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Tsudio Studioが考える、“音楽”と“旅”に共通する感覚 影響を受けた作品も語る

2019年12月04日 17:51  リアルサウンド

リアルサウンド

Tsudio Studio【撮影:池村隆司】

 80年代ポップスのエッセンスを最新のビートミュージックに乗せ、「架空の神戸」を表現した前作『Port Island』からおよそ1年。神戸在住のシンガーソングライター、Tsudio Studioによる全国デビューアルバム『Soda Resort Journey』がリリースされる。


 今作のテーマは「架空の航空会社『Soda Resort Airline』で行く逃避行の旅」。故郷から遠く離れ、街の喧騒や突然のスコール、海辺のホテルといった異国情緒あふれる景色の中、様々な思いが交錯する12篇のリゾートストーリーが描かれている。サウンドプロダクションは前作の延長線上にありながら、フックの効いたメロディラインはより研ぎ澄まされ、随所に散りばめられたエキゾティックなフレーズが聴き手を「ここではない、どこか」へと誘う。さとうもかやMIRU(JaccaPoP)、ゆnovation、Crystal Colaなどゲスト陣も豪華だ。


 ヴェイパーウェーブ~フューチャーファンクの文脈で語られることの多い彼のサウンドは、ともすれば現実社会から隔絶された「ユートピア」を描いていると思われがちだ。が、実際はそれだけではなく「今、ここ」と分かち難く結びついた世界なのだ、とインタビューの後半で明かしてくれたTsudio Studio。「ここではない、どこか」と「今、ここ」を架空のエアラインで行き来しながら、彼が描こうとした景色とは一体どのようなものなのだろうか。本人に聞いた。(黒田隆憲)


■他の人より音楽のことが好きなのかもしれない


ーーもともとはどんなきっかけで音楽に目覚めたのですか?


Tsudio Studio:僕は今35歳なのですが、僕らが小学生くらいの頃はCDがイケイケの時代で。Mr.ChildrenやGLAYがヒットを飛ばし、クラスでも音楽の話題で持ちきりだったんですよ。当時、家の近くにレンタルCD屋があって、当日返却したら1枚100円になるのでまとめてレンタルとかしてました。その中には洋楽のタイトルも結構置いてあって、映画がすごく好きだったからビジュアルの面白いCDを片っ端から借りていたんですよね。Beckの『Odelay』とか。


ーー当時の洋楽は、クリス・カニンガムやスパイク・ジョーンズらが手掛けたPVも面白かったですよね。


Tsudio Studio:そうなんです。中学に上がる頃、家ではケーブルテレビを導入してスペースシャワーTVやMTVなどを観るようになって。そこで流れていたビョークなどのPVがとにかくカッコ良くて。気がついたら洋楽にも夢中になっていました。その頃は友人たちと、メロコアのバンドをやってたんですよ。ベース担当で、Green Dayとかコピーしてましたね。ただ、Green Dayで一番好きなのは、「Good Riddance (Time Of Your Life) 」というアコースティックナンバーなんですけど(笑)。


ーー宅録にハマるようになったのは?


Tsudio Studio:バンドで録音をしてみたくなり、メンバーとお金を出し合ってカセットMTRを手に入れたんです。当時はカバーばかりやってたんですけど、だんだんと「オリジナルを作らないと意味ないな」と思うようになってきて。ただ、他のメンバーはそこまで熱を入れて活動してなかったんです。他にもゲームなど娯楽はたくさんあって、バンドもそのうちの一つっていう感じだったんですよね。そこで僕は、他の人より音楽のことが好きなのかもしれないことに気付いて。


ーー他のメンバーとの間に温度差があったと。


Tsudio Studio:なので、高校生になる頃にはカセットMTRも僕が独占していて(笑)、それにサンプラーを組み合わせて宅録などしていました。Radioheadにハマったのもその頃で、そこからAutechreやAphex Twinのような、いわゆるエレクトロニカ系の音楽に傾倒していきました。


ーーバンドではベースをやっていたとおっしゃいましたが、例えば和声の仕組みや、グルーヴの出し方など、ベースをやっていたことが今の音楽活動にも生かされていると感じる部分はありますか?


Tsudio Studio:言われてみれば、確かにそれはありますね。自分は成り行きでベースを始めたんですけど、そのおかげで楽曲を俯瞰したり、その仕組みに興味を持ったりするようになったのかも。


ーー以前のインタビュー(indiegrabインタビュー)ではプリンスの『Sign O’ The Times』を特別なアルバムとして挙げていますよね。


Tsudio Studio:プリンスはどのアルバムも好きなんですけど、『Sign O’ The Times』はまずジャケットが好きですね。ドラムセットや楽器が乱雑においてあって、プリンスがちょっとピンボケで前方に写っているんですけど、背後にある全てを背負って前進してやるという、意思みたいなものを感じるんですよね。楽曲では「The Ballad of Dorothy Parker」がめちゃくちゃ好き。美しくて、でもリズムにはヨレた面白さがあって。空間の使い方にしても「音をこんなに削ぎ落としていいんだ!」と思いましたね。それまで聴いていた音楽が「とにかく空間を埋めて音圧も稼ぐ」みたいな曲ばかりだったので、その真逆の発想が新鮮だったんです。


ーーなるほど。エレクトロニカ~ビートミュージックへの傾倒からフライング・ロータスやハドソン・モホークなどを掘る一方で、山下達郎や竹内まりやなど80年代の音楽に惹かれていったのはどんな理由からだったのでしょうか。


Tsudio Studio:親の影響はあると思います。一人っ子で、家族で遠出とかした時に車の後部座席でずっと聴いてたのが山下達郎や竹内まりや、ボビー・コールドウェルあたりの音楽だったので、それが刷り込まれているんでしょうね。」


ーーヴェイパーウェーブやフューチャーファンクなどを聴くようになったのもその流れ?


Tsudio Studio:そうです。80年代の歌モノと、現代の打ち込みがあんなにスムーズに気持ちよく混ざることをフューチャーファンクに教えてもらったというか。「ああ、なるほど!」と思ったんですよね。


ーーヒップホップも好きですか? 様々な素材を組み合わせ、文脈を解体して再構築していくという意味ではヴェイパーウェーブとヒップホップって、方法論的にかなり近いところにあるのかなと思うのですが。


Tsudio Studio:そうなんですよ。だからヒップホップってめちゃくちゃ偉大だなと思います。個人的にはゴリゴリのマッチョではない、The Pharcydeのようなメロウなヒップホップが好きですね。あとは、DJシャドウをはじめ、<ANTICON>周辺のインストグループとか。考えてみれば、エレクトロニカでもAutechreやBoards of Canadaはヒップホップの影響を間違いなく受けているし、フライローやハドソン・モホークなんかもJ・ディラの影響下やし。あと、今思い出したんですけどスチャダラパーの『WILD FANCY ALLIANCE』がメチャメチャ好きで、今作『Soda Resort Journey』のテーマが「旅」なのも、このアルバムに入っている「彼方からの手紙」という曲の影響を受けているのかもしれないです。


ーー前作『Port Island』を、島根のネットレーベル<Local Visions>からリリースすることになった経緯は?


Tsudio Studio:ヴェイパーウェーブやフューチャーファンクと出会ったのを機に自分の音楽性についても色々模索していく中、beef fantasyさんの「VIRTUA BEACH」と、パソコン音楽クラブさんの「SUN DOG」をマッシュアップするアイデアが浮かんできて。さらにサックスを加えてみたら、この感じで自分の曲も作りたいという楽曲になったんです。この方法論を推し進めつつ、以前から考えていた「架空の神戸」をテーマにしたアルバムの構想を結びつけたのが、前作『Port Island』でした。


 ただ、アルバムの構想が固まったのはいいけど、それをどうリリースしたらいいか分からなくて。<Local Visions>は、ヴェイパーウェーブのコンピレーションやAOTQさんのアルバムぐらいしかリリースがまだない状態だったんですけど、捨てアカウントさんという主宰者のセンスやアートワークにめちゃくちゃ共感するものがあって。「ここから(自分の作品を)出せたらいいな」と思ってたんです。そしたら捨てアカさんの方から「うちからリリースしませんか?」と連絡をしてくださったんですよね。自分がリリースしたいと思っているなんて捨て垢さんは知らないはずなので、すごく不思議でありがたい体験でした。


ーーSoundCloudに上げていた音源を聴いてくれたのですね。


Tsudio Studio:そうみたいなんです。それまでも相互フォローはしていて、しょーもないツイートをいいねし合ったりはしていたんですけど(笑)。「音楽も聴いてくれてたんや!」と思って嬉しかったですね。見つけていただいて、リリース出来てよかったです。


 ちなみにアートワークを手掛けてくれた台湾のイラストレーター・低級失誤(Saitemiss)さんは<Local Visions>のロゴを作っていた人で、僕はそのロゴを見た瞬間に「ここで出したい!」と思ったくらい、そのセンスに惹かれたんです。なので、自分のアルバムでもぜひやって欲しくて頼みました。このジャケットを見て興味を持ってくれた人も結構いたみたいなんですよね。僕もジャケ買いをめちゃくちゃする人間なので、それもすごく嬉しかったです。


■Tsudio Studioが特に影響を受けたアルバム


ーーところでTsudioさんは、いつもどのように曲を作っているのですか?


Tsudio Studio:『Port Island』の頃は、まずビートを組んでからコードを乗せ、それを聴きながらラフに考えたメロディをブラッシュアップしていくという作り方が多かったんですけど、最近は鼻歌でメロディを作ってそこにコードを当てていくというやり方が増えましたね。というのも、人からアレンジやミックスを依頼されるようになって、逆にメロディにコードを当てていくという発想が必要になってきたんです。最初はそれが難しくて苦労したんですけど、頑張ってやっているうちにいつの間にか身についてました(笑)。今回、新作について「前作よりメロディが強くなった」と言ってもらえることが多いのは、そうした作り方の違いもあると思います。


ーーでは、ソングライティングの面で特に影響を受けたアルバムを3枚挙げるとしたら?


Tsudio Studio:まずはジム・オルークの『Eureka』ですかね。あとBeckの『Sea Change』、コリン・ブランストーン『One Year』。第一級の名盤ばかりですが、志としてはこういうアルバムに近づけるような作品を作れたらいいなと思っています。


ーーちなみに、映画も好きだとおっしゃっていましたが、映像はどんな世界観のものが好きですか?


Tsudio Studio:通っていた大学に、VHSビデオの膨大なライブラリーがあって。基本的な名作は揃っていたんです。学生時代は暇やからそれを片っ端から観ていたんですよね。映画の知識や映像の美学など、そこでかなり培われたと思います。特に好きな監督は伊丹十三なのですが、映像的なところでいうと、そうやなあ……やっぱりフランス映画になるのかな。エリック・ロメール監督とか、色彩もすごく綺麗で惹かれましたね。赤の使い方とか印象に残っています。


ーーでは、今作『Soda Resort Journey』についてですが、「架空の航空会社『Soda Resort Airline』で行く逃避行の旅」というコンセプトになっているんですよね。


Tsudio Studio:自分としては、コンセプトってそんなに重視するタイプではなかったんですけど、前作で「架空の神戸」をコンセプトにした作品を作ったら、そこを入り口に聴いてくれた人が思いのほか多かったんです。それで思い返してみたら、確かに自分自身もとっ散らかったアルバムよりは、何か全体的に一つのテーマに貫かれたアルバムの方が好きだということに気づいて。


ーー今、挙げてくれた3枚も、そういうタイプのアルバムですしね。


Tsudio Studio:そうなんです。なので、今回もまずはテーマを決めてから作りたいという気持ちがあって。それでいろいろ考えていた時に「旅行」というキーワードが思い浮かびました。最初に話したように、家族が旅行好きで、その影響で今も「旅行」というといいイメージがあるんですよね。音楽を聴くという行為も「旅」に近いというか。海外の音楽を聞くと、その国のこととかイメージしたり、旅しているような気分を味わえたり するじゃないですか。そこで「『Soda Resort Airline』という架空の旅行会社が企画した世界ツアー」をテーマにアルバム制作をすることに決めました。


 しかも、複数の登場人物による群像劇なんです。出てくる人たちは、故郷から遠く離れたところで恋人と喧嘩したり、旅を堪能していたり、疲れてぼーっとしている感じだったり。そういう異邦人ならではの感情を詰め込み、曲順にもこだわりながら作りましたね。


■逃避的な音楽を作っていても、現実社会からは切り離して考えられない


ーー「<Local Visions>の『旅』三部作にしたい」ともおっしゃっていました。


Tsudio Studio:<Local Visions>からは、wai wai music resortさんが『WWMR 1』、Gimgigamさんが『The Trip』という旅をテーマにしたアルバムを出していて。それもいいなと思っていたんですよね。今、仲良くさせてもらっているPictured Resortさんも、名前にリゾートって入っているし(笑)。その辺りからの影響もあると思います。


 あと、三部作といえば細野晴臣さんの『トロピカル・ダンディー』『泰安洋行』『はらいそ』というトロピカル三部作とか、まさに旅じゃないですか。インナートリップなところもありつつ、異国を旅しているような気持ちにさせてくれて。それが昔からすごく好きだったんですよね。今作ではそれらに加えて『omni Sight Seeing』に最も強い影響を受けました。個人的にも細野さんの作品の中で一番好きな作品です。「ここじゃない、どこか」へ行けるのが音楽の好きなところだし、自分自身も逃避的なところがあるので(笑)、聴いてトリップできるようなアルバムというのは、目指したところではありましたね。


ーーゲストミュージシャンは、海外からも多数参加していますね。


Tsudio Studio:音楽活動をしていく中で、海外の人と友達になれたのも大きいです。今回、参加してもらっている台湾のボーカリストMandarkさんや、韓国のイラストレーターSeoyoung /tototatatuさんもそうですし、それ以外にも海外のヴェイパーウェーブ勢と神戸で共演したこともありました。音楽を通じて世界の人とつながるというのが夢だったので、それが現実味を帯びてきた気がします。


ーー韓国からはNight Tempoさん、インドネシアからはikkubaru、台湾には閃閃閃閃(ザ・シャイン&シャイン&シャイン&シャイン)など、渋谷系~シティポップサウンドが同時多発的に出てきて面白い状況になってきていますよね。実際に韓国や台湾、インドネシアなどに行ったことは?


Tsudio Studio:韓国はまだないので行ってみたいです。台湾は、それこそMandarkさんが案内してくれて、めちゃくちゃいい思い出になっています。あとインドネシアはバリ島に行ったことがあるんですけど、スコールがすごくて、かなりカルチャーショックを受けました。今回、JaccaPoPのMIRUちゃんに参加してもらった「Squall Lover」は、その時の経験が基になっています。


ーーサックスソロが随所に散りばめられていて、それもアルバムの印象を決定づけていると思いました。


Tsudio Studio:サックスの音って好きなんですよね。快楽と直結しているというか。純粋に心地よい。


ーー僕は10代前半の頃に80年代を経験して、当時巷にあふれていたサックスソロに当てられてしまったというか、ちょっとエロすぎて苦手だったんですよ。


Tsudio Studio:ああ、それめっちゃわかります!(笑)。僕も、好きと嫌いが紙一重というか。


ーーそうなんです。でも、それこそTsudioさんのアルバムや、他のアーティストでもサックスがフィーチャーされている曲を聴くと心地よくなってきている自分がいるんですよね。


Tsudio Studio:そういうのって、何なんでしょうね(笑)。もう、今となっては昔の感覚に戻れないから、分析のしようがないんだけど、でもほんと時代によって好き嫌いの価値基準って変わりますよね。しかも、それが共通認識としてみんなで共有しているのが面白いなって。


 こじつけなのかもしれないけど、今、経済的に低迷していて、豊かだった頃の音楽が染みるというか。集合的無意識というか、社会全体の空気みたいなものが、そういう音楽を求めているのかなと思うこともあります。それを思うと、いくら逃避的な音楽を作っていても、現実社会からは切り離して考えられないというか。「集合的無意識」が、自分という媒体を通して歌詞に反映されているような気もします。


ーーとても興味深いです。


Tsudio Studio:僕はTwitterとかよく見るんですが、流れてくる情報はあまり受け止めすぎず、俯瞰するように心がけてはいるのですが、そこで自分の中に溜まっていったものを、音楽の力によってすくい取るみたいな感覚というか。メロディを歌いながら適当に歌った歌詞の中に、実はそういう無意識から出てきた言葉があるんですよね。これまでずっと、自分は内面から出てくる音だけをカタチにしているつもりだったんですけど、それだけじゃないんだなって。


ーーカオスの中から秩序を見出すのがクリエイティブだとしたら、あまり情報を整理せず、とにかくインプットしまくって熟成させることも大事なのかもしれないですね。


Tsudio Studio:それはものすごく共感します。最初にも言いましたが、何も考えずに映画を見まくったり、レンタルCDショップで音楽を借りまくったりしていたのが、今も財産になっていますし。あとは、聴いてくれた人の反応ですよね。「そうか、僕の音楽はこんなふうに受け止められているんだ」という手応えが、次の作品にも影響を与える。架空の神戸を舞台にした『Port Island』への反応がなかったら、旅をテーマにした今作は生まれなかったと思いますし。そうやって、今作の反応がまた、次のアルバムのモチベーションになったらいいなと。


ーー実際、次のアルバムのことはもう考えていますか?


Tsudio Studio:はい。まだ漠然としているんですけど、なんていうか……身体的なアルバムを作りたいんですよね。それは「ダンサブル」とかではなくて、もっと官能的というか。


ーーああなるほど。確かに今作には、それこそBeckの『Sea Change』にも大きな影響を与えたセルジュ・ゲンスブールのデカダンスな雰囲気は感じますよね。


Tsudio Studio:それはめっちゃ嬉しいです。エロティックなものを音楽に求めているところは常にあるので。「エロいアルバム」というと言葉は強烈すぎますけど(笑)、音にしてもすごく官能的なものを作りたいです。ただ、まだあまり言葉にしたくなくて。今、ふわっと言えるのはそんな感じですね。(黒田隆憲)