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年末企画:井中カエルの「2019年 年間ベストアニメTOP10」 アニメ表現そのものに多様性を感じる1年に

2019年12月22日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

『冴えない彼女の育てかた Fine』(C) 2019 丸戸史明・深崎暮人・KADOKAWA ファンタジア文庫刊/映画も冴えない製作委員会

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優たちも紹介。アニメの場合は2019年に日本で劇場公開された映画、放送・配信されたアニメの作品から、執筆者が独自の観点で10本をセレクト。第4回の選者は、映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営するブロガー・ライターの井中カエル。(編集部)


参考:『冴えない彼女の育てかた Fine』が描く創作活動の熱意 妄想にまみれた中に見える確かな現実


1. 『冴えない彼女の育てかた Fine』
2. 『羅小黒戦記』
3. 『スター☆トウィンクルプリキュア 星のうたに思いを込めて』
4. 『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
5. 『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』
6. 『劇場版 Fate/stay night[Heaven’s Feel] Ⅱ lost butterfly』
7. 『クロース』
8. 『ヴィンランド・サガ』
9. 『ぼくらの7日間戦争』
10. 『幸福路のチー』


 2019年は映像技術の革新を感じさせる作品も多く『スパイダーマン:スパイダーバース』『プロメア』などで新しいアニメーションの形を提示するとともに、手書き表現の良さを追求した『海獣の子供』『エセルとアーネスト ふたりの物語』などもあり、アニメ表現そのものが多様性のあるジャンルだと表明した。上記の作品や『天気の子』がどうしてもランキングに入らないほどの層の厚い嬉しい一年になった。


 10位の『幸福路のチー』は、台湾の歴史と女性の問題を描いたアニメーションとして応援したくなる作品であり、同時に評価しなければいけない作品と感じている。9位の『ぼくらの7日間戦争』は30年前の話題作を現代の社会問題と絡ませて蘇らせた物語が印象に残り、現代の若者と大人の関係性に批評性のある作品に。


 8位の『ヴィンランド・サガ』は、このランキングでは唯一のテレビアニメだが、WIT STUDIOの得意とする暴力表現の過激さと快楽性のバランスが見事。人間の営みと関係ない自然の美しさも印象に残り、哲学的な思想も含む難しい原作を高いクオリティで映像化し、スタジオの勢いを感じさせられた。7位の『クロース』は、11月からNetflixで配信が開始された作品。CGが多くなり忘れ去られてしまった海外の手書きアニメーションが現代のクオリティにアップデートされた映像美が魅力的だ。


 6位の『劇場版 Fate/stay night[Heaven’s Feel] Ⅱ lost butterfly』は、PCゲームやOVA作品などのオタク文化が持つエロスやグロテスクを前面に押し出したアングラな魅力を発揮した。海外のアニメーション映画では絶対に製作することができないであろう、過激なシーンも多いが、色艶が感じられ、この描写がなければ描けない人間の業を感じさせてくれる。5位は、京都アニメーションの作品から『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』。圧巻の音楽描写とリアル志向な人間関係に本シリーズの味わいがある。2019年は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』なども高い評価を獲得している。


 4位の『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』は、世界的に高い評価を受けるフランス・デンマークの作品。かつての日本のアニメにあった東映動画などの面影や世界の古典的名作アニメーションたちが現代に甦ったかのような映像美やキャラクターたちの躍動に感動した。大人も子供も染み入るであろう、アニメーション映画の新たな傑作。


 3位の『スター☆トウィンクルプリキュア 星のうたに思いを込めて』は、近年傑作映画を多く生み出しているプリキュアシリーズの最新作。宇宙をテーマにすることで多様性の重要性を描きながらも、CGでのダンスパートなどで子供に向けられた楽しい演出なども健在。昨年に続く年間ベスト級の傑作の登場で、このシリーズを見なければ日本のアニメ作品を語ることはできないレベルに達しているのではないだろうか。2位の『羅小黒戦記』は中国のWEBアニメーションから生まれた作品。すでに日本のアニメは東アジア全体のアニメーションに大きな影響を与えていると実感するとともに、中国アニメーションの勢いと脅威を感じさせられた。


 1位は『冴えない彼女の育てかた Fine』。シリーズファン向けの作品ながらも、筆者は公開1週間前にテレビシリーズを全話見たライトなファンだが劇場版にも強く引き込まれた。近年は実写映画も含めて病気や死、不倫などを扱った恋愛作品が多いが、今作は普通の高校生のサークル内恋愛という普通の恋愛を魅力的に描く。普通の恋愛の尊さと、恋の障害としてゲーム作りという仕事の話を入れることで、普遍的なお仕事ものやクリエイター論の作品としても見どころの多い作品に。2019年、最もリアルを感じた映画だった。


 今回、日本のアニメ映画はメディアの映画ランキングや映画賞から除外されてしまう傾向にある作品を中心に選出した。映画ファンからはあまり語られない子ども向け、オタク向けと侮られかねない作品にも、日本アニメ界の魂ともいうべき熱い情熱が込められていることが伝われば、これほど嬉しいことはない。


■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。