トップへ

松坂桃李が明かす、『いだてん』出演のプレッシャー 現場に呼ばれずフェードアウトを疑った時期も

2019年12月12日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

松坂桃李『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(写真提供=NHK)

 あと1カ月も経たないうちに、オリンピックイヤーを迎える日本。そして時期を同じくして、1964年に東京オリンピックへ情熱を注いだ人々の姿が描かれてきた『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)も終盤に差し掛かり、物語上ではこちらもオリンピック目前だ。


 事務総長を解任されてしまった田畑(阿部サダヲ)の元に岩田(松坂桃李)や松澤(皆川猿時)らが駆けつけたのは第44回終盤のこと。先週放送された第45回では、皆が田畑と作り上げるオリンピックを諦めず、田畑の自宅で裏組織員会が開かれていた。聖火リレーの準備、アフリカ諸国を中心とした世界各国の招致、裏で決めて行ったことを岩田が表(組織員会)で提案し、着々と決議されていく。田畑との二人三脚でスタートした東京オリンピックを諦めなかった岩田の奮闘が印象に残る回だった。


 今回リアルサウンド映画部では、岩田役の松坂桃李にインタビューを行い、『いだてん』の撮影の裏話を聞いた。


【写真】『いだてん』出演時の松坂桃李


■現場に呼ばれず、フェードアウトを疑った時期


ーー松坂さんは、戦後が描かれた後編で主に登場していますが、1回でも姿を見せていたり、撮影のスケジュールはどうなっていたのでしょうか?


松坂桃李(以下、松坂):2018年の9月に撮影に入ってすぐ、上野のロケで「東京」と掲げるシーンを撮ったんですが、その時はいきなりそのシーンの撮影だったので、阿部さんや松重(豊)さんも一緒に、「これはどういうテンションなんだろうねえ」という話をしてたんです(笑)。とりあえず全員が「熱量を大爆発させてやろう!」ということで一致して撮影した記憶がすごく残っています(笑)。


ー一初めにハイライトとなるシーンの撮影をしてから、過去に振り返って撮っていたんですね。


松坂:そのあとちょっと撮影したきりで、そこからうんともすんとも呼ばれず、このままフェードアウトだなって思ってたんですよね(笑)。金栗四三編が始まって盛り上がりを見せていた時に、松重さんと違うドラマでご一緒する機会があって、現場で「(『いだてん』は)もうないね!」と話してて(笑)。でもまだ田畑ブロックが残っている以上は呼ばれることはあるという希望を持っていたので、年を跨いで気持ちをどう持続させたらいいかなと考えたり、初めての経験が多かったです。


ーーすごく間が空いてから岩田が本格的に活躍を見せるシーンの撮影に入った時はどんな感覚だったのでしょう?


松坂:実際のところ、今年もう一度現場に入るまでは、完全にこれはもう役が抜けているなと焦りました。松重さんと「もう、役忘れたよねぇ! 覚えてないよね!」「そうですね」と話をしながら、「でも俺、次ちょっと現場行ってくるんだよ」「わかりました。僕も後から追います」というやりとりをして。実際にもう一度インした日の撮影が、去年もやっていた都知事室だったので、こんな感じでしたねと感覚を取り戻しやすかったというか。ちょっとずつ去年のテンションが戻ってきて、だんだんと田畑さんを中心として、お芝居が定着していく感じがありました。


ーー松重さんがインタビューで、出ない間のスパンが長かったから、視聴者として感情移入してドラマを見て楽しめたと言われていたんですが、松坂さんはいかがでしたか?


松坂:僕も本当にその感覚でした。自分が関わっている作品をお客さん目線で見られることはあまりないんですが、これだけ期間が空くとこういうことになるんだなと新発見でした。治五郎さん(役所広司)の死の回はすごく悲しくなりましたし、3人目の主役が欠けてしまったくらいの悲しさを感じました。


■影響を受けた、田畑スピリット


ーー『いだてん』後編の主人公である田畑さん中心のシーンは、いつも楽しそうだなと感じます。


松坂:現場でも阿部さんのお芝居が本当に面白いです。岩田という役を通じて、阿部さんの芝居を間近で見られるお客さんとして現場にいられたのが、僕にとって贅沢な良い時間でした。裏組織委員会のシーンでは、阿部さんが怒りながら服を脱ぎ始めてしまって、「なに!? もう我慢ならん!」と言ってズボンを下げるんです(笑)。言葉だけでも面白いんですけど、ほぼパンイチ状態になって、「何するんですか、田畑さん!」って言ったら「ちょっと、もう我慢ならん!」ってバーンって家を出ていくシーンがあって、そこが特に面白かったです。


ーー岩田が田畑に付いていく、そこまで惚れる要因って何だと思いますか?


松坂:田畑さんは、僕から見ると嵐のような人で、本来、嵐って避けたいものだと思うんです。でも田畑さんの嵐ってどこか巻き込まれたいと思わせるような魅力を持っているなと。実際に相対してみると、この人はすごいことを起こすんじゃないか、この人と一緒にいると楽しいことがあるんじゃないかと思わせてくれるから、演じた阿部さんの魅力が大きいのかなと思いますね。


ーーもし、松坂さんの近くにそういう人がいたらどうしますか?


松坂:いや、避けたいです(笑)。方向性が一緒であれば乗っかってみたいなと思いますけど、目指すべきところが違うのであれば、ぜひとも避けたいですね(笑)。


ーー松坂さん自身が影響を受けた、田畑さんのスピリットは?


松坂:一つのことを成し遂げるために、田畑さんのように周りの顔色を伺うことなく、こういうことをやろう! というのを全面的に押し出していける人はすごく強いと思いました。それは人を惹きつけるし、何より成功に繋がる一番の近道なんだろうなと、今回の作品を通して改めて思ったことですね。そういう人がいてほしいと自分の中で感じていたりしますし。こんな風に熱く、面白いことができるんだからやってみようよという自分の気持ちを押し出してもいいんじゃないかとは考えさせられました。


■クドカン作品、2回目のオファーに対する心境


ーー岩田は、女性に囲まれるシーンもありましたが、台本を読んだときに役についてはどう感じましたか?


松坂:まず、実在の岩田家の方々に怒られないのかなって(笑)。歴史をひも解いて調べるとこういう状況もあったんじゃないかと言われているので、宮藤(官九郎)さんも、そこに注目してピックアップしたと思うんですけどね。キャラの多面性を見せる上ではエッセンスとして必要だと思いました。


ーー実在の方に自分がなる難しさはありましたか?


松坂:今回は裏で活躍した有名人たちを題材にしているので、あまり詳しい資料が残っていないんです。僕は以前、『軍師官兵衛』で黒田長政を演じさせていただきましたが、その時のように明確な参考資料があるというより台本を忠実にひも解いていくようなやり方でした。


ーー実際に岩田さんのご親族に会われたりは?


松坂:お会いしました。すごく上品で、良い家庭で育ったのだなと感じるご家族で、なんかすみませんと思ってしまいました(笑)。どうですか? とは聞けなかったです(笑)。その日以来、やはり緊張感は高まりました。改めてあんまり好き勝手できんぞ、という気持ちの入れ替えにもなりました。


ーー岩田という役はどういう人柄だと捉えて演じていますか?


松坂:体育会系なので、もともと熱量があってすごく情熱的なんです。ヨットでオリンピックを目指していた過去を持っていて、その後に戦争を経験したりしながらも、オリンピックに関わりたいという強い思いがあって。田畑に惹かれていただけではなくて、岩田自身もオリンピックに対しての並々ならぬ強い思いを持っていたので、その部分を知れたのは演じる上ではすごく役に立ちました。田畑さん、付いていきます! ということもできるんですけど、自分自身のエピソードがあることでより気持ちを作りやすい。自分は選手として出ることができなかったが故に、今度は裏側で東京オリンピックに参加させていただきたいという思いでやれたのは、個人的にすごく気持ちを乗せやすかったです。


ーー今回、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)以来の宮藤さんの作品に再び参加したことで、台本から受け取った宮藤さんからのメッセージなど、感じたものはありましたか?


松坂:2回目のオファーになってくると、プレッシャーでしかないんですよね(笑)。1回目だと、“僕に興味を持っていただけて、本当にありがとうございます。精一杯やらせていただきます!”という思いで振り切ってできるんですけど、2回目になると、“前回とは違ったものを頂戴ね”みたいことを勝手に感じてしまうので(笑)。それが怖くもあり、プレッシャーでもあり、より緊張感が高まりました。


ーー宮藤さんが作った脚本を読んで、どんな作品の魅力を感じましたか?


松坂:『いだてん』は東京オリンピックの裏でこれだけの人たちが動いていて、開催するまでに、並々ならぬ血と汗と涙と鼻水の結晶があったこと、そして人情やその人たちの生き様が描かれているのが熱いなと思って読みました。ストレートに伝わる部分もあり、時には変化球でクスッとさせながらも、この人はこういうことがしたかったんだなとじわじわと後から理解を深めさせてくれるんですよね。最後の方では、1話からの伏線を徐々に回収していくんですが、あぁ宮藤さんの脚本だな、と改めて実感できるので、宮藤さんファンの方も含めて楽しんでもらえる仕上がりになっているんじゃないかなと思います。


ーードラマ全体をみて『いだてん』のドラマの面白さはどこでしょう?


松坂:キャラクターが個性的で、日本の俳優さんの4分の1は出てるんじゃないかなというくらい大勢出ています(笑)。それくらい十人十色で、人物像も異なるのが面白いです。激動の時代の中で生き抜いた人たちが、輝き放っている魅力を目の当たりにするだけでもこの作品の良さが十分伝わるんじゃないかなと思います。


(大和田茉椰)