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『おっさんずラブ-in the sky-』春田、決意の最終話 愛し、愛されることで気づいた黒澤武蔵への想い

2019年12月22日 12:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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「人を好きになった自分を否定してんじゃねーよ! 誰かを愛するってことはすばらしいことなんじゃねーのかよ!」


 黒澤キャプテン(吉田鋼太郎)は四宮(戸次重幸)にそう喝を入れる。春田(田中圭)、成瀬(千葉雄大)とともに三たび一堂に会した相撲大会の場面でのことだ。パイロットからの引退を決めた黒澤キャプテンが、恋路に悩み着陸態勢に入れない彼らへ向けて放つ言葉たち。しかし、そこで春田へと向けられるアドバイスはなく、「自分で考えろ!」とあえて突き放すキャプテン。『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)最終話では、そこから春田がいま一度自分を見つめ直すことによって、大きな飛躍を見せることになる。


参考:ほか場面写真はこちらから


 「好きになってもいいですかー!?」。思えば、黒澤キャプテンから春田へのそんな問いかけから動き出した、本作における愛の連鎖。キャプテンだけでなく、四宮や緋夏(佐津川愛美)からのまっすぐな愛を受けた春田は、やがて自分の「好き」を捉え直し、成瀬に恋をすることになる。その片想いながらも誠実にアタックする彼の姿は、前作になかった恋の切なさと瑞々しさを生み出していたに違いない。一方、そうした力強い愛を感じながらも、「なんか見てらんない」四宮に心を惹かれていく成瀬。アプローチの仕方に四苦八苦しながら、遊びではなく、ちゃんと相手を好きになることの喜びを見出していく成瀬の姿にも成長が垣間見えていく。


 春田へと向けられたいくつかの矢印に、誰も結ばれない地獄の三角関係。相手のことを思いやるばかり、自分の気持ちを蔑ろにして好きな人の手助けをしてしまう場面もあった。誠実に、まっすぐと連なった愛の道筋はとても美しくありながら、それがどこにも結実しないのがもどかしかった第7話までの展開。人を愛することに意味はあるのか、と問いたくなるような物語が続きながら、しかし最終話で見せてくれたのは「誰かを愛するってことはすばらしいこと」という不変の心理であった。その信念にみなが一斉に気付くようにして着陸態勢に入るなか、成瀬は春田にこう言った。


 「今までの俺だったら、何も考えずに春田さんとも軽く付き合ってたと思うんです。でもね、春田さんは俺にとって大切な人だから。だから、それはできない」


 春田さんからはいっぱい愛を受け取ってきたから、好きだって思う気持ちの美しさを教わったからこそ、付き合うことはできないという回答。そこで私たちははじめて気づくことになるだろう。愛は結実せずに彷徨っていたのではなく、しっかり相手に届き、その人の目の前を照らす光になっていたのだということに。だから、この恋は決して無駄ではなかったのだと。


 春田が黒澤キャプテンへの気持ちに気づくまでにはこのプロセスが必要だったのかもしれない。人に愛され、愛し、フラれ。本当の愛とは何かを知る。自分にとってキャプテンが、どれだけ大事な存在であったかを顧みる。


「キャプテンのこと、好きになってもいいですか!?」


 冒頭にあったキャプテンから春田への問いかけ、そのアンサーに見えて、実はちゃんとこちらも「問い」になっているのがすばらしい。紆余曲折を経て、春田がキャプテンのことを本当に好きになったのだということを示してくれるから。本作のすべての愛に「意味はあった」のだと思わせてくれるからだ。そしてこれは、何も『-in the sky-』からはじまったことではないのかもしれない。春田と抱き合い「はるたん」と小さくつぶやく黒澤武蔵の姿をもってして、『おっさんずラブ』の大河が描く愛の大きさに気づかされる瞬間。四宮と成瀬、緋夏と道端(鈴鹿央士)に灯る笑顔によってもまた、本作は大団円を迎えたと言えるだろう。 (文=原航平)