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『まだ結婚できない男』は前作と何が違う? 女性キャスト総入れ替えで変化した「独身男女」の描き方

2019年12月03日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『まだ結婚できない男』(c)カンテレ

 13年前、仕事ができて見映えも悪くない建築家・桑野信介(阿部寛)の独身道を描き、人気を博した連ドラ『結婚できない男』がリアルに13年後の設定で『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系/火曜9時~)として帰ってきて2か月。前作では、桑野と同じく仕事ができて見映えも悪くない医師・早坂夏美(夏川結衣)とうまくいきかけたにもかかわらず、タイトルどおり、13年経ってもまだ結婚できない(してない)桑野の前に、仕事ができて、見映えも悪くない(こればっかり)弁護士・吉山まどか(吉田羊)が現れ、桑野は夏美のときと同じく、彼女をにくからず思いつつも素直になれないまま日常が続いていく。


 11月26日放送の第8話では、後輩・村上英治(塚本高史)の結婚式のスピーチで、すったもんだの末、飾らない素直な後輩を想う気持ちを語り、登場人物も視聴者をもじわっとさせた。いつだって厭味ったらしくなんでもかんでも批判する取り付く島もない桑野の意外な人情がにじみ出たこと、まどかからその結婚式の楽しい写真を送ってもらった桑野がSNSに投稿したのは、まどかがブーケに飛びついているもので、それに「いいね」がたくさんついて悦に入る桑野の表情もいい後味を残した。


 『まだ結婚できない男』で桑野はネットを活用、エゴサーチをしたり、婚活アプリを利用したり、SNS投稿をはじめたり(すごく凝った写真を撮るところが桑野らしい)している。そんなふうに時代の変化はあるも、基本、桑野は変わっていない。住んでいる分譲賃貸マンションも、生活っぷりも偏屈な性格も変わらない。変わったのは年齢と建築家としての世間的な評価が上がっていることくらいだ。あとは、仕事ができて、見映えも悪くない建築家・桑野が、同じく仕事ができて、見映えも悪くない女性と互いに憎からず思いながらも素直になれないじれったさを描くパターンはそっくり同じ。桑野のマンションの隣に住む女性がいることも同じ。前作では田村みちる(国仲涼子)、続編では女優の卵・戸波早紀(深川麻衣)。ふたりはパグ犬を飼うところまで同じである。ちなみに、前作の8話を見返すと、桑野が預かったパグを夏美がさらに預かって、散歩の途中で首輪が外れていなくなってしまい必死で探し、水の中に入るほどの愛情を見せてしまう桑野の隠れた人情が描かれていた。続編8話のスピーチからにじみ出る桑野の人情と同じパターンである。話の流れまで同じなのだ。脚本家の尾崎将也と演出家陣が同じだけあってそこはブレていない。


 続編ではほかに、離婚したばかりの雇われカフェ店長・岡野有希江(稲森いずみ)が登場し、彼女が少し桑野に好意的である。それは前作の桑野の同僚・沢崎摩耶(高島礼子)のポジションに近いが、長年の仕事の同僚という関係の摩耶のほうが有希江より強い。


 設定の近いところやや違うところはさておき、なんとなくまどかとの関係が夏美よりもまだ深まっていない印象がある。桑野との関係しかり、夏美自身のおひとり様ライフ描写が前作よりも薄めになっている。もし、前作原理主義者が多いとしたら、これが要因ではないだろうか。前作の夏美はダブル主人公のような印象もあり、理想的な相手役だった。桑野となんかかんか反発しあいながらもうまが合ってそうな感じがよく出ていたし、桑野のような面倒くさい男を夏美はうまく操縦できるだろうと思わせた。夏美は、じつに飾らないシャツにチノパンでも美しく健康的な色気もあって爽やかで。桑野とも一見さばさばしている関係ながら医者である夏美は桑野の痔という恥部を知っているという、つまり最初からマウントをとっていて、そこも安心して見られるドラマになっていたのだと思う。正直、うまくいくに違いないことがわかったうえでドラマが発進していたから楽しめたところもある。結果、ようやく素直になれる最終回に溜飲が下がった。しかも、結論をはっきり書かず、余韻を残したからこそ長く記憶に残るドラマになったともいえるだろう。だからこそ続編企画が成立したと思うが、続編での第一話で夏美とは結局破局、彼女はほかの人(しかもお金持ち)と結婚してしまったというセリフで片付けられてしまう。この展開に、ジュブナイル小説の名作『若草物語』の主人公ジョーが仲の良いボーイフレンド・ローリーと結婚しないで、彼はジョーの妹と結婚してしまう続編を読んだときの落胆を思い出した。物語にもくっつきそうでくっつかないことがあるように、現実ではもっとそういうこともあるものとはいえ、夏美がふつうの資本主義的な幸せを獲得してしまったことがショックである。結婚できないヘンな男を受け止めてくれる理想の女性像だったのに……。


 この状況で相手役になるまどかは明らかに不利である。演じている吉田羊は10年代のさばさば、受け止め系女優ではあるが色気成分やや多めで、バーのママや小料理屋の女将的な色気を若干感じてしまうのだ。しかも年齢非公開とはいえ阿部より十歳ほど若い。高島礼子も稲森いずみより圧倒的にサバサバし、同世代の男性と対等に生きているところが良かったし、つまり、前作のほうが独りで生きる人生を男女対等に描いていて、多様性を謳う現代にできた続編のほうが、男女差ができてしまっているように見える。13年前と比べ阿部寛が俳優としてより圧倒的に大物になってしまい拮抗する相手役がいないのだろう。それがまた、年齢を経て独身を貫くことのリアルを感じさせるではないか。なるほど、ある程度年齢を経た独身男性がかなり年下の女性と結婚するのはこういうことか。(文=木俣冬)