2019年11月29日 18:52 弁護士ドットコム
自身のウェブサイト上に他人のパソコンのCPUを使って仮想通貨をマイニングする「Coinhive(コインハイブ)」を保管したなどとして、不正指令電磁的記録保管の罪(通称ウイルス罪)に問われ、一審・横浜地裁で無罪判決を受けたウェブデザイナーの男性の控訴審第2回公判が11月29日、東京高裁(栃木力裁判長)であった。
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この日は、裁判官職権による被告人質問が行われた。男性は、検察官からの質問を全て黙秘した。弁護側の質問で、黙秘の意図について「揚げ足取りのような質問で、地裁でいただいた判決を無駄にしたくなかった」と説明した。
判決は、来年2月7日午前10時半に言い渡される。
被告人質問は、裁判官の質問から始まった。
<男性はローカル環境でテストした上で、自身のサイトに設置するコインハイブをCPU使用率50%の設定にしていた>
裁判官からテストした理由を問われると、「見ている方に不快感を与えないことが重要だった。負荷をかけたくないと思った」と言い、CPU使用率50%では、パソコンの動作が重くなったり、ファンがうるさくなったりするなどの変化がほぼなく、「ユーザーに不利益を与える設定ではないと思った」と話した。
<男性は2017年9月、ウェブメディアの記事でコインハイブを知って導入した。その記事では「無断でテストをしていたことはとがめられるべき」という否定的な評価も紹介されていた>
こうした否定的な意見をどう考えていたか問われると、「コインハイブに限らず、ウェブ広告も含めて、お金を稼ぐことにネガティブなイメージがあるので意識していた」と答えた。
<男性はサイトにコインハイブを設置したあと、サイトの閲覧者からツイッターで「コインハイブを動かしているのは意図してのことか。ユーザーの同意なくコインハイブを動かすのは極めてグレーな行為な気がする」といった指摘を受けた。男性は「設置しているのは意図的です。個人的にグレーとの認識はありませんが、同意を得るように検討します」と返した>
裁判官は、ツイッターでの指摘をどう捉えていたかを入念に尋ねた。
(裁判官)ツイッターの指摘は意外だったか
(男性)意外でした
(裁判官)事前に知っていた否定的な意見と違ったか
(男性)具体的にはあまり考えていなかった
(裁判官)ユーザーに隠れてお金儲けをしているといった否定的意見があった。この意見と同じと思ったか
(男性)ツイッターで指摘した人は、ユーザーというよりも、コインハイブを使っているサイトを探していたので、ユーザーとは違う意見という捉え方をしていた
(裁判官)それはどんな人か答えているから噛み合っていない。事前に言われていた意見と同じような意見が述べられていたか。ツイッターの指摘は「グレーゾーン」という言い方をしていた
(男性)おおむね同じです
(裁判官)グレーではないと思っていたか
(男性)はい
(裁判官)グレーでないと思っていた根拠は
(男性)はっきりとしたことは考えなかった
(裁判官)ツイッターで指摘を受け、あなたは「同意を得るように検討します」と返答しているが、なぜか
(男性)確かに不快に感じる人がいるのは理解できたので、そう答えました
次に、検察官からの質問が始まった。
検察官は、
・マイニングすることについてユーザーから了解を得る仕組みにしなかったのはなぜか
・ページにマイニングをすることについて、注意書きのテキストを載せることができたのではないか
・1回クリックするくらい利便性に影響はないのでは
・なぜ無断でマイニングすることが許されるのか
など30ほど質問したが、男性はほぼ全てに「黙秘します」と答えた。
検察官は、「なぜ黙秘しますか」、「間違いないのか聞いている」と語気を強める場面もあったが、男性は「お答えできない」、「地裁で答えた通りです」などと黙秘を貫いた。
最後に、弁護人からの質問があった。
男性は、検察官からの質問に全て黙秘したことについて「弁護人と相談した上で決めた」と説明。弁護人に「何か答えたくない、後ろめたいことがあったのか」と尋ねられると、「そんなことはありません。ですから、裁判官からの質問には全て正直に答えました」と話した。
続いて、弁護人は、裁判官が尋ねたツイッターでの指摘における「グレー」という言葉の意味を尋ねた。男性は「犯罪じゃないかという指摘」と捉えたといい、「記事で(コインハイブを)歓迎しない人もいると知っていたが、犯罪かどうかの論点は初めてで意外に感じた」と説明した。
男性のサイトは、収益にめどが立たなかったこともあり、2019年1月に閉鎖している。アドセンスにより月数千円の収益があったが、運営費に月4~5千円かかったため、赤字だったという。サイトを会員制にすることは「技術的に難しく、ボーカロイドを独り占めして収益をあげたくなかったため、考えなかった」と話した。
サイトは最大で月間10万PVに達し、サイト訪問者は月間5万人程度だった。閉鎖を残念がるメッセージが複数寄せられたというが、現在サイトに掲載していた情報は全て削除され、読むことができない。
男性はウェブ制作の仕事をしているが、事件に関連して、顧客や同業者から差別を受けたり意地悪をされたりしたことは「全くない」と答えた。事件については「これが犯罪となったら、JavaScript全般が犯罪になってしまう」といった感想が寄せられているという。
また、正しいプログラムか不正なウイルスかの区別がつくか問われると「よくわからなくなっている」と答え、どのような条件が揃えばウイルスであるか具体的に示されていない状況について、「この業界でインターネットを使って仕事をする上で不安な状況だ」と話した。
一審・横浜地裁(3月27日)の無罪判決については、「これまでやってきたことを認めていただいたようで救われた気持ちだった」と振り返った。検察官による控訴は「これからも裁判が続くことを考えて残念に思った」と話し、検察側が追加の技術的証拠を出していないことについて「残念ですし、よくわからないのが正直なところ」と疑問を呈した。
男性が、「日本ハッカー協会」協力のもと、控訴審の費用をクラウドファンディングでつのったところ、約1140万円が集まった。こうした支援について「金銭的支援や応援の言葉をいただき、自分の技術者としての感覚がおかしくなかった、間違ってなかったと証明されたようで救われた」と感謝を述べた。