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『まだ結婚できない男』前作とは異なるヒロイン像 桑野と向き合う吉田羊は、女性の強い味方?

2019年12月10日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『まだ結婚できない男』(c)カンテレ

 『結婚できない男』から女性キャストが一新した『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)。その中でヒロイン的役割を果たしているのが吉田羊だ。本日12月10日に最終回を迎える前に、吉田が『結婚できない男』シリーズにもたらした新たな魅力や、阿部寛との印象的なやり取り、そして最後に桑野との今後に繋がる接近はあるのか、考察してみたい。


参考:ほか場面写真はこちらから


 『結婚できない男』から13年ぶりの続編『まだ結婚できない男』は、53歳となった阿部寛演じる桑野信介が相変わらず偏屈で独り身を謳歌する日々を送っている。53年間独身を貫き通してきた桑野が今回こそ結婚するのか? というのがドラマの表向きのテーマであるが、桑野と同じく結婚できない女性陣たちの固定概念と建前を桑野がいかに崩していくのかが今シリーズの本当の面白さだと考える。前作で桑野が最後に告白をした夏川結衣演じる早坂夏美に代わり、今シリーズのヒロインとなっているのが吉田羊演じる弁護士の吉山まどか。前作では、桑野が独身の女医である夏美に何かと相談や会話をしたいがために通院し恋愛に発展するというものだったが、今回のまどかは、桑野から中傷ブログに関する相談を受けたことから関係が始まり、何かと弁護士への相談という建前で掛け合いが繰り広げられ、桑野に振り回されていく。


 吉田はこれまで強い女性の役を演じることが多く、ドライなイメージのある役者なだけに、桑野の一言に突き崩されるインパクトは絶大だ。そして吉田がまどかの役としてだけではなく、女性の代表として真っ向から“結婚できない男”桑野の意見を受けて止めているようにも思え、役者としての器量を感じる。また、弁護士という普段は強くてしっかりしている存在が、桑野に触れたことで、周りに気を使い、本心とは裏腹な不器用さが出てくる面白さも前作から引き継がれている。桑野が隣人の女優とのスキャンダル写真を撮られて「泣き寝入りですか?」と桑野が言うと「ご愁傷様です」と言ったり、「お役に立てて何よりです」と一言で切り返す時の演技が、夏美を意識したかのようで懐かしさを感じさせる。


 ドラマの世界観が変わると旧作ファンは寂しい思いをするものだが、まどかという存在がいることで、前作と同じドラマのフォーマットとしては変わらず「桑野は相変わらずやってるなー」と続編として安心して楽しめるようになった。今回は13年後ということもあり、桑野がいかに変わっていないか、または変わったのか、まどかとの丁々発止のやり取りで視聴者に伝える大きな役割を見事に担っているが、それには阿部寛の濃い演技を受け止める吉田の演技力があってこそ。


 夏美と今回のまどかが似ているようで微妙に違うのは、夏美の場合、桑野は恋愛感情的な好意を抱いて相談に行っていた印象を受け、気になる子をいじめる小学生男子のような不器用さに通じるものがあった。今シリーズの桑野の好意は稲森いずみ演じる有希江に対する方が色濃く、まどかに関しては、結婚できないまどかの考えを論破して満足する、友達として会話を楽しむ相手のようにも思える。


 まどかが結婚について「弁護士になるのに司法試験を受けた。それは登る山を決めて登山するようなもの。でも結婚は頂上を目指して山登りするものじゃない。散歩です。偶然の出会いをどれだけ大事にできるか。散歩ってナビを付けるものじゃない」という散歩理論に桑野は「自分の結婚に対して何の努力もしてないことを正当化したいということですか?」と一笑。例え桑野の意見に賛同し、「自分が進んでいる道は間違ってないって思いました」と言っても「そのナビの入力が間違ってないといいですね」と皮肉を言われる。結婚のこと、仲の悪い母親のこと、長年自分を正当化するために言い聞かせてきたことを、逃げるなと言わんばかりに桑野は心に踏み込んでくる。当初は「桑野さんの一番の対処法は気にしないこと」と言っていたが、口喧嘩しあう仲になってからは「桑野さんは正しい。正しいから腹がたつの」と、正論としてしっかり受け止めているところが大人であり、前作の夏美よりも探り合いでなく、徐々に本音でぶつかりあっていってるところが、今シリーズにもたらした新たな魅力と言えるのかもしれない。


 さて最終回だが、吉田も前回9話を前にドラマの公式インタビューで答えていたが、喧嘩ばかりだと思っていた相手が、実は本音でぶつかり合える貴重な存在と気付いた時、途端に相手を意識し始める。その時大人がどんな行動をとるのか。それを前回有希江からまどかは指摘してされ意識し始めるという展開を迎えている。その思いに桑野がいつ気づき、どういう言葉のキャッチボールをするのか。最終回は三角関係の恋愛模様が注目されているが、今までの流れだと桑野とまどかに恋愛感情はないように思われ、どちらかと言うと、裁判で敵対関係にもなるので、それでも男女の友情は成立するのか? というところを注目したい。もうこうなったら一生結婚しないで、『北の国から』のように毎年シリーズ化して桑野の人生を描ききってもらいたいものだ。 (文=本手)