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アウディのコンパクト「A1 スポーツバック」はどう変わったのか

2019年12月20日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
アウディのエントリーモデル「A1 スポーツバック」がフルモデルチェンジを行い、第2世代へと進化を果たした。A1 スポーツバックは日本でも人気の高いコンパクトカーに分類される5ドアハッチバックのモデル。2011年より日本に導入された初代は3万台を販売し、アウディのエントリーカーとしての役割を果たすとともに、アウディ愛好者のセカンドカー需要などにも応えてきた。2代目となる新型は先代同様、全長約4mのコンパクトなボディが特徴。アウディに求められるプレミアム感とスポーティーなキャラクターを強化している。

○アウディの末っ子が堂々たる風格に

初代には、よりカジュアルでスポーティーな3ドアモデルも存在したが、新型は5ドアモデルに一本化した。ボディサイズは全長4,040mm、全幅1,740mm、全高1,435mm。ホイールベースは2,560mmとなる。先代比だと全長+55mm、全幅-5mm、全高-5mm(5ドア比較)で、全長こそ伸びているものの、それでもまだ、およそ4mとコンパクトだ。ただ、ホイールベースは先代比+95mmで、ボディよりも大幅に伸びている。つまり、先代と同等のサイズを維持しながら、車内をより広くしたというわけだ。

スタイリングはアウディらしい質感の高さと同社ラインアップで最も小さいという強みをいかした若々しいキャラクターが特徴であったが、新型でアウディは、その強みをさらにブラッシュアップし、さらなるスポーティーさを前面に打ち出した。

特に象徴的なのがフロントマスクだ。1980年代にアウディが「WRC」(世界ラリー選手権)に投入したスポーツモデル「アウディ・スポーツクワトロ」を連想させる3連スリットをフロントグリルに備えている。小さいながら、アウディのアイデンティティをしっかりと受け継いでいることを示す部分だ。

先代では丸みを帯びていたフォルムが新型では直線的になり、アグレッシブなキャラクターも加わったA1 スポーツバック。アウディの末っ子といえど、堂々たる風格を持つクルマに仕上がっている。

インテリアも、がらりと変わった。丸みを帯びたデザインだったダッシュボードは、エクステリア同様に直線的でシャープなものに進化。アウディ自身も「コンパクトクラスで最もスポーティーなインテリアになった」と自信を示す。最も大きく変化したのはセンターディスプレイで、先代の特徴となっていた「格納式」を廃止し、新型では「固定式」とした。ディスプレイ自体は大型化し、機能も増えた。配置はドライバー寄りに傾け、コックピットをドライバー重視とした。

メーターパネルは「アウディバーチャルコクピット」を採用。最近はやりのフル液晶メーターパネルだが、アウディは積極的な普及を図ってきた。メーターの計器類の表示だけでなく、ナビ画面もメーター内に大きく映せるので、運転中の視点移動を減らすことができるのもメリットだ。

車内は明確に広くなっている。そのゆとりは前席でも感じられるが、先代との差が最もよく分かるのは後席だ。足元が広くなり、頭上空間も広がったことで、より実用的なクルマとなった印象である。ラゲッジスペースの容量は、先代比65L増の335Lを確保。アウディの末っ子は、1台で何でもこなせるクルマになった。

パワートレインは「35 TFSI」と呼ばれる1.5Lの4気筒ターボエンジンを搭載。最高出力は150ps/5,000~6,000rpm、最大トルクは250Nm/1,500~3,500rpmだ。燃費向上対策としてはアイドリングストップに加え、巡行中にアクセルオフの惰性走行となると、4気筒エンジンのうち2気筒を休止する「シリンダーオンデマンド」という機能も備わる。トランスミッションはDCTタイプの7速ATで、駆動方式は前輪駆動(FF)。同エンジンは、A1としては上級仕様向けとなる。1.0Lの3気筒ターボエンジン「25TFSI」を搭載するエントリーモデルは来年、日本に登場する予定だ。

○価格差を考慮して仕様を選ぼう

今回は、2台のA1 スポーツバックに試乗した。標準仕様に装備を追加した導入記念車「1st Edition」と、スポーティーさを際立たせた専用エアロパーツ、スポーツシート、スポーツサスペンションなどを備える「Sライン」だ。

コンパクトなボディと1.5Lターボエンジンは、パワフルとまではいかないが、試乗した箱根の峠道でも元気な走りを見せてくれた。コンパクトカーであるだけに、エンジンを積極的に回し、パワーを引き出しながら走るのは楽しく、十分に魅力的だ。ギアは7速まであるので、変速のレスポンスも良好。必要とあれば低いギアを維持し、エンジンを高回転まで回してくれる。それだけに、ギアの操作性に優れるパドルシフトがないのが、やや残念だ。もちろん、シフトレバーではマニュアル操作が可能なので、困ることはない。

小さくともアウディだなと感じるのは、静粛性の高さと快適な乗り心地だ。小さいクルマだからといって、乗り味もチープということはない。標準車とSラインの違いはサスペンションのセッティングで、Sラインの方が硬めのスポーツサスペンションとなる。ただ、バランスのよさでいうと、現状では標準車がいい。

具体的なグレードでいえば、「35 TFSI Advance」、もしくは装備をアップグレードした「1st Edition」を推したい。標準車のサスペンションの方が、タイヤとの相性もよく、クルマの動きもステアリングからより伝わってくるし、カーブでのロールはあるが、その動きには安定感がある。アウディファンであれば、Sラインのスポーティーな外装は魅力的だろうが、新型A1はそもそものがスポーティーなので、見た目を求めるためであったとしても、Sラインがマストな選択肢であるとは思えない。その分の費用を装備向上に充てる方がクレバーだ。個人的には、走り好きの人であったとしても、A1のパワーがあれば標準サスで満足できるのではないかと思う。

A1 スポーツバックの最大の課題は、その価格だ。エントリー価格は365万円だが、この仕様では必要最小限の装備となり、ナビゲーションやリヤカメラ、シートヒーターなどの快適装備、「ACC」(アダプティブ・クルーズ・コントロール)や車線内維持支援機能「レーンキープアシスト」といった先進安全装備がオプションとなってしまう。これらの主なオプションを標準化した「1st Edition」は443万円だが、ブラックルーフや5スポークアルミホイールなどのデザインアクセントをまとめた「デビューパッケージ」が不要であれば、10万円程度は抑えることができる。

A1 スポーツバックのような欧州の上級コンパクトを選ぶ人であれば、最小限のアイテムで済まそうという人は少なく、装備内容も重視するだろう。まさに「1st Edition」同等のアイテムが欲しくなるはずだ。そうすると、コンパクトカーに総額500万円近い予算を組めるかどうかが争点となる。アウディはフォルクスワーゲンのグループに属するメーカーだが、グループ内には姉妹車の「ポロ」がある。もちろん、快適装備などには違いがあるものの、ポロであれば予算をグッと抑えられるのも事実だ。

A1とポロは、どちらも基本はしっかりと作られた実用車だが、やはり、作り込みには差がある。両車を見比べれば一目瞭然だが、細部の仕上げはアウディの方が上手だ。また、ポロの場合、1.5Lエンジンは「R-Line」というスポーティーな仕様に搭載されるが、こちらの足はSラインよりも硬いので、単にスポーティーなだけでなく、走りの上質さを求めるなら、やはりA1となるだろう。

予算を抑えつつA1を選びたければ、来年導入予定の「25 TFSI」搭載モデルを待つのが賢明だ。先代でも、1Lエンジン車が販売の90%を占めるなど人気の仕様であっただけに、その完成度には期待できる。ただ、全面刷新を図り、基本装備を充実させているだけに、現行型よりもエントリー価格は上昇しそうだ。

ともあれ、コンパクトカーらしい元気なキャラクターを打ち出したA1は、これまでの手頃なアウディではなく、街中でも快適なアウディというポジティブなイメージを獲得できている。その若々しいキャラクターから、鮮やかな色を選んで遊ぶ楽しみもある。値段は上がっても、その活躍には期待できそうだ。

○著者情報:大音安弘(オオト・ヤスヒロ)
1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。(大音安弘)