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過剰な"承認欲求"が引き起こす悪い動機──「凄いと言われたい」という思いだけでは人はついてこないことが多い

2019年12月09日 07:10  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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個別指導塾で小中高生、キャリア支援で新卒・中途の方と1000人以上と接した中で、人の原動力になっている様々な"動機"を見てきました。

その"動機"の中には「悪い動機」があります。絶対的に良くない、というより、その動機が強いことでデメリットが生じることが多い動機をそのように分別しました。ここでは分かりやすい例として「承認欲求」を取り上げています。(文:個別指導塾「STORY」取締役 妻鹿潤)

承認欲求だけで突き進むと社会的価値を生み出しにくい

まず、動機の種類を便宜上「良い動機」「良くも悪くもない動機」「悪い動機」の3種類に分けます。

良い動機は「特定の人のために頑張りたい」「会社や家族など集団のために頑張りたい」「世の中のためになることが嬉しい」といったもの。周りにプラスを与えるものです。良くも悪くもない動機は「自分がこうしたい・こうなりたい」というもの。周りにプラスもマイナスも感じさせません。趣味などが主に当てはまると思います。

他方、悪い動機は「認められたい、凄いと言われたい」など。つまり"承認欲求"のことです。その動機が発動すると周りの人間にマイナス感情をわきおこさせてしまうことが多いです。悪い動機には安全欲求など他にもありますが、ここでは分かりやすく承認欲求を例に、悪い動機とする3つの理由を述べます。

1.幸せが他者に依存してしまう

「認められたい」という思いは、自分自身が客観的に凄い所まで到達しても、認めて欲しい人に認めてもらえない限りは幸福を感じません。幸福や人生の主導権を他者に握られてしまいます。

2.社会的価値を生み出しにくい

承認欲求が強いと、社会的価値より"自分"に意識が向いてしまいます。「良い動機の人」と比べると社会的価値を生み出しにくい傾向があると思います。

ずっと「こう見られたくない」と考え続けた人より、「どうすればもっと社会に役立つものができるか」「あの人は喜んでくれるか」と考え続けた人の方が社会的価値を生み出しやすいことが、その一例です。

3.人が離れていきやすい

「認められたい」「すごいと言われたい」が動機で動いていると、人は根本的についてこないことが多いです。もちろん人は自分のために生きてはいるのですが、「自分の為」が「他者や組織、世の中の為」と重なっている人であればあるほど人がついてくる傾向にあります。

強くなってしまった悪い動機を変えるには……

他には「安全な自分でありたい」などの"安全欲求"も悪い動機に入ります。自分に意識が向いてますし、不安や恐怖が源泉なので精神的に負担があります("安全"の範囲が所属集団や組織・世の中まで入っていると良い動機だと言えます)。

また「環境・他者に依存する動機」や「集団の中で優位な状況で発動する動機」もデメリットがあるわけではないものの、使い勝手が良くないです。

人がいなければ満たされないし、「すごいと言われたい」が動機だとスランプや異動などで"初心者"になると頑張りきれずに終わることも多いです。実際、キャリア支援をして多々このような例を目の当たりにしました。

強い動機ほど、その人の性格や考え方とも強く関わっているため、年齢が経てば経つほど変えることは至難の技です。それでも、別の動機を強くしたければ"その動機よりも強い動機"を作ることだと思います。その方法は2つあります。

1つ目は「別の動機が1番目になるほどの強い経験をすること」。例えば、自分自身が大変な時に助けられたり、人生で強く記憶に残るよう事件・事故に遭うなどして強い怒りや不安を感じる経験したりすると、その動機が上書きされることがあります。

キャリアや生き方を大きく方向転換する人は、このような機会があることが多かったです。ただ、これは偶然の産物です。

意図的に変えるには2つ目の「自分自身が別の動機を心から持ちたいと強く想い続けること」。さらに、願ったことで「良かった」と心から思える体験をすることです。簡単なことではないですが、この体験を複数回味わったため変わった人を多く見てきました。

悪い動機は、うまく活用する方法もできます。自分自身の精神衛生上良くなかったり、他者にマイナス感情を与えたりすることもありますが、大きく進むために一時的に使うことも自分自身との上手な向き合い方だと思います。

ただ、できれば強い「良くも悪くもない動機」「良い動機」を1つは持ち、意図的にその動機を引き出せるようになっておくことをおすすめします。そうすることで健康的に、良い人間関係を築きながら、うまく自分自身をハンドリングして勉強や仕事で高い成果を出せると思います。

【筆者プロフィール】妻鹿 潤(めがじゅん)

株式会社STORY 取締役/SB学び事業部責任者・キャリアコンサルタント

関西学院大学法学部卒。大手学習塾で教室長として、生徒・保護者からの信頼を得る。

1000人近くの小・中・高生と、それ以上の保護者と関わり、培った知識と経験から、その生徒に完全オリジナルのオーダーメイドカリキュラムを確立するに至る。地域で評判となり、10か月で100名以上の生徒が入塾するまでになる。

大手個別指導塾で生徒へ価値提供ことへの限界の痛感や、大学や社会でのミスマッチに絶望する現実を目の当たりにしたことから、理想の教育を形にしているSTORYに参画。現在、SB学び事業部責任者として、子供達に点数アップ・志望校合格に加え「社会で生き抜く力」を提供する。