2019年12月22日 08:42 弁護士ドットコム
2019年10月に台風19号が日本に接近した際、NHKニュースの公式ツイッターが、ひらがなばかりのニュースを流したことが話題になった。
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これに対して、「英語で書いた方が良いのでは」「バカにしているのか」など、様々な意見が寄せられたが、英語が分からない人には英語で情報を流しても意味がない。
近年、日本に在住する外国人の数が急増している。出入国在留管理庁によると、2019年6月末時点で、中長期在留者数は251万人、特別永住者数は31万人。4月に「特定技能」という新しい在留資格がはじまったこともあり、今後も増加するだろう。
日本に住む外国人がトラブルに巻き込まれないために、どんな支援が必要なのだろうか。(オダサダオ)
2009年に行われた国立国語研究所の調査によれば、定住外国人が理解できる外国語として「日本語」をあげたのは62.6%だったのに対し、「英語」は44%だった。この時、日本にいる在留外国人を国籍別にまとめると、中国、韓国・朝鮮、ブラジルの順になる。
2019年6月現在は、中国、韓国・朝鮮、ベトナムとなっており、2009年と比べると60万人ほど増えている。また、国籍も多様化しており、2009年よりも英語を母語としない人々が多い。
自分の母語と日本語のみしか話せないという在留外国人が多数いるため、日本語学校や、専門学校、大学などでは、日本語が公用語となっている。
そこで出てくるのが、「やさしい日本語」だ。弘前大学の佐藤和之教授らのグループが考案した。やさしい日本語のきっかけになったのが、1995年1月の阪神・淡路大震災だった。日本語も英語も十分に理解出来ず、必要な情報を受け取ることが出来ない人が多くいた。その教訓を生かして考案された。
弘前大学社会言語学研究室は、1999年にやさしい日本語をもとにした「災害が起こったときに外国人を助けるためのマニュアル」を作成した。また、各自治体やコミュニティFMなどが、外国人向けの情報誌や防災マニュアルにやさしい日本語を使っている。NHKもやさしい日本語を使ったNEWS WEB EASYを立ち上げている。
やさしい日本語がここまで普及したのは、在留外国人が多国籍化していることと、多言語対応が難しいためでもある。
移民先進国の欧州では、多言語化が進められているが、多言語化に関する経費が多くなっている。欧州連合(EU)は加盟国の言語(24言語)を公用語としており、報告書などを多言語化するという政策を取っている。この政策の予算は、2012年の時点で11億2300万ユーロとなり、EU予算の1%を占めている。
多言語政策を進めるには、お金がかかる。また、翻訳者、通訳者の確保など、お金以外の問題もある。その点、やさしい日本語は、多国籍化する在留外国人に対しても有用だ。
では、外国人はトラブルに巻き込まれた場合、誰を頼るのか。結局は友人だ。外国人の人々は驚くほど、コミュニティ意識が強い。互助会ではないが、まずは友人達か、自国から来ている先輩たちを頼る。
外国人の人たちの口コミの力は侮ることができない。例えば、日本語学校に在籍するあるネパール人の学生が、とある専門学校に受かったという情報が流れると、他のネパール人の学生からの出願が急増する。
ビザの枠外でアルバイトをしていたことが入国管理局に発覚し、ビザ更新が出来なかった学生が、「理由書を書くとビザ更新が出来た」という話を聞けば、皆、同じような理由書を書いてくる。
冗談のような話だが、本当の話だ。日本語学校や専門学校、そして大学の先生達が、外国人留学生から得体のしれない情報(大抵嘘が多い)についての相談を受けた時、「どこからその情報を手に入れたの?」と聞くと、大抵の答えは「友達に聞いた」というものだ。そのような人たちの友達の影響力にはすさまじいものがある。
ここでも結局、語学力が大きな壁になっている。外国人受け入れが進み、自治体のホームページや対応窓口は整備されつつある。しかし、各国語に対応している訳ではない。英語であればまだ対応出来るが、韓国語や中国語、さらにはベトナム語、シンハラ語、タミル語に至っては、対応を求めることが難しい。
だから、日本語も英語も十分に理解できない在留外国人は、友人達、言い換えれば母語が通じる人達を頼ることになる。
しかし、母語が通じる人を頼っても、それだけでは解決できないこともある。特に在留資格に関する問題は、自分では解決できないことが多い。2019年に入り、東京福祉大学が研究生などとして受け入れた留学生約3200人のうち、688人が所在不明となっている問題が明らかになった。
その中には、在留延長が認められずに退学となった研究生が313人いた。近年、留学生がビザで定められている時間(週28時間、長期休み中は40時間)の枠を超えているケースが続発しており、ビザ更新の審査が厳しくなっている。
こうした時にどこに頼れば良いのだろうか。ビザの問題以外でも外国人はどこを頼れば良いのだろうか。母語が通じる人の伝手をたどって、行政書士や弁護士などに相談に行くことがある。
それ以外にも各自治体は、外国人向けの相談窓口を設けている。例えば、東京都国際交流委員会のホームページ(https://www.tokyo-icc.jp/index.html)は、Google翻訳に対応する形で、くらしの情報や相談窓口などを載せている。
その他にも、外国人向けのホームページを作成している自治体もあるが、これらのホームページは日本語、英語、中国語、韓国語のみとなっていて、その他の言葉を母語とする人々には使いづらい。
結局、すべては言葉の問題に突き当たってしまう。2013年に横浜市が行った調査によると、在留外国人が日常生活で困っていること、その上位3項目はそれぞれ、日本語の不自由さ、仕事さがし、病院・診療所に外国語ができる人がいないという問題だった。
言葉の問題はある程度乗り越えられる問題だ。やさしい日本語や、Google翻訳など、各種翻訳サイトを使って意思を交わすことは出来る。自分よりも日本語が上手な友人に一緒に行ってもらうこともできる。
しかし、もっと重要なことは、日本人がまず意識を変えることだ。災害情報を「英語で書いた方が良い」と指摘する「無理解」が解消されない限り、本当に必要な支援は進まないのではないだろうか。