ドキュメンタリー映画『どこへ出しても恥かしい人』が2月1日から東京・新宿K's cinemaほか全国で順次公開される。
同作は、ミュージシャン、画家、詩人として知られる友川カズキの2010年夏の記録を収めたドキュメンタリー。川崎の小さなアパートで暮らし、20年来、競輪にのめり込んでいる友川が、部屋のテレビの前、競輪場で車券を握りしめて叫ぶ姿や、近所の公園の噴水で水浴びをする様子、絵を描き、ライブで歌う場面などが映し出される。映画のために石塚俊明、永畑雅人らと共に車中で演奏したシーンも見どころのひとつとなる。
監督は岩手出身で大阪在住の佐々木育野。山小屋業務を収めた映像作品『或る山』は、『第2回恵比寿映像祭』に出品された。
今回の発表とあわせて、都築響一、佐々木育野監督のコメント、メインビジュアル、場面写真が公開された。
■都築響一のコメント
三上寛をはじめ、当時からいまも活動を続けるフォーク・シンガーは何人もいます。でも自分より40歳、50歳年下の若い層から寄せられる共感度、共振度においては、友川さんが抜きん出た存在でしょう。映像に捉えられたライブのフロアからも、友川さんを献身的に支えるスタッフたちを見てもそれが伝わってきます。
それは、おのれが抱える「ずれ」を世間に、時代にあわせることをしない、むしろ「ずれ」を糧に冷ややかな世界に立ち向かい続ける、その生の強度にだれしもが感応するからでしょうか。老いたもの、若すぎたもの、なにかを忘れ、失い、傷ついたものたちすべてにとっての止血剤として。
■佐々木育野監督のコメント
初めて友川カズキのライブを観たとき、まるでグリコ森永事件の犯人のようだと思った。そんな友川さんにグリコ森永事件のナビゲートを依頼したのが始まりだった。結局、その企画はなくなり、友川さん自身のドキュメンタリーを撮ることになった。
撮影は難航した。友川さんは自分の世界にひきこもるアナグマのように見えた。友川さんをそこから引きずり出そうとしたが、友川さんのギラッとした眼で見返されると、臆病な僕は怖気づき、軽く怒らせるぐらいが関の山だった。有能なスタッフに恵まれながら、素材をうまくまとめられず、ただただ自分に絶望していた。この素材と鬱が僕の中で混ざり合い、もはや鬱そのものであった。この素材のせいで、僕はこの10年間一歩も進めなかった。
そんな折、友川さんが大阪に来ていることを知り、ライブを見ることにした。この映画のことをすっかり忘れながらも、何も変わらない友川さんの姿を見て、「あ、進歩ってしなくてもいいんだ」と気づいた。
進むのはやめた。人生を遊ぼう。
人生はかるい悲劇だ。