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嵐、『ベストアーティスト』で見えたグループの“現在”と“これから” 「君のうた」「Turning Up」のパフォーマンスを振り返る

2019年11月30日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 11月27日夜7時から4時間に渡って生放送された『日テレ系音楽の祭典 ベストアーティスト2019』(日本テレビ系)で、嵐が自身初のデジタル配信シングル曲「Turning Up」を披露した。この曲はグループのデビュー記念日である11月3日に配信リリースされて以降、ライブや音楽番組などでの披露は一切されておらず、櫻井翔が総合司会を務める同番組にて初めてフルサイズでパフォーマンスされることになった。


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 同番組では「Turning Up」以外にも、今年日本テレビ系のラグビーワールドカップ中継テーマソングとして注目を集めた「BRAVE」、そして「ジャニーズ青春ドラマメドレー」内で先輩であるKinKi Kidsの代表曲「愛されるより 愛したい」を披露。番組のクライマックスでは「Turning Up」を中心としたスペシャルメドレーをパフォーマンスし、ファンにとっては嬉しい限りの盛りだくさんな内容となっていた。


「皆さんとより近く、より早く、一緒に過ごしていきたいと思っています」


 これは、嵐のSNSデビューをはじめとした新たな試みについて番組内で聞かれた際に松本潤が答えたものだ。その言葉を皮切りに披露されたこの日のパフォーマンスは、嵐にとっても日本の音楽シーンにとっても新たな世界が開かれたことを感じさせる、ある種のセレモニーのような特別感に満ちたものだった。


 スパンコールが散りばめられたジャケットが印象的な全身黒の華やかな衣装に身を包んだメンバー。彼らはスペシャルメドレーの1曲目として「君のうた」を歌唱した。これは、昨年10月期に放送された相葉雅紀主演のドラマ『僕とシッポと神楽坂』(テレビ朝日系)の主題歌に起用されて以来、幾度となく披露されてきた楽曲だ。ドラマの内容に沿って制作されたはずだが、結成20周年を迎えた今耳にすると、なんだか聴こえ方が変わったように思える。実際、櫻井は同曲について「嵐とファンの曲」とコメントしていた。〈いつか巡り逢える虹の橋で/同じ夢を見よう〉〈共に過ごした この街の記憶が ずっと輝けるように〉ーー高らかに歌い上げられるメッセージは、20年間をひたむきに走り続けてきた5人自身への、そしてそんな5人を見つめてきたファンへのラブソングのようだ。いわば、「君のうた」は様々な点からグループとしての転機を迎えた“2019年の嵐のテーマソング”だと改めて実感した。


 対して、その後披露された「Turning Up」から色濃く感じられたのは、“これからの嵐のテーマソング”であること。同曲では、ミクスチャーなアプローチが効いたチルなサウンドと、それに相反するテクニカルで歯切れの良い振り付けが目を引く。


 注目すべきは、振り付け自体はキャッチーさはないものの、5人が踊ることによって唯一無二の華やかさと印象深さが感じられる絶妙な仕上がりになっている点だ。ヒップホップの音感が指の先まで染みついているかのようなリズム感と豪快さが光る櫻井。ダイナミックながらも不思議な優雅さを感じられるしなやかな所作が印象的な相葉。曲線的な振り付けが一際セクシーに決まる松本。時にハンサムに、時に可愛らしさすら感じられる豊かな表情が魅力的な二宮和也。そして指の先まで洗練された無駄のない動きで魅了する大野智。5人それぞれの個性を媒介することによって、振り付けの魅力、楽曲の魅力がより一層引き立てられる。


 のびのびと、全力でパフォーマンスする5人の姿からは、20年間アイドルとして最前線を駆け抜けてきた国民的グループとは思えないほどの瑞々しさと、20年の年月で培われた大人のアイドルとしての余裕が感じられた。日本のアイドル楽曲としては良い意味で異彩を放つサウンドの力や、〈世界中に放て Turning up with the J-pop!〉のワンフレーズからは国境を軽やかに越え、世界中にJ-POPを広めていこうという新たな決意がひしひしと伝わってくる(サビ部分が比較的真似しやすい振り付けになっているのも、そうした意識によるものであるように思える)。


 パフォーマンス前に、司会の羽鳥慎一からSNSを使いこなせているかどうか質問された相葉が「正直、ついていけません!」と照れくさそうな表情で答えていたのも印象深い。決して器用なエリートタイプではない嵐のなかでも一際不器用で実直なイメージの相葉から飛び出した素直な言葉は、新しい方法でのファン/リスナーとのコミュニケーションの方法を模索し、恐れずに挑戦を続けていこうという心意気を感じるさせた。


 同放送で、YouTubeではリーチしきれなかった層にも「Turning Up」が浸透したのは間違いないだろう。国内外を問わず「嵐」という扉からJ-POPに触れ、その奥深さを知っていくリスナーは、今後どんどん増加していくはずだ。“J-POPの入り口”としての役割に誇りを持ち、積極的に世界と繋がろうと歩みを進める嵐の、まるでデビュー曲を披露するかのような決意と自信に満ちた姿に胸が熱くなるパフォーマンスだった。(五十嵐文章)