2020年1月5日に授賞式を控える『第77回ゴールデングローブ賞』において、テレビ部門・映画部門あわせて34ものノミネーションを果たしたNetflix。
映画部門では作品賞候補に計4作品を送り込み、配給別では2位のソニー・ピクチャーズの倍以上となる17ノミネーションを記録。堂々1位に輝いている。さらにテレビ部門でもHBOを抑えてノミネーション数トップに。製作に多額の資金を投じているというオリジナル作品によって、映画、ドラマの双方で圧倒的な存在感を見せつけた。
Netflixは現在、世界190か国以上で1億5800万人の会員を擁する。トップページには、独自のレコメーデーション機能によってユーザー一人ひとりの好みにあわせた作品が表示されるようになっているという。本稿では膨大なライブラリのなかでもNetflixの「高品質」なブランドを象徴しているオリジナル作品群や独占配信作から、2019年に話題になった新作や、まもなく新シーズンが配信される作品など、いまのうちに見ておきたいドラマシリーズ7本を紹介する。
■エリザベス女王の人生描く歴史大作『ザ・クラウン』。新シーズンではオリヴィア・コールマンが女王役
前述の『ゴールデングローブ賞』テレビ部門でHBOの『チェルノブイリ』と並んで最多の4ノミネーションを果たしたのが、『ザ・クラウン』と『アンビリーバブル たった1つの真実』だ。
2016年に配信がスタートした『ザ・クラウン』はイギリスの君主であるエリザベス2世の「生身の姿」を描く歴史大作。Netflixのテレビシリーズで最も高額な製作費がかけられたとも言われる本作は、政治的な確執や歴史的な事件、王室のロマンスなどを掛け合わせ、エリザベス女王の波乱万丈の半生を描写する。豪華な衣装や宮殿の美術も見どころのひとつになっている。
第1シーズン、第2シーズンで若かりし頃のエリザベス女王を演じたのは、映画『蜘蛛の巣を払う女』や『ファースト・マン』などの出演で知られるクレア・フォイ。2019年11月から新たに配信されたシーズン3からは主要キャストが一新され、中年期のエリザベスをオリヴィア・コールマンが演じている。コールマンは映画『女王陛下のお気に入り』でアン女王を演じ、2019年の『アカデミー賞』で主演女優賞に輝いたことも記憶に新しい。すでにシーズン4の製作も決まっている。
■ 実際のレイプ事件をもとにした『アンビリーバブル』。告発を撤回した被害者と2人の女性刑事描く
2019年9月に配信された『アンビリーバブル たった1つの真実』は、レイプ被害にあった女性にまつわる実話に着想を得て制作された全8話のミニシリーズ。
18歳のマリーは自宅で何者かに襲われ、被害を訴え出る。被害者であるマリーに対して配慮の欠けた聞き取りを続ける警察は、供述に矛盾のある彼女の話を虚偽であると結論づけ、最終的に彼女は告発を撤回する。離れた地では似た手口の犯行が続けて発生し、二人の女性刑事がタッグを組んで捜査を始める。関連がないかに思われた二つの物語がやがて交差する――。
視聴するのが辛くなる内容であるため、途中で離脱する人も少なくないようだが最後まで見通してほしい作品だ。レイプ被害者が「被害者らしく」落ち込んだり、取り乱したりしていないように見えるからといって発言の信憑性が疑われるなど、いまの日本において他人事ではない出来事が描かれている。
■全4話の『ボクらを見る目』も実話を描く。冤罪で捕らえられた5人の黒人青年の物語
映画『グローリー -明日への行進-』などを手掛けたエイヴァ・デュヴァーネイ監督が贈るミニシリーズ『ボクらを見る目』も2019年に配信され、高い評価を獲得した作品だ。『エミー賞』11部門にノミネートされた本作もまた、実話をもとにしている。
主題になっているのは、1989年にニューヨーク・セントラルパークで起きた暴行事件の容疑者として、ハーレム出身の10代の黒人青年5人が無実の強姦罪で有罪判決を受けたという実際の事件。劇中では暴行事件が発生し、彼らが事情聴取を受けるところから、無実が明らかになった2002年、さらにニューヨーク市との和解が成立した2014年まで、25年間にもおよぶ流れを全4エピソードで描く。10代の若者たちが事実と異なる自供を強いられ、犯人にさせられていく様には見るのも苦しくなるような場面も少なくないが、ここで描かれているのは目を背けてはいけない現在まで地続きの問題だ。
■ツッコミどころ満載なのに中毒性。サイコパスのストーカーが主人公の『YOU ー君がすべてー』
まもなく新シーズンを迎えるのは『YOU ー君がすべてー』。もともとは有料テレビ局Lifetimeで2018年9月に放送された作品だが、同年末にNetflixで配信が始まってからそのギルティープレジャー的な中毒性にやられる人が続出。シーズン1は配信から4週間で4千万世帯が視聴したという。
物語の主人公はサイコパスの本屋店員・ジョー。彼が一目惚れした大学院生ベックにストーカーを始め、その狂気的な執着心が後戻りできないところまで暴走していく、というのがシーズン1のあらすじだ。「愛のためならなんでもやる」という精神で犯罪にも手を染めるジョーや、ジョーを信頼していくベック、そして彼らを取り巻く人物の行動はツッコミどころが満載だが、そのツッコミどころこそが中毒性を生んだ理由かもしれない。「ジョーが女性に危害を加える犯罪者であるにもかかわらず、男性として魅力を感じてしまう」という視聴者の声に対し、ジョー役のペン・バッジリーが「犯罪者である彼を美化するべきでない」と主張するなど、議論も呼んだ。
好評を受けてシーズン2はNetflixが引き継ぎ、オリジナル作品として12月26日に配信がスタートする。
■英発の学園コメディー『セックス・エデュケーション』はまもなくシーズン2配信
イギリス発のオリジナルドラマシリーズ『セックス・エデュケーション』は年明けに新シーズンが到着予定だ。シーズン1は2019年1月に配信がスタートするやいなや話題を集め、異例の早さでシーズン2の製作が決定した。
あらすじは、セックスセラピストの母と暮らし、性に関する知識だけは人一番豊富だが自身は経験がない、内気な男子高校生オーティスが、彼の「才能」を見抜いたバッドガールな同級生メイヴとタッグを組んで学校内で秘密の「性の悩み相談クリニック」を開く、というもの。コメディードラマでありながら、多彩な高校生たちの姿を通して恋愛やセックス、アイデンティティー、家庭問題など思春期の若者たちの抱える様々な悩みを丁寧に描いている。
シーズン2は2020年1月17日から配信される。
■高校の生徒会長目指し、大人の政治家顔負けの選挙運動。『ザ・ポリティシャン』
同じく学園ものである『ザ・ポリティシャン』も2019年に配信がスタートしたばかりだが、シーズン2の製作が決まっている。
『glee/グリー』を手掛けたライアン・マーフィーが初めてNetflixとタッグを組んだ作品である本作は、セレブな高校生を主人公にした政治コメディーだ。舞台はカリフォルニア州サンタバーバラ。ハーバード大学に進学し、ゆくゆくはアメリカ合衆国の大統領になることを夢見る高校生ペイトンが、野望の実現に向けてまずは高校を治める生徒会長選挙に挑む様が描かれる。
本物の政治家顔負けの選挙運動を繰り広げる主人公ペイトン役を演じているのはベン・プラット。ブロードウェイミュージカル『ディアー・エヴァン・ハンセン』で『トニー賞』ミュージカル主演男優賞に輝いたほか、映画『ピッチ・パーフェクト』シリーズへの出演でも知られる。『ザ・ポリティシャン』は『glee/グリー』とは異なりミュージカル作品ではないが、プラットが歌声を披露する場面もある。
■「実存の危機」ドラマトレンドの一作?誕生日の夜と自らの死を繰り返すタイムループ『ロシアン・ドール』
2019年に配信がスタートした『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』もシーズン2の製作が決定している。
製作総指揮にエイミー・ポーラーが名を連ねる本作は、自身の36歳の誕生日の夜を延々と繰り返す超現実的なタイムループに陥った女性ナディアが主人公。誕生日パーティーを迎えては毎回自らの死で夜を終えて同じの場所に戻ることを繰り返す彼女が、タイムループの原因を探り、元の生活に戻ろうとする様を描くブラックコメディーだ。
主演はNetflixで配信中の『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のニッキー役で知られるナターシャ・リオン。『グッド・プレイス』や『フォーエバー ~人生の意味~』など、死後の世界や人間の生死をテーマに人間の実存的危機を扱うドラマのトレンドに連なる作品でもあり、散りばめられた伏線や小ネタの考察合戦でもファンを夢中にさせた。