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『スカーレット』喜美子、大きな岐路に 時代のうねりの中にある“世代交代”

2019年11月28日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『スカーレット』(写真提供=NHK)

 八郎(松下洸平)から、絵付けの師匠・深野(イッセー尾形)が丸熊陶業を去っていくという話を聞いた喜美子(戸田恵梨香)。ようやく拠り所を見つけることができた彼女にとって、これは由々しき事態だ。


【写真】戸田恵梨香インタビューカット


 連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)第52話では、この深野の事情を知った喜美子が思い悩む姿が描かれた。


 前回の第51話では、喜美子の末の妹・百合子(福田麻由子)の家庭訪問があり、教師が川原家までやってきた。そこで繰り広げられたのは、いわゆる進路相談というもので、これに喜美子も同席したのだ。そしてこの場で、百合子の短大に行きたいという思いが露わになったのである。“お姉ちゃん”のことが大好きな百合子は、喜美子の背中を見て育ち、追いかけてきた。彼女も喜美子同様、自身の中にある、何か秀でた才能を伸ばしたいのだという。年の離れた妹とあって随分と可愛がってきたが、根にあるそのたくましさに助けられたことが、喜美子は何度もあるはず。やはりここでの衝突が避けられないのが、頑固オヤジ・常治(北村一輝)の存在だが、何とか力になりたいところである。


 さて、百合子の進路への心配も大切だが、喜美子はどうだろう? 八郎から聞いた話だと、深野先生は会社を去ったあと、長崎の方へと向かうらしい。引退して静かに余生を過ごすものかと思いきや、そうではないのだ。彼は、長崎にいるまだ30代の若い絵付け師の弟子になるのだという。手紙に自分の年齢を書かなったというのが深野先生らしい。これからは火鉢だけでなく、さまざまな工芸品に絵付けの技術を活かしていくのが真の目的のようである。年齢もキャリアも地位も名声も関係なく、つねに新しいものを学んでいこうという姿勢。それが深野心仙という芸術家の姿なのだろう。


 時代は流れ、どんどん変わっていく。世の中には“世代交代”というものがある。喜美子は丸熊陶業にとって、それに深野先生に対して、自分の絵付けのデザインが採用されたことによって、図らずもこの狼煙を上げてしまったように思える。それは決して悪いことではないが、尊敬と信頼ができる存在を信楽でも見つけることができたのに、それがなくなってしまうというのは辛い。それに会社には、喜美子を“マスコット”としてしか見ない向きもある。いま丸熊陶業の目玉は、看板ガールの喜美子なのだ。だが社長(本田大輔)は、「無理して丸熊陶業にしがみつく必要はない」と口にしている。時代のうねりの中、喜美子は大きな岐路に立たされているようである。


(折田侑駿)