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テーマは前作よりも現代的に 『ジュマンジ/ネクスト・レベル』が示す、“人間性”の重要度

2019年12月21日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

『ジュマンジ/ネクスト・レベル』

 絵本を原作に、ボードゲームで起きた出来事が本当に起こってしまうという内容の、ロビン・ウィリアムズ主演ファンタジー映画『ジュマンジ』(1995年)。そのアイディアを基に、ボードゲームをTVゲームに置き換えて、高校生たちがゲームの世界に入り込んでしまうというアドベンチャー映画に蘇らせた新たな映画が、ドウェイン・ジョンソン主演の『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(2017年)だった。これが、なんと世界で90億ドルを超える大ヒットを記録。ここまで観客に支持される作品になるとは、誰も思わなかったのではないだろうか。


参考:前作の魅力は確かに「継承」! ロック様たちの“憑依芸”光る『ジュマンジ/ネクスト・レベル』


 本作『ジュマンジ/ネクスト・レベル』は、そんな特大ヒットを受けて製作された、直接の続編だ。監督ジェイク・カスダンをはじめ、ドウェイン・ジョンソン、ジャック・ブラック、カレン・ギラン、ニック・ジョナス、そして高校生役を演じたキャストが再び集結。内容は、前作の設定をオーソドックスに踏襲するものには違いない。だが、描かれるテーマは、かなり現代的なものになっている。本作の内容を掘り起こしながら、その重要な部分を考えてみたい。


 呪われたゲームの世界で、ドウェイン・ジョンソン演じる筋肉ムキムキ、ブレイブストーン博士の姿になって大活躍した高校時代の経験を忘れられない、いまではニューヨークの大学生になっているスペンサーは、クリスマスに帰郷した際、ふたたびあの禁断のTVゲームに手を出してしまう。だが、修理されたゲーム機は万全ではなく“バグった”状態。操作するキャラクターをプレイヤーが選べず、スペンサーを助けに来た仲間たちも含め、一部不本意なキャラクターになって、ふたたび「ジュマンジ」の世界で冒険を繰り広げることになる。


 表面的には、近年ではむしろ珍しいくらい、“よくある続編”といった風情だ。そのなかで目につく変化といえば、ダニー・グローヴァーとダニー・デヴィートの“おじいちゃんコンビ”が、同じくゲーム世界に吸い込まれ、孫世代とともに冒険するというところ。それぞれに若い肉体になり、ゲームの中では、もはや演じているキャストがダニー・グローヴァーとダニー・デヴィートではないのだが、TVゲームの知識が全くない彼らが孫世代のプレイヤーたちに何度も同じことを聞いてしまうという、コント番組のようなくだりは、いちいち笑えてしまう。


 新キャストとして最も輝いていたのが、盗賊のスキルを持つキャラクターを演じた、アジア系の女優でラッパーでもあるオークワフィナだろう。アジア系出演者で占められたことが話題になったアメリカのロマンティック・コメディ『クレイジー・リッチ!』(2018年)で、口の悪い主人公の友人役を魅力的に演じていたことが記憶に新しい。本作でも見事なコメディ演技で笑わせてくれ、さらにはゲームクリアのための重要な役回りも引き受けている。


 このように、おじいちゃんたちや、アジア系の女性が加わったことで、本作は前作でも描かれていたテーマ、“多様性”がさらに強調され、明確な像を持った作品となった。それは、“ゲームの中で自分とは違う人間になれる”という、もともと前作からのシリーズが持っていた設定のポテンシャルが活かされたことを意味する。


 われわれの生きる現実世界では、いまや、オンラインで世界中のプレイヤーたちが、自分の好きなキャラクターの姿になって、TVゲームの世界で対戦したり、一緒に冒険をすることができるようになっている。テキストを打って言語で意思疎通する場合を除けば、そこでは、人種や性別、年齢の違いなどは、ほとんど意味がなくなる。重要なのは、ゲームの中でどう振る舞うか、である。あらゆる先入観から解放され、行動だけでその人が判断される。これは、ある意味“ユートピア”ではないのか。


 ゲーム以外でも、「バーチャルYouTuber(Vチューバー)」に代表されるように、技術革新によって、例えば中年男性が若い女子のキャラクターになりきって動画を配信することも可能になってきている。そこでは、“男らしさ”、“女らしさ”、“若者らしさ”などの社会常識や、民族性、肉体の制約にとらわれることもない。映画では、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)、『アバター』(2009年)などでも描かれてきたことだ。


 イギリスのSFドラマ『ブラックミラー』シーズン5のエピソード『ストライキング・ヴァイパーズ』は、このような状況をかなり面白く描いている。学生時代からの男同士の親友が、オンラインのバーチャル格闘ゲームで、男女のキャラクターになりきって対戦するうちに、互いに恋愛感情が芽生えてしまうのである。現実世界で会っているときには性的興奮を相手に覚えないが、なぜかゲームの中では、お互いに求め合ってしまう。これは従来のゲイとも異なる、複雑な性的指向だ。肉体からの解放は、このような人類が初めて出会う、未知の可能性を含んでいる。本作でも、ある登場人物が驚くような選択をすることになるが、それもまた、すべての制約から解き放たれた、新時代の価値を示すものとなっている。


 だが重要なのは、キャラクターを変更したところで、その人の内面自体が全く変わるわけではない、ということだろう。本作でも、“キャラクターたちの中身が入れ替わる”ということでのドタバタ描写がある。しかし結局、その人は“その人”なのだ。入れ替わった役を演じている出演者たちが表現しているのは、そういうメッセージである。オンラインゲームそのもののような世界を体現する本作『ジュマンジ/ネクスト・レベル』が示すのは、新しい技術の到来によって重要視されるのは、むしろ“人間性”ということなのだ。(小野寺系)