トップへ

波瑠が大事にした、也映子の「涙」 『G線上のあなたと私』ラストに向けた願い

2019年12月17日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

波瑠(撮影:池村隆司)

 今夜、ついに最終回を迎える火曜ドラマ『G線上のあなたと私』(TBS系)。大人のバイオリン教室という、日常の片隅を舞台に繰り広げられた温かな会話劇が、ついに幕を閉じてしまうと思うと寂しくて仕方ない。


 うまくなったからといって、何者になるわけでもないのが大人の習いごと。そんな損得計算のない空間と、そこで知り合った仲間が、息苦しい人生を救ってくれることもあるのだと、そっと教えてくれた。このドラマそのものが、家でもない、職場でもない、居心地のいいサードプレイスのような作品だった。


 果たして、バイオリンを通じて出会った年齢も立場もバラバラな也映子(波瑠)、理人(中川大志)、幸恵(松下由樹)の3人が、どのような結末を迎えるのか。今夜のオンエアが待ちきれないあなたへ、主人公・也映子を演じた波瑠のインタビューをお届け! 「新しい挑戦だった」と語った本作への思い、そしてあの名シーンの裏話や共演者との思い出も話も披露してくれた。


【写真】バイオリンのポーズで微笑む中川大志と波瑠


■「也映子は、自分にないものをいっぱい持ってる女性」


――いよいよ最終回ですが、今の心境はいかがですか?


波瑠:原作のマンガを踏まえた上で、ここまでドラマオリジナルな展開を迎えるとは思っていなかったので、正直驚きました。也映子と理人と幸恵さんの関係を、ドラマならではのストーリーとして膨らませられたところとか、眞於先生(桜井ユキ)との関係も掘り下げられたりできたので。会話劇を演じていて、とても面白かったです。


――確かに、会話による印象的なシーンが多く感じました。


波瑠:『G線上のあなたと私』は、何か劇的な事件が起こるような物語ではないです。だからこそ、この作品の精密さを上げていくためにはどうしたらいいだろう? という取り組みが、私の中ではすごく新鮮でした。例えば、刑事ドラマだったら絶対に事件が起こるから、この先どうなるかな? と見てもらえますけど、この作品は「私たち何者にもなりません」と言いながら進んでいく物語なので(笑)。見どころをどう作っていくかが、お芝居のなかに託されているような気がしていました。今まで携わってきた作品とは違うアプローチで、私の中では新しい挑戦でもあり、エネルギー源になっていたと思います。


――その新たな取り組みについて、詳しくお聞きしてもいいですか?


波瑠:セリフとストーリーを覚えるというよりは、自分が演じるキャラクターの願望や欲求など、奥にあるものに目を向けていく……みたいな。言葉にすると、とてもシンプルになってしまいますが、そういうことなのかなと。


――確かに、セリフがない表情だけのシーンでも、感情が伝わってくるような感覚がありました。


波瑠:今回、台本の中に「……」がすごく多かったです。その「……」が、何も言えないのか、それとも何か言いたくて考えているのか。だとしたら、何を言いたいのか。セリフはこう言っているけれど、この人が本当に言いたかったことはなんだろうって考えながら読み解いていくシーンが多くて、結構頭を使いました。


ーー7話で、理人と也映子が電話した場面でも「あと0.5秒早く答えられてたら」という心の声がありましたが、そしたらどう答えたかったんだろうと思いながら見てました。


波瑠:そうなんですよね。基本的に会話劇なので、そういうシーンが多くて。想像力を使いました。


ーーいち視聴者としては、今回の役どころは、波瑠さんの魅力が存分に発揮されているように見えます。


波瑠:ありがたいことに、「ハマり役だね」とか「のびのびと演じているように見える」と言っていただけることが多くて。最初は意外でしたが、とても嬉しいです。でも、実は也映子と私は全然違うタイプの女性なんですけどね。


――全然違うんですか? すごくナチュラルに演じられているので、似ているところがあるのかなと(笑)。


波瑠:あんなに酔っ払ってキャイキャイしないし、カラオケではしゃいで「女々しくて」も歌わないです! 私は普段、也映子ほど元気な人ではないので(笑)。逆に羨ましいなって思います。人のことを元気にしてあげたり、相手を思って何か言ってあげたり、そういうところはすごいなって。私にないものをいっぱい持っている女性です。でも、一方で、完璧なヒロインにしないようには意識しました。この人が無職なわけがない、この人が婚約破棄されるわけがない、と見ている方に距離を置かれないように。也映子のダメな部分を出しながらも、可愛げがあると思われるように工夫しました。


――酔っ払った勢いで理人に本音を吐き出して号泣したり、幸恵さんに抱かれながら胸が痛いって泣くシーンは、すごくダメなところなんですが、愛しさが増しました。


波瑠:ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。物語の中で、也映子は割とよく泣きますが、私がいいなと思うのは、自分のためだけに泣くわけではないところです。自分が可愛そうだから泣くのではなく、相手のことを思う涙だから印象的だって言ってくださる方もいて。泣くシーンは也映子のいいところが見える場面だと思って、大事にしましたね。ジメッとしないように意識しました。ただ演じている側としては、突然泣くので、大変ではありますが(笑)。


■「オンエアを見て、自分の表情にびっくりしました」


――第3話では、理人の壁ドンならぬ“シャッタードン”が大きな話題になりました。実際に演じられたときはどのような気持ちでしたか?


波瑠:最初、台本では“壁ドン”となっていましたが、現場に行ったらシャッターの前で、「え、ここでいいの?」となりましたね(笑)。何度か、私の目線のカメラに向かって中川くんがシャッタードンしているのを、横目で見ていたのがシュールで面白かったです! ロマンチックなシーンあるあるですよね、撮影現場では、全然ロマンチックじゃないっていうのが。シャッターなので、ボヨンボヨンって2人で弾んじゃいましたし、「ガシャーン」って大きな音がしましたし(笑)。


――そんな裏側があったんですね(笑)。改めて、中川さんの印象はいかがですか?


波瑠:すごくしっかりしていて、年齢を聞くと「あ、そっか、まだ21歳だったね」となるくらい。落ち着いてらっしゃるし、お芝居がうまいので若いのにすごいなと思います。 私や松下さんっていう年上の女性たちの会話にもすんなり参加していて、とても自然体な方です。


―― 松下さんについては、ドラマ『ナースのお仕事』シリーズ(フジテレビ系)でファンだったとおっしゃっていましたが、共演して何か感じられたことはありましたか?


波瑠:純粋にすごい女優さんです。存在感と説得力があって、グッとくるところはしっかり掴んでくるし、コメディに振ってもツボに入ってくるというか。もう全てが的確です。多分、自分が頭の中で思い描いてやろうというお芝居と、自分の体で表現されるお芝居が一致しているのかと思います。本当に圧倒されました。でも、ご本人はすごく優しくて、明るく和ませてくださいますし助けられました。


――初共演の3人でしたが、すっかり打ち解けましたか?


波瑠:みんな初めてバイオリンを触るという共通体験をきっかけに距離が縮まったと思います。後半は物語の関係で、3人一緒のシーンがすごく少なくなってしまいましたが、それでもたまに会えばバイオリンの話ですぐに盛り上がりました。也映子が弓を買い換えたので、私は新しい弓で練習していますが、やっぱりちょっといい音が出るんですよ。それを見た中川くんから「ちょっと弾いてみたい! 貸して」と言われたり。「やっぱ違うねー」みたいな感じの会話が多いですね。


――眞於先生役の桜井ユキさんは、波瑠さんと「友だちいない自慢で盛り上がった」と教えていただきましたが。


波瑠 :あー(笑)。そうなんです! その流れで「一緒に焼き肉に行こう」と言ったまま、行けていません。意外とスケジュールが合わなくて。いつか実現させたいですね。


――理人の兄・侑人役の鈴木伸之さんとは『あなたのことはそれほど』以来の再共演で、2ショットシーンに懐かしさを覚える視聴者の方も多かったのではないかと思いますが。


波瑠:ちょうど2人だけのシーンは(『あなたのことはそれほど』で演じた主人公の勤務先と同じ)眼科でしたし(笑)。もちろん今回の物語では、也映子と侑人は直接何か関係があったわけではないですが、眞於先生と自分の境遇に近いものを感じていたからか、ちょっと許せないと思っていたんでしょうね。人間って反射があるじゃないですか。オンエアを見て、也映子の表情に自分でびっくりしちゃって。あまりに侑人に対して素っ気なさすぎ、と思って(笑)。やっぱりちょっと拒否感みたいなのがあって許せない感情が也移子にあったのでしょうね。“也映子、普通にね。落ち着こ!”と思って演じましたが、自然と出ちゃっていましたね。


■「誰もが幸せになるラストに……」


――人生に迷った也映子が、バイオリンとそれを通じて知り合った仲間に救われていましたが、波瑠さんにとって“これに救われた”というものはありますか?


波瑠:きっとあると思いますが、コレと挙げるのは難しいですね。「あのときのアレに気付かされたな」とか、「あの人がきっかけをくれたな」とか、いついつのコレというよりは、積み重ねや繰り返してきたものに救われているように思うので。この仕事をしていると、迷ったり戸惑ったり、考え込んで抜け出せなくなりそうになることがたくさんありますが、その中で現場にあるものや現場にいる人たちに元気をいただいていますね。意外と、苦しんでいるものそのものに救われることもあるので、世界って表裏一体だなと思ったりします。


――そうですね。好きなものだからこそ、より良くしたいと悩んだり、うまくいかないと絶望したりするものですよね。


波瑠:はい、だから作品を通じて少しでもポジティブなメッセージが伝えられたら、私としても救われますね。結局、自分をどうにかできるのは自分だ、みたいなセリフもあったように、自分が誰といるか、どんな時間を過ごすかも、自分次第だと也映子を演じていて思いました。それは決して諦めではなく前向きな実感というか。なので、也映子たちも、そして見ているみなさんも、誰もが幸せになるラストになったらと願っています。


(取材・文=佐藤結衣)