2019年12月22日 16:52 リアルサウンド
劇場アニメーション『HUMAN LOST 人間失格』の舞台挨拶が21日、ヒューマントラストシネマ渋谷で開催。貧困エリア“イチロク”の暴走集団のリーダー・竹一役の福山潤、監督の木崎文智、ストーリー原案・脚本の冲方丁が登壇し、竹一の生き様について語り尽くした。
【写真】舞台挨拶に登壇した宮野真守
本作は、日本文学の金字塔・太宰治の「人間失格」を、狂気なSF・ダークヒーローアクションに再構築したオリジナルアニメーション。医療革命により死を克服した昭和111年の東京を舞台に、体内のナノマシンをネットワーク管理する究極の社会システム“S.H.E.L.L.”(シェル)体制によって生かされる人々を描く。
原案のイメージに反したキャラクター作りについて木崎は「原案通りにやると、作品のトーンが暗くなりすぎてしまう。エンターテイメントとして盛り上げていくために、主人公の葉蔵とはまったく逆の性質を与えることによって、作品の導入を引っ張ってもらおうという目的があった」とコメント。
一方冲方は「原案だと鼻垂らしてますからね。これやる? って話してましたけど(笑)。でも、デザインが上がってきた時に髪がツンツンしていたんですよね。あとは、『人が死んでんですけど~』っていうセリフでキャラが決まったような感じがする」と述懐。福山も「僕も、あそこが創造の起点になった。大変キャラクターがわかりやすいセリフでしたね」と納得の表情を浮かべた。
だが冲方が「竹一には、一方的に世界観を説明してくれるくらいの力がないとダメだった。だから、ああいうキャラクターになった」と続けると、福山は「今のは収録前に聞かなくてよかった」と苦笑い。「プロデューサーから、はっちゃけてやってくださいよ~みたいに言われたので“やっていいんだな”と思って楽しくやらせていただいた」と、気負わず収録に臨んだことを明かした。
すると木崎から、「そこでアドリブが?」とのツッコミが。福山は「僕の中ではアドリブをやった印象はなかった」と笑い、「台本にあるセリフはしっかりやりながら、おそらくアクションではこうなるとか、ノッてきて“これくらい許される範囲かな?”と思ってちょこっとやったのが、目立つところにあっただけ」と弁明。そんな福山のアドリブについて冲方は「脚本を書いた時の僕の中のイメージとまったく違っていたので、監督が全部書き直したのかと思った」とジョークを交えつつ、「上を行かれた感じがする」と絶賛した。
「うれしいですね」と喜びをかみしめた福山は、「(宮野真守演じる)葉蔵との対比っていう構造は理解できていた。宮野が葉蔵をどう演じるのか。櫻井(孝宏)さんがどういう空気感でいくかっていうのは自分の中で土台があったし、実際に現場で聞いて、これなら自分がはっちゃけても邪魔にならず、ちゃんとその雰囲気に中和してくれるっていう信頼感があった。なのでテストでやってみて、“なんも言われないから、いいのかな?”と思って、いろんなことをやり始めるっていう。僕の悪癖なんですけど」と話して笑わせた。
今作は、声優の台詞を先に収録する“プレスコ”が用いられ、福山は「自由にやらせてもらえる環境っていうのは、実はそんなにない。自分の思ったことやテンションを受け入れてくれる土壌があること自体が楽しかった。思い切り出したものを受け入れてもらえた感じ」としみじみ。木崎も「プレスコのいいところですよね。相乗効果でよくなっていった」と振り返った。
最後に福山は「収録からはだいぶ時間が経ったけど、みなさんに観ていただいて、ようやく僕の中で『HUMAN LOST』が完成したなと思っています。斬新な、大胆な切り口で描いた作品が長く愛されることを願っています」とアピール。
なお舞台挨拶終盤には、MCから「竹一を偲ぶひとことを」とのムチャぶりも。福山が「いいヤツだったな。僕はやっていて悲壮感をあまり感じなかった。自分の中では、いい幕引きができたと思う」と話すと、「おめでとうございます」と木崎。また冲方は「竹一は前半の主人公。葉蔵にとって、なくてはならない存在だったと思う」と、各々竹一にメッセージを贈る一幕もあった。
※大庭葉蔵の「蔵」は旧字体が正式表記。
※木崎文智の「崎」は「たつさき」が正式表記。
(nakamura omame)