2019年12月22日 09:42 弁護士ドットコム
職場の上司からパワハラを受け続けてきたことをネット掲示板に投稿したら、名誉毀損といわれたーー。弁護士ドットコムにこのような相談が寄せられている。
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相談者によると、ネット掲示板には、「役職係長からのパワハラが酷い!助けて!」という内容の投稿をしたという。企業名は出したが、上司の個人名は出していないようだ。
ところが、パワハラをしたという上司が投稿を発見。上司は「被害者はこっちだ!投稿内容から特定できるし、誹謗中傷で訴える」と憤慨しているという。
相談者は名誉毀損で訴えられるのではないかと不安を感じている。このような場合、相談者はどのように対応すべきだろうか。徳田隆裕弁護士に聞いた。
ーー開示請求で身元が明らかになったり、相談者が名誉毀損で訴えられる可能性はあるのだろうか
「発信者情報の開示請求や名誉毀損で訴えられる可能性はありますが、今回のケースでは発信者情報の開示請求が認められることは難しいと考えます。
まず、発信者情報の開示ですが、今回のケースでは企業名は記載されているものの個人名は記載されていません。『役職係長』という記載だけでは、名誉毀損の対象となる個人が特定されていないといえます。
そのため、相談者の投稿で当該上司の名誉権が侵害されていないとして、発信者情報の開示が認められないことが考えられます。
ただし、企業が小さく、『役職係長』という記載だけで、当該上司であることを推知できる場合には、相談者の投稿で当該上司の名誉権が侵害されていると判断される可能性はあります」
ーー発信者情報の開示請求のその他の要件についてはどうだろうか
「発信者情報の開示請求では、他に『権利が侵害されたことが明らかであるとき』という要件を満たす必要があります。
今回のケースでは、名誉を毀損されたと訴える上司が『相談者の投稿の内容が真実ではないことが明らかである』ことを立証する必要があります。
真実は、この上司がパワハラをしていたのであれば、この要件を満たさず、発信者情報の開示請求は認められないことになります」
ーーもし、発信者情報の開示請求が認められ、上司から名誉毀損で訴えられた場合、相談者はどのような対応をすればよいだろうか
「その場合、相談者は(1)当該投稿が公共の利害に関する事実であること、(2)当該投稿がもっぱら公益を図る目的でされたこと、(3)投稿の事実が真実であること、または、真実であると信ずるについて相当な理由があること、を証明すれば、名誉毀損の責任を免れます。
改正労働施策総合推進法により、企業に対してパワハラ防止措置義務が明記され、パワハラ加害者に対する懲戒処分が厳格になっている昨今であれば、(1)の要件を満たす可能性があると思います。
また、相談者が当該上司に対する個人攻撃の目的で投稿していないのであれば、(2)の要件を満たす可能性があります。パワハラの言動が録音されていれば、(3)の要件を満たします。
そのため、当該上司から名誉毀損で訴えられても損害賠償請求を免れる可能性があります」
ーー会社の内部についてインターネットに書く際は、どのようなことに気をつけるべきだろうか
「私としては、インターネットに会社の内部のことを記載しないことに尽きると考えます。
会社の内部のことをインターネットに記載すれば、名誉毀損や信用毀損などのトラブルに巻き込まれるリスクがあり、デメリットだらけです。
パワハラの被害を受けたのであれば、インターネットに書き込むのではなく、会社のパワハラ相談窓口、労働局の相談窓口、弁護士などに相談をした方が、パワハラの問題解決につながります。インターネットに書き込んでしまうと、トラブルが拡大するリスクがあります」
ーーどうしても、インターネットに会社の内部について書きたい場合はどうすればよいのだろうか
「その場合は、会社名や個人名、会社の機密情報を記載せずに、抽象的な記載にとどめましょう。今回のケースであれば、企業名を記載しなければ問題ないと考えます。 また、インターネットに記載する前、自分の投稿が誰かの名誉を毀損することにならないか、一呼吸おいて冷静に考えてみることをおすすめします」
【取材協力弁護士】
徳田 隆裕(とくだ・たかひろ)弁護士
日本労働弁護団、北越労働弁護団、過労死弁護団全国連絡協議会、ブラック企業被害対策弁護団に所属し、労働者側の労働事件を重点的に取り扱っています。「未払残業・労災・解雇から働く人を守る金沢の弁護士ブログ」(https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog)を開設して、毎日、労働問題について情報発信をしています。
事務所名:弁護士法人金沢合同法律事務所
事務所URL:https://www.kanazawagoudoulaw.com/