘シーンが描かれ、第2話では敵側のコンバットアーマーのみが登場し、アンチマテリアルライフルでパイロットが狙撃されて戦闘不能に陥った。ここまでのエピソードで、エグゾフレームそのものと、兵器として使われる背景を戦闘シーンと最小限の説明で伝えて終える、見事な導入部だと言える。


 その後、時系列に沿って物語は進み、最初は骨格だけだったエグゾフレームが、簡易な操縦席や装甲が取り付けられ、武装が強化されていく。ゲリラやテロリストに多用される一方で、先進諸国の正規軍への導入が進まず、その間隙を突いて民間軍事会社が台頭する。


 闘いと密接に結びついたドラマ、そして謎解き。『OBSOLETE』はまさに虚淵玄ワールド全開の作品だと言える。『魔法少女まどか☆マギカ』は言うまでもなく虚淵玄の名を押し上げた作品だが、その評価を確実なものとしたのは『Fate/Zero』であろう。


 『Fate/zero』は奈須きのこの『Fate/stay night』の外伝でありつつ、世界観を補完する役割を果たした。また、『魔法少女まどか☆マギカ』は魔法少女のバトルロイヤル、『仮面ライダー鎧武』では仮面ライダーのバトルロイヤル、アニメ『GODZILLA』は「怪獣プロレスにはしないゴジラ」と、制作サイドから提案されたテーマに従って物語を構築し、それに沿ってロジックが組み立てられている。ある意味では職人的な作風であり、それは所属する創作集団「ニトロプラス」がコミックマーケットで大きく成長し、2次創作との親和性が高いという要因もあるだろう。


 虚淵の非凡な作家性を一言で表せば、その類い希なるロジックの構成力であり、テーマに対するルールの過酷さの絶妙なさじ加減でもある。『まどか☆マギカ』では「願い事と引き換えに魔法少女になり、闘ってグリーフシードを浄化し続けないと魔女になる」というルールが物語を苛烈せしめた。


 そしてそのロジックの構成と表裏一体となる細部、ディティールへのこだわりである。写実的な『サイコパス』シリーズを成立させているのも、執筆活動初期から変わらぬ細部への気配りゆえだろう。物語が多元に分岐するゲーム作家を出発点に選べたのも、物語がどこへ行っても矛盾しないようにその舞台を構築する構成力が高いからである。


 さらにもう一つ、細部にリアリティを持たせながらエンターテインメントとして成立させるために、大きな嘘をつく、というのも虚淵作品の特徴である。『まどか☆マギカ』におけるキュゥべえ、『GODZILLA』における恒星間飛行を可能にする異星人種「エクシフ」のように、人知や物理的限界を越えた存在を置いてしまうことで、魔法や巨大な怪獣への根源的疑問を廃し、逆にリアリティを高めている。『OBSOLETE』が従来の虚淵玄作品と大きく異なるのは、自ら考案した「リアルロボットが活躍する物語」が発端となっているところである。


 虚淵玄が影響を受けた作品に挙げる、高橋良輔監督の『装甲騎兵ボトムズ』のスコープドック=アーマードトルーパー(AT)は、顔の意匠を廃した斬新なデザインと身長4mというリアリズムで当時のロボットアニメファンに衝撃を与えた。しかし商業的に成功とは言い難く、長くロボットアニメから、低長身を含めリアルロボットは傍流におかれた。


 その現状への忸怩たる思い、ATへの忘れがたき郷愁が『OBSOLETE』の発端である。2.5mというエグゾフレーム=リアルロボットというアニメを作品たらしめるために、「ペドラー」という大きな嘘が導入された。そうして実現した安価で世界を変革する可能性を持つテクノロジーとしてのリアリティを備えることともなった。さらにその活躍を仔細に描くことが即ち物語に「南北格差」という普遍的なテーマをも語らせることにつながっており、その作品が、巨人・Google傘下のYouTubeから発信されるというアンビバレンツも面白い。


 『まどか☆マギカ』でアニメを、コンテンツ、消費財から、作品、カウンターカルチャーとしての復権を果たさせた虚淵玄ならではのロジックという他ない。30分1クールをパッケージ化してマネタイズするアニメビジネスモデルが崩壊しつつある2019年末に配信公開された12分アニメの『OBSOLETE』。「時代遅れ」というタイトルは実に示唆的である。虚淵玄が時代遅れにするものは何なのか。シーズン2も引き続き刮目すべきタイトルであろう。


■こもとめいこ♂
1969年会津若松生まれ。リングサイドで撮影中にカメラを壊され、椅子を背中に落とされた経験を持つコンバットフォトグラファーでライター。得意ジャンルはアニメ・声優・漫画・プロレス・格闘技・サバゲー等おたく趣味全般。web媒体では週刊ファイト・歌ネットアニメ他で活動中。