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熱海までエリア拡大、観光型MaaS「Izuko」で伊豆の旅はどう変わる?

2019年12月21日 07:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
東急とJR東日本、ジェイアール東日本企画による伊豆半島での観光型MaaSサービス「Izuko」(イズコ)の実証実験「Phase2」が、2019年12月1日から2020年3月10日までの日程で開始された。

「Izuko」のサイトにアクセスし、サービスの利用に必要な情報を登録すると、鉄道、バスが2日間乗り放題になる「デジタルフリーパス」や、観光施設などをお得な値段で利用できる「デジタルパス」を購入できる。12月10日に現地取材会が行われ、実際に参加して「Izuko」の使い勝手を試したので、その様子をレポートしたい。
○■観光型MaaS実証実験「Phase2」の改善点は

伊豆半島での観光型MaaS(マース : さまざまな交通機関等をシームレスに利用するサービス)は、鉄道、バス、AI オンデマンド乗合交通、レンタカー、レンタサイクルといった交通機関をスマートフォンで検索・予約・決済し、目的地までシームレスに移動できる2次交通統合型サービスとして、今年4~6月に実証実験「Phase1」が行われた。

今回は「Phase1」で明らかになった課題の改善を図った「Phase2」の実証実験となる。改善点は多岐にわたるが、とくに大きく改善されたのは次の2点だ。

まず、「Phase1」では専用アプリ「Izuko」を使ってサービスを提供していたが、「Phase2」では「Izuko」をウェブサービスに切り替えた。つまり、アプリをダウンロードしなくても、ブラウザで「Izuko」のサイトにアクセスするだけでサービスの利用が可能になった。

現地取材会で概要説明を行った東急の都市交通戦略企画グループ課長、森田創氏は、「Izuko」をウェブサービスにした理由について、「『Phase1』の実施時、コールセンターにいただいた問い合わせの半数以上がアプリのダウンロードに関するものでした。また、ご利用いただくお客様のことを考えれば、観光用のアプリは毎日使うわけではないので、電源を消費するアプリをスマホに常駐させておく必要性はなく、我々サービス提供側としても、新たなサービス追加や価格設定の変更等を柔軟に行えるウェブサービスにする利点が大きかったのです」と話す。

もうひとつの大きな改善点として、サービス提供エリアが大幅に広がったことが挙げられる。とくにJR伊東線の熱海~伊東間がデジタルフリーパスでの乗り放題エリアに加わったことは大きい。

ジェイアール東日本企画の常務取締役営業本部長、高橋敦司氏は、「熱海や伊東には、現状でも多くのお客様に来ていただいていますが、その先の観光地をどのように巡っていただくかが伊豆観光の大きな課題となっています。今回、熱海までエリアが広がったことで、熱海に宿泊いただいているお客様に、『Izuko』を使って伊豆半島を周遊していただくプランの利用を訴求しやすくなったと思います」と述べた。
○■「Izuko」の実際の使い勝手は

「Izuko」の利用体験をレポートする前に、利用に関して注意しなければならない点をいくつか挙げておきたい。

「Izuko」で購入するチケット等の料金はクレジットカード決済となっているため、サービス利用にあたってクレジットカードが必要になる。また、サービス利用には「Izuko」サイトへのログインが必要となるが、その際、登録したメールアドレスに送られる認証キーを入力しなければならない。つまり、Gmailなどスマホで確認できるメールアドレスを登録する必要がある。

デジタルフリーパスの購入時も注意を必要とする点がある。たとえば東京駅から伊豆急下田駅まで行く場合、途中の熱海駅までは通常の乗車券を購入し、熱海駅から先の区間で「Izuko」を利用することになる。熱海~伊豆急下田間の乗車券を重複して買ってしまうと、伊豆急下田駅の窓口で払戻しの精算が必要となり、手続きが煩雑になる。

特急「踊り子」を利用する場合、「Izuko」では特急券を購入できないため、東京~伊豆急下田間の特急券を別途購入しなければならない。このときも、乗車券を伊豆急下田駅まで購入してしまわないように注意してほしい。

さて、伊豆急下田駅に到着した後、まずはオンデマンド交通のデモンストレーションを見学した。「Izuko」では、市内の27カ所の乗降場所で自由に乗降りできるオンデマンド交通の配車予約を行うことができる。

このオンデマンド交通には、地元の交通課題を解決するというミッションがある。伊豆のような高齢化が進む地域では、鉄道の駅や最寄りのバス停で降りた後、自宅までのいわゆる「ラストワンマイル」の足をどう確保するかが課題になっているのだ。

しかし、地元の高齢者はスマホやタブレットの利用になじみがないため、今回の実証実験では、専用のチューナーを接続した自宅のテレビ画面からオンデマンド交通を呼び出すしくみを導入している。

このテレビ画面でのオンデマンド交通予約のデモンストレーションに協力した下田市議会議員の橋本智洋氏は、「実証実験の時間が9~17時までに限られていますが、お酒を飲みに出かける夜の時間帯も使えれば、利用が増えるのではないか。また、1度に1件の予約しか受け付けない仕様になっていますが、帰りの分も予約できればより便利になると思います。メニューも、オンデマンド交通予約に特化したシンプルなものにしたほうが、高齢者には使い勝手が良いのでは」と、サービス内容に注文を付けた。

筆者は伊豆急下田駅前の土産物店「下田時計台フロント」にて、「Izuko」を使って名物のカレーうどんを割引価格で食べ、その後は寝姿山ロープウェイに乗車した。寝姿山ロープウェイでは、「Izuko」を使ってデジタルパスを購入すると、頂上の展望レストラン「THE ROYAL HOUSE」でワンドリンク無料のサービスが受けられる。

最後はオンデマンド交通を使い、「黒船ホテル」の日帰り温泉の露天風呂に浸かりに行くことにしたが、その途中、「Izuko」のサービスに接続できないトラブルに見舞われた。サーバーエラーが原因と思われるが、本格的にサービスを提供するのであれば、より安定的な運用に努めてほしいと思う。
○■「Izuko」の可能性と課題

今回、改めて「Izuko」を使ってみて、MaaSサービスの可能性を再認識した。まず、「Izuko」のようなMaaSサービスに最も大きく期待されることは、「シームレスな移動の実現」ということだろう。

伊豆半島を見渡せば、中伊豆エリアを走る伊豆箱根鉄道駿豆線は交通系ICカードの導入ができていない。来年の東京オリンピック・パラリンピックでは、同路線の沿線が自転車競技の開催場所となるが、スムーズな見物客輸送ができるのか、不安が残る。

また、交通系ICカードに関しては、「Suica」(JR東日本)と「TOICA」(JR東海)の境界である熱海~函南間をまたいで利用することができない「エリアまたぎ」の問題が大きい。定期券に限っては、2021年春から「Suica」「TOICA」さらに「ICOCA」(JR西日本)のエリアをまたいでの利用が可能になると発表されたが、通常の乗車に関しては、この問題の解決はまだ先になりそうだ。

「Izuko」はこうした問題を一気に解決する可能性を含んでいる。仮にJR東海の協力を取り付け、熱海~三島間もサービスエリアとして取り込むことができれば、熱海から駿豆線沿線まで、キャッシュレスでシームレスに移動できるようになる。

もうひとつの大きな可能性としては、「Izuko」自体が、伊豆へ旅行に出かけるインセンティブになりうることが挙げられる。今回、「Izuko」で観光施設のパスを購入すると、施設ごとにデザインの異なるデジタルスタンプをもらえるしくみが導入された。こうした機能を使い、ゲームやスタンプラリーなど企画すれば、それを目的に伊豆を旅行する人も増えるだろう。

高橋氏は、「『Izuko』を実験のための実験ではなく、地元のインフラとして残すことが我々の最終目的」と話す。「Phase2」の実証実験は来年3月10日で一旦終了するが、「地元のインフラ」として将来的に残るかどうかは、伊豆の最大の集客期である東京オリンピック期間に向け、より使い勝手を改善し、海外からの訪日客を含めた多くの人に「便利さ」を体感してもらえるかにかかっているのではないか。

○筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

慶應義塾大学卒。IT企業に勤務し、政府系システムの開発等に携わった後、コラムニストに転身し、メディアへ旅行・観光、地域経済の動向などに関する記事を寄稿している。現在、大磯町観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員、温泉ソムリエ、オールアバウト公式国内旅行ガイド。テレビ、ラジオにも多数出演。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。(森川孝郎)