2019年12月16日 10:32 弁護士ドットコム
2019年は芸能人の薬物問題がワイドショーを賑わせた一年でもあった。有名どころでは、ピエール瀧さんがコカイン、元KAT-TUNの田口淳之介さんと小嶺麗奈さんが大麻、元タレントの田代まさしさんが覚醒剤で逮捕されている。
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直近では、沢尻エリカさんが合成麻薬MDMAとLSDの所持容疑で逮捕・起訴され、出演CMや作品が放送中止や撮り直しになった。
芸能人が逮捕されれば、CMなどのスポンサー企業にも大きな損失が生じる。相次ぐ事件を受けて芸能界からも薬物検査を実施すべきではないか、という意見が出た。
たとえば、JOYさんは、抜き打ちも含めた定期的な薬物検査を提案。これに賛同したダレノガレ明美さんは所属事務所に対し、所属芸能人の薬物検査を願い出たという。
すでに社員については、特に大規模事故が起こりえる交通・運輸業界などで薬物検査を実施している企業もあるという。
プライバシーの問題も生じそうだが、薬物検査を社員や芸能人に義務付けることはできるのだろうか。黒柳武史弁護士に解説してもらった。
違法薬物の使用などは犯罪であり、従業員が故意に違法薬物を使用した事実が発覚したときは、重大な懲戒処分の対象にもなり得ると考えられます。
他方で、企業は労働者のプライバシーに不当に介入してはならず、薬物検査を義務付けることについては、慎重な考慮が求められます。
たとえば、従業員の健康診断については、企業が受診を義務づけることを認める裁判例があります。
これらの裁判例は、企業の従業員に対する安全配慮義務の履行の観点や、受診義務に関する法律の規定(労働安全衛生法66条5項)などを根拠にしていると解されます。しかし、薬物検査の実施に関しては、このような根拠は認められません。
従業員のプライバシーを考慮すると、一般的に企業が従業員への薬物検査を義務付ける必要性や合理性までは、認められ難いと考えられます。
以上を踏まえると、薬物検査が認められるのは、職業上の観点などから、「特別の必要性」が認められる場合に限られると考えられます。
また、必要性が認められる場合でも、基本的には、検査の必要性や方法などについて、従業員に事前に説明した上で、同意を得て実施すべきであると考えられます。
交通・運輸業など、薬物の影響による危険運転が行われれば、人の生命・身体の安全に関わるような業種においては、特別の必要性が認められる可能性はあるといえます。
企業と雇用関係にない芸能人についても、企業がそのプライバシーに不当に介入できないことについては同様です。
CM出演などの場合、出演する芸能人が薬物問題で逮捕されると、企業やスポンサーなどに多大な影響や損失が生じることが予想されます。そのため、出演に際し、薬物検査を行う特別の必要性は認められ得ると思います。
ただ、実施にあたっては、やはり事前に、検査の必要性や方法などについて説明の上、同意を得て行うことが適切であると考えます。
【取材協力弁護士】
黒柳 武史(くろやなぎ・たけし)弁護士
2006年関西学院大学大学院司法研究科修了。2007年弁護士登録(大阪弁護士会)。取扱い分野は、民事・家事事件、労働事件、刑事事件など。
事務所名:中本総合法律事務所
事務所URL:http://nakamotopartners.com/