2019年12月24日 10:02 弁護士ドットコム
「騒音で苦情が殺到している。火災保険の支払いも遅延しているし、1カ月後に退去してもらう」と大家に言われたが、退去しなければいけないのかーー。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられた。
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相談者は「騒音苦情があったことは初めて知ったし、家賃は支払っており納得いかない」という。転居となれば費用がかかることもあり、できれば退去は避けたいようだ。
大家の言う通り、退去しなければいけないのか。久保豊弁護士に聞いた。
「賃貸借契約を解除するには、単に債務不履行があったということだけでは足りないとされています。
賃貸借契約においては、判例上認められている『信頼関係破壊の理論(法理)』という理論が適用されるため,単に債務不履行があったというだけでは解除できないと考えられるからです」
その「信頼関係破壊の理論(法理)』とは、具体的にどのような内容ですか。
「賃貸借契約のような当事者間の高度な信頼関係を基礎とする継続的契約においては、当事者間の信頼関係を破壊したといえる程度の債務不履行がなければ,その契約を解除することはできないという法理論です。
例えば、賃料の不払いによる解除についても、1カ月分の賃料不払いでは、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたとは評価されないため、契約解除まではできないとされています。
通常は、少なくとも三ヶ月分以上の賃料滞納がなければ契約を解除することはできないとされています」
今回のケースでは、どう判断されますか。
「騒音で近隣からの苦情が殺到していることを理由に賃貸人が契約を解除できるかという点が問題となります。賃借人が大声で騒いだりするなど大きな騒音を発生させることは、他の入居者へ迷惑行為であり、賃借人の用法遵守義務違反に該当することになります。
そして、賃貸人の再三にわたる注意を無視して、賃借人が、近隣への迷惑行為を繰り返す場合には、賃貸人は、賃借人の用法遵守義務違反によって信頼関係が破壊されたとして契約を解除することが可能となります。
なお、どの程度の騒音で契約解除が認められるかは、騒音を発生させている行為の具体的な内容、騒音の性質、発生の頻度や発生時間帯、継続時間、継続期間等から日常生活する上で、受忍限度を超える騒音といえるかどうかにより判断されることになります」
【取材協力弁護士】
久保 豊(くぼ・ゆたか)弁護士
大学卒業後、旅行会社、一部上場IT企業を経て弁護士に。弁護士に転身後、不動産、建築・建設、法人破産、相続などを中心に多数の案件に精力的に取り組む。2008年弁護士登録
事務所名:鎌倉総合法律事務所
事務所URL:http://www.kamakurabengoshi.jp/