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Hump Back、TETORA、東京初期衝動、BRATS……圧倒的なフロントマン擁する、次世代担う女性バンド

2019年12月14日 11:51  リアルサウンド

リアルサウンド

東京初期衝動『SWEET 17 MONSTERS』(初回限定盤)

 今、女性バンドマンがアツい――。“ガールズバンド”ブームといわれてだいぶ経った現在だからこそ、あらためてそう言いたい。どこか男性優位のロックシーンの中で生まれた、ガールズバンドやガールズロックという言葉。“ガーリー”、“キュート”、“セクシー”、はたまた“男勝り”だとか、俗にそう言われてきた“女性らしい”ロックの概念はここ数年で変わりつつある。いうなれば、“女性らしいロック”が、“男性にはできないロック”というオリジナリティに昇華されたように思うのだ。


 詞、声、メロディ、演奏、感性……、そう思わせる要素は多々あれど、理屈抜きに一聴して感じられるものは“歌”だろう。ボーカリストから発せられるエネルギーこそが聴く者の心を揺さぶるのである。それは単に“歌唱力”といった技術でもなければ、“表現力”というようなセンスとも限らない。聴き手が直感的に受け取る、漠然としたものであり、表面的より内面的、むしろそのボーカリストの存在こそがなによりの説得力であったりする。そんな、圧倒的なフロントマンを擁する、次世代を担う女性バンドを紹介していきたい。


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■Hump Back


 これまでにも、安易にガールズバンドや女性バンドという括りだけで片付けてはいけないと感じるバンドに度々出会ってきたが、そういうバンドがきちんとムーブメントとして確立されてきていることをまじまじと感じたのは、Hump Backを知った時でもある。


 少年のようで少女のような林萌々子(Vo/Gt)の歌声。どこかあどけなさが残るような彼女の歌には淡い乙女心などは存在しない。歌に出てくる一人称は〈僕〉。しかし、それは架空の物語ではなく彼女自身のことでもある。カッコつけるわけでもなく、不貞腐れてるわけでもないリアリティ。はじめて聴くはずなのにどこかで聴いたことがあるような感覚に見舞われるのは、普遍的なメロディが、といったもっともらしい理由ではなく、飾らない“人懐っこさ”を歌に感じるからだろう。


 2009年大阪にて結成。幾度かのメンバーチェンジ、一時期は林のソロプロジェクトとなってしまった時期もあるというHump Back。2016年に現在のメンバー体制になってからの快進撃は目ざましく、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』、『VIVA LA ROCK』をはじめとした大型フェスへの出演など、その堂々たるライブパフォーマンスともに確実にその知名度を拡げている。まさに次世代を担う女性バンドの筆頭格であり、ロックシーン全体を見回しても今もっとも勢いのあるバンドのひとつだ。


■TETORA


 こちらも大阪出身の3人組。今年9月から放送されているユニバーサル・スタジオ・ジャパンのCMにおける、魅惑のハスキーボイスが話題のTETORA。元々はタワーレコード梅田大阪マルビル店限定でリリースされたシングル『イーストヒルズ』(2018年10月)が話題となり、人気が拡がったバンドだ。


 キュッと締まる語尾と独特の息遣い、高音に向かって声がかすれる瞬間にドキッとしながら胸の高鳴りを重ねてしまう。どこかもの悲しく泣いているような上野羽有音(Vo/Gt)のボーカルだが、ストレートなメロディとともにしっかりと力強く響きわたる。そんな歌であるから、サウンドもアレンジも余計なことはしない、いや、要らないのだ。歌に寄り添っていくようなシンプルなバンドサウンドが叙情的に呼応していく。


 特別なメッセージ性があるわけでもなく、共感を呼ぶとか、背中を押す、といったものとも違う。ただ、上野は自分の気持ちに対して真っ直ぐで嘘偽りのない言葉を歌っているだけ。だからこそ、聴く者に響き心を動かされてしまうのだろう。情感と空気感をも飲み込んでしまうこの歌は唯一無二だ。


■東京初期衝動


 運動も勉強も不得意だったけど、楽器を手にすれば無敵になれるような気がした。ロックに憧れていたあの頃の初期衝動を呼び起こしてくれるような、そんな音をかき鳴らすのが東京初期衝動である。


 椎名ちゃん(Vo/Gt)の歌はつっけんどんで、人を寄せ付けないヒリヒリとした感情が迸る。一切後ろを振り向かず、ただひたすらに前に突っ走っている。その様は、媚びも綺麗事もない地に足の着いたリアルでもある。若い女性の、というより“ギャル”ノリの強引で暴力的でもある感性をハードコア&パンクに落とし込み、絶妙なキャッチーさを生み出している。といった、狙ってできるものではない天性と、頭のキレを感じさせる確信犯的なバランス感覚を持ち合わせた比類なきアーティスト魂を彼女から感じざるを得ない。なんだか無条件に心躍らされるメロディは、コードやスケールといった小難しい音楽のセオリー抜きに赴くまま吐き出されたソングライティングだろうと思う反面で、最新アルバム『SWEET 17 MONSTERS』を何度も聴いていると、実はちゃんと考えに考え抜いて制作されているのでは? とさえ思えてくる。


 破天荒で煙を巻いていくような言動であったり、なんだかつかみどころのないバンドであるものの、音楽に対する情熱は人一倍強い。溢れんばかりの激情をそのままに音を鳴らすライブや、“インディペンデント”と表すよりも“DIY”というべきひたむきな活動を取ってみても、バンドと音楽に対する実直で健気な姿勢が、この根拠はないが無敵感を放つ東京初期衝動の音楽を生み出しているのだと思う。


■BRATS


 元LADYBABY、黒宮れい(Vo)の斜に構えたボーカルが噛み付くように襲い掛かり、吐き捨てるようにけたたましく吠えるBRATS。


 己の負の感情を思いっきり叩きつけていくような強さ、最近のロックバンドが忘れてしまったような“アブなさ”と“あやうさ”を持つ。そうしたキケンな香りを漂わせている様は、90年代初頭アメリカでの“Riot Grrrl(ライオット・ガール)”ムーブメントのバンドを思い出してみたりするのだ。グランジ、メタルをも内包するような無骨でヘヴィなサウンドも、どこか90’sオルタナティブロックの隆盛を想起させる。


 アイドル時代から、もっといえば、世に出てきた時から異彩を放っていた、れいのカリスマ性は、アイドルを経てロックバンドのボーカリスト、フロントマンとして結実したと言っていいだろう。狂気的で猟奇的なダークオーラを纏った女性フロントマンを久々に見たのである。


 精力的なライブ活動は国内だけに留まらず、台湾、韓国などアジア進出も果たしている。先日発表されたエイベックスのバックアップによる新事務所と新レーベルの設立、そして7カ月連続配信リリースと、ますます攻勢のスピードを加速させていくBRATSから目が離せない。


 他にも、先日惜しくも活動休止を発表したが、モデルでありインフルエンサーとして10代~20代女性の圧倒的な支持を得ている佐藤ノア率いるsuga/es、UNITEDのベーシスト、故・横山明裕の意思を継ぐ、元PASSPO☆の増井みおがベースボーカルを務めるBabooBeeをはじめ、元アイドルネッサンスの石野理子の加入で生まれ変わった赤い公園など、強烈な個性を持った女性フロントマンのバンドは増えている。得も言われぬ音楽性と不条理なアンサンブルで異彩を放つバンド、tricotのギターボーカル、中嶋イッキュウが、ジェニーハイでギターを持たずにハンドマイクでの新たなボーカルスタイルで多くの人を惹きつけていることは今さら説明することもないだろう。今あらためて言う、女性バンドマン、女性フロントマンがアツいのだ。(冬将軍)