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22年前を彷彿とさせる演出の数々 TVアニメ『ポケットモンスター』は大人こそ楽しめる作品に

2019年12月14日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

『ポケットモンスター』(c)Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku (c)Pokémon

 アニメ『ポケットモンスター サン&ムーン』の続編として、サブタイトルのない『ポケットモンスター』(テレビ東京系)が、11月よりスタートした。原点回帰と言えるこのシリーズには、一度離れたポケモンファンをもう一度呼び戻す力がある。


参考:『名探偵ピカチュウ』のピカチュウは実写映画における映画スター! その“かわいさ”が意味するもの


 ポケモンの最初のソフト『ポケットモンスター 赤・緑』が発売されたのが、1996年2月。その約1年後の1997年4月にアニメ『ポケットモンスター』は始まった。ポケモンマスターを目指す少年サトシと相棒のピカチュウの冒険と成長を描いた物語は、新たに発売されるゲームシリーズとともにタイトルと地方を変え、現在まで7作、来春には22周年を迎える、日本を代表する長寿アニメ番組となっている。


 例えば、2004年に『ポケットモンスター ファイアレッド・リーフグリーン』として『赤・緑』がリメイクされているように、ポケモンには何度も原点回帰のタイミングはあった。劇場版の第1作として1998年に大ヒットを記録した『ミュウツーの逆襲』が、今年『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』として全編フル3DCGで公開されたことも、それに当てはまるだろう。


 テレビアニメシリーズに関して言えば、2016年に放送を開始した『サン&ムーン』からキャラデザインが大幅に変更されたことが話題になっていた。サトシの声優を務める松本梨香は、「絵の表現はちょっとずつ変化していても、サトシの魂は変わらない」とツイートした。そしていまだ記憶に新しいが、『サン&ムーン』にてサトシは悲願となるポケモンリーグ制覇を果たした。各地方で行われているポケモンバトルの大会「ポケモンリーグ」で過去計6回出場し、今回が22年越しの初優勝だった。これを機に、シリーズは再び始まりの地・マサラタウンへと帰ることとなる。


 第7シリーズ『ポケットモンスター』は、サトシとゴウをダブル主人公とした、これまで登場した全ての地方が舞台。冒頭にて、ポケモンファンをもう一度呼び戻す力があると記述したが、それを強く感じさせたのは、サトシとピカチュウが出会う前の“エピソード0”が描かれた第1話「ピカチュウ誕生!」だ。


 「ポケットモンスター、縮めてポケモン。それはたくさんの謎を秘めた不思議な不思議生き物のこと」。そんな懐かしいナレーションとともに始まる第1話では、オーキド博士のポケモンキャンプに参加する幼少期のサトシの姿が描かれる。部屋に貼られた“御三家”ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネのポスター、ビリリダマの目覚まし時計、ドードリオの朝鳴き、「お天道さん?」とベッドから飛び起きる寝坊のサトシ……と22年前の第1話を彷彿とさせる演出があちこちに。


 ミュウ、ガルーラ、ニドキングといった初代151匹が生息するカントー地方のマサラタウンで、ひとりぼっちのピチューがガルーラ親子から独り立ちをして、ピカチュウへと進化する様子は、子供の頃にリアルタイムで第1話を観ていたであろう、特に20代後半、30代にとっては込み上げるものがあるはずだ。かくいう私も、小学2年生で『ポケットモンスター 緑』をプレイし、当たり前のようにアニメシリーズを観ていた世代。あまりの胸熱の展開に思わずNetflixで「ポケットモンスター」と検索してしまったほどだ。


 第2話では、幼少期にすれ違っていたサトシとゴウが、ポケモントレーナーを目指すことのできる10歳になり、ルギアを通して出会いを果たす。早くもルギアを登場させるというのも、1999年公開の劇場版『幻のポケモン ルギア爆誕』を思い起こさせる部分。この回からは、様々なシリーズのポケモンが入り乱れるように登場。『ポケットモンスター ソード・シールド』から“イヌヌワン”の鳴き声でお馴染みのワンパチやアーマーガアも姿を見せるものの、まだモブキャラに収まっているのは、最近のシリーズに疎いであろうポケモンファンを離さない工夫のようにも思える。


 余談だがエンディングには、ポケモン音楽の生みの親でもある株式会社ゲームフリークの増田順一氏がプロデュースし、パソコン音楽クラブが作詞、作曲、編曲を手がけた「ポケモンしりとり(ピカチュウ→ミュウVer.)」が流れる。テクノミュージックを軸に、しりとりがテーマとなっており、1997年にミリオンセラーを記録したシングル『めざせポケモンマスター』に収録されたイマクニ?の「ポケモン言えるかな?」を否が応でも連想させるユニークな楽曲だ。


 第3話には「なんだかんだと聞かれたら」「答えてあげるが世の情け」の口上でお馴染みのロケット団からムサシ、コジロー、ニャース、ソーナンスが登場。彼らは『ヤッターマン』のドロンボー一味、『アンパンマン』のばいきんまんのようなポジションを担っており、当たり前の存在でいるロケット団にゴウが「ロケット団! 初めて見た! ニャースが喋ってる!」とリアクションしているのは新鮮で面白い。


 フシギソウの大行進の謎を解き、改めてポケモンの魅力に心を躍らせたサトシとゴウは、第4話で『ポケットモンスター ソード・シールド』の御三家の一匹、ヒバニーと出会う。やがてゴウにとっての相棒となるポケモン。ゴウは第1話から「夢じゃない、未来だ! そして、その未来は俺の手の中にある!」と希望に満ちたセリフを口にしていたが、悪事を繰り返し生活するヒバニーに「世界は広いんだ。行きたいって思えばどこへだって行けるし、いろんなやつと会える。だから、なんだってやってみればいいじゃん」と投げかける。ダブル主人公ということも今シーズンの大きな特徴であり、大胆さの中に実現への固い意志を持ったゴウが、今後サトシとの旅にどんな色を加えていくのかにも注目である。


 15日放送の第5話では、物語の中ですでに話にも出てきていたポケモンが巨大化する現象「キョダイマックス」にカビゴンを通して触れられる。これは『ポケットモンスター ソード・シールド』からの新システム。第1話にて大胆な原点回帰をしながらも、第2話から徐々に新シリーズの要素を加えていることに気づくはずだ。


 2020年7月には、およそ2年ぶりの完全新作『劇場版ポケットモンスター 2020』が公開されることが発表され、さらには『ポケットモンスター ソード・シールド』の世界を舞台にした新作短編アニメ『薄明の翼』が来年1月15日より、ポケモン公式YouTubeチャンネルにて配信されることもアナウンスされた。2016年に社会現象を巻き起こし今もなお多くのユーザーを持つ『Pokemon GO』、ピカチュウやミュウツーだけでなく、ゲッコウガ、ガオガエンといった近年のシリーズからの御三家も参戦する『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』など、ポケモンに回帰する機会は至るところに存在している。けれど、今回のアニメ新シリーズには、特に筆者と同世代にとっては、あの頃の胸の高鳴りを思い出させてくれる要素が手招きするように輝きを放っている。


■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。