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ゴールデンボンバー、「かまってちょうだい///」「首が痛い」の共感性の高さ “ファン心理”熟知した2曲を考察

2019年12月11日 13:12  リアルサウンド

リアルサウンド

ゴールデンボンバー『もう紅白に出してくれない』

 ゴールデンボンバー・鬼龍院翔は、ファン第一主義のバンドマンだ。かつてのインタビューでは「すべての判断はファンを基準にするべき」(引用:新R25「金爆・鬼龍院翔に”一発屋で終わらなかった理由”を聞いたら、ファン目線に圧倒された」)と語るほど、ファン目線にこだわっている。そんな彼がつくった“完全ファン目線”の楽曲が、12月28日にリリースする最新アルバム『もう紅白に出してくれない』に2曲収録されている。今回はその2曲をMVの見どころと共に紹介したい。


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■推しへの欲望を歌ったポップなラブソング「かまってちょうだい///」
 「かまってちょうだい///」は、PPPHなどヲタ芸要素が入った電波ソングだ。「さくらんぼキッス ~爆発だも~ん~」で“電波ソングブーム”を巻き起こしたシンガーソングライターのKOTOKOが合いの手を担当していることでも話題だが、今回はこの歌詞が描くストーリーに注目したい。この曲は、アイドル、アーティスト、バンドなどさまざまなジャンルに“推し”を持つ人のラブソングだ。最初は動画を片っ端から見て、物足りなくなったらライブへ足を運ぶ。生で見る姿に感動していたのも束の間で、〈目を合わせたい ファンサちょうだい〉と相手からのレスポンスを求めるようになる。そして行きついた気持ちがタイトルの「かまってちょうだい///」だ。さらに〈今日はまだ目が合わない〉〈もしかして嫌われた?〉と不安になったり、〈キレイになるからオシャレするから ファンサちょうだい〉と自分の外見を磨いてみたり。恋愛にのめり込む少女と変わらない、推しにのめり込んでいくファンの感情の変化がグラデーション的に表現されている。YouTubeのコメント欄では、ゴールデンボンバーのファン以外からも“これは自分だ”という共感の声が多く寄せられていた。もちろん、推しへの熱量は人それぞれだが、この歌詞はグラデーション的に少しずつ濃いものになっていくため、“ここの部分までは共感できる”という人も多いだろう。


 また、この曲がポップなラブソングとして成立しているのは、切り取り方の上手さにあるのではないだろうか。たとえば、相手に嫌われたかな? と不安になる部分をさらに深堀りし、他のファンへのヤキモチや独占欲、果てはファンとアイドルという関係の一線を超えようとする描写を入れることも出来たはずだ。しかし、〈これがLOVEなのね〉とハイテンションに叫び、あくまでも「かまってちょうだい///」という表現に留めている。だからこそ、歌詞の主人公は、この恋を心から楽しんでいるように見えるのだ。この線引きをすることで、批判的に語られがちな「推しへの恋心」を、ポップなラブソングに昇華することに成功している。


 先日公開されたMVにも少し触れたい。この曲はライブ映像がそのままMVになっている。歌詞の舞台ともリンクしているMVの見どころは、全力で踊る鬼龍院翔だ。少しも休まずジャンプしたり、上手と下手をダッシュしたりと運動量は相当のものだろう。その証拠に表情は徐々に苦しそうになる。しかし、歌声が一切乱れないのはさすがの一言だ。ちなみに、イントロで鬼龍院がファンに向かって「無理しなくていいよ」と優しく気遣うシーンがあるが、映像を見ている側としては彼にかけてあげたい言葉だ。


■ライブの魔力をシュールに表現した「首が痛い」
 「首が痛い」は、ヴィジュアル系のファン、いわゆる“バンギャ”を狙い撃ちした楽曲だ。ライブで暴れたバンギャが筋肉痛に悩まされるというだけのごくごくシンプルなストーリーだが、共感性は抜群に高い。ライブへ足を運ぶバンギャなら、誰でも一度は体験する“あるある”だろう。


 しかしよくよく考えてみると、ライブの魔力やバンドマンの力は、恐ろしいものだと思わないだろうか。この楽曲で出てくるヘドバン、拳、ギターソロの“ヒラヒラ”は、あきらかに非日常的な動きだ。ライブハウスを出た日常ではまずやらない、言うなれば、理性があるときには出来ない動きなのだ。〈明日のバイト疲れ果てそう〉と思わせる程に、身体への負担も大きい。しかし、〈もうライブには行かない 絶対行かないからぁぁぁぁぁ〉という歌詞は明らかに前振りで、きっとまたライブに行き、頭を振ってしまうのだろう。“理性<本能”へと、いとも簡単に切り替えさせてしまうライブの魔力に改めて気づかされる楽曲だ。


 さて、この曲のMVの見どころは、何と言っても“コテ系バンドマンになったゴールデンボンバー”だろう。ヴィジュアル系の王道の一つ、黒いエナメル素材の衣装に身を包み、「頭振れ!!」とオラオラ系のバンドマンとして煽る姿はなんとも新鮮だ。対比となるスーツ姿で痛めた首を押さえて踊るシュールなシーンも中毒性が高い。また、ライブハウスの階段を降りるシーンでは、実在するバンドのポスターが映るカットもあり、細部まで楽しめるつくりに。何度もリピートして楽しめるMVだ。


 ステージに立つ者とファンの距離が近づきやすい傾向にある昨今。ゴールデンボンバーは、物理的にではなく、心理的にファンに非常に近い場所にいるのではないだろうか。あまりにもファン心理を熟知したこの2曲を聴くと、そんな風に思えて仕方がないのだ。(南明歩)